TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 ニューヨークの街を歩いていると、初めて来たはずなのに見た事がある場所に遭遇するということがある。デ・ジャ・ヴかと思いきや、映画の中に出てきた場所だったんだと思い当たる。この街が舞台となった名作は数多く、また現在も日常的に映画やTVの撮影がいたる所で進行中だ。お気に入りの映画に登場したあの場所ってどこにあるのかなと、映画ファンなら誰でも一度は思った事があるはず。そこで映画やTVのロケが行われたスポットをこのコーナーで紹介してみよう。

 今回はハーレムのランドマーク的存在のジャズクラブ、レノックス・ラウンジを訪れてみた。過去何度も映画やTV、またミュージックビデオが撮影されているクールな場所だ。ジャズの歴史が息づく街、ハーレムに1939年にオープンして以来、60年以上存在している老舗だ。昨年4月にリニューアルオープンされたが、アールデコ・スタイルのレトロなインテリアは現在も変わらず当時の雰囲気をそのまま伝えている。かつての常連シンガー、ビリー・ホリデーが当時座っていたお気に入りのブースが今も予約席として残され、まるでひとつのジャズ伝説を物語っているかのようだ。

 作家ジェームス・ボールドウィンやアフリカンアメリカン開放運動の指導者マルコムXもまたこのクラブを訪れ、ブラックエリートの社交場としても歴史上名高い。そしてもちろん、数多くの伝説を作ったジャズ・ミュージシャンたち、ルイ・アームストロング、カウント・ベイシー、エラ・フィッツジェラルド、デューク・エリントン、マイルス・デイビスらがこのクラブで名演奏を繰り広げた。



 今もスリングドアで仕切られたバーの奥はゼブラルームと呼ばれ、ハーレムでは唯一、グランドピアノが設置されたステージと客席になっている。週末ともなれば地元はもとより、ダウンタウンや世界各地からハーレムの生のジャズを聴きに人々がやって来る。特に木曜日の夜に行われる“Jam Fest”は、若手とベテランのミュージシャンが入り乱れてのジャムセッションが大盛況。ジャズ好きのセレブもお忍びで来ることがあるらしく、マドンナやシャロン・ストーンらが来店したらしい。

 ハーレムの歴史を語るには欠かせないこの場所で、ダイアナ・ロス主演の『ビリー・ホリディ物語 奇妙な果実』('72)やスパイク・リー監督、デンゼル・ワシントン主演の『マルコムX』('92年)といった伝記映画の撮影が行われた。またアルバート&アレン・ヒューズ監督の『デッド・プレジデント』('95)や最近ではサミュエル・L・ジャクソン主演の『シャフト』が話題になったばかり。TVシリーズでは「Law&Order」がここで撮影された。セットではなく実際のロケ地で時代の雰囲気や映画のイメージを醸し出せる場所は、NYでもざらにはない。そういった意味でもレノックス・ラウンジは貴重な存在なのだ。

★Lenox Lounge
288 Lenox Avenue, NY
( Between 124th St. & 125th St.) 212-427-0253



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