TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 NYカルチャーの発祥地、リンカーン・センターのミツィE.ニューハウス劇場で、スクリーンにも登場するおなじみの役者が出るプレイが行われている。ブロードウェイやオフ・ブロードウェイの舞台は通常馴染みのない役者の出演が多く、余程の機会がない限り映画の何倍もする観劇料を支払ってまで観ようとは思わない。でも今回上演されているジョン・ロビン・ベイツ作の「Ten Unknowns」はなんといってもあの超個性派俳優ドナルド・サザーランドと、おまけに人気TVシリーズ「ER/緊急救命室」の婦長さん、ジュリアナ・マルグリースが出演しているのだ。もう還暦に突入している生サザーランドを見逃す手はない、というわけで早速開演2日目に足を運んだ。もちろんこの日のチケットはソールド・アウト。やはり大物俳優と人気女優が出てると、それだけでチケットの売れ行きが違うらしい。ちなみに全公演チケットがすでにほぼ完売となり、今年の秋に舞台はオフからブロードウェイに移動して上演される予定だ。

 さて今回の公演が行われているリンカーン.センターは、メトロポリタン・オペラやニューヨーク・フィルの定期公演など出し物によっては上流階級の方々がドレスアップして行くような、超スノビッシュで場所である。NYフィルム・フェスティバルもここで開催され、NY芸術のメインストリーム的な存在。そして入場料が高くて敷居が高いし、観客年齢層も高い。ミーハーな気持ちで「ドナルド・サザーランドってキーファーのお父さんだしナマで見てみたい」、などと言う観客は決して誰一人いないだろう。ハイソな観客はインターミッションの時も「ドナルドってオヤジのくせにセクシーだよな」とか、「ジュリアナはTVより可愛いんじゃないか」とかいう下世話な話題は一切せず、難しい芸術的批評を熱心に繰り広げているといった雰囲気。ブロードウェイに移動するとまた客層も違ってくるだろう。


Ten Unkwon Poster
 「Ten Unknowns」の設定となっているのはメキシコ南部のとある町、1992年。ストーリーはこの町に移住して28年になる酔いどれ画家マルコム(ドナルド・サザーランド)を中心に、彼のアシスタントの新鋭画家ジャド(ジャスティン・カーク)、ニューヨークから来た画商トレヴァー(デニス・オハラ)、生物学専攻の女子大生ジュリア(ジュリアナ・マルグリース)によって展開する。ジャドとトレヴァーは元ゲイのカップル、マルコムはジュリアに恋心を燃やし、という人間模様だが決してコメディではない。タイトルとなっている「Ten Unknowns」は、画商が展覧会のためにNYに持ち帰ろうとしている画家の未発表10作品を意味する。作品を生み出す芸術家の苦悩をとらえた奥深い舞台だ。

 ドナルド・サザーランドについてはいうまでもないと思うけど、昨今ではキーファーの方が知名度が高いかも。1952年に初舞台を踏んで役者の道をスタートして以来、今まで104本のフィルムに出演している。代表作はロバート・アルトマン監督の『M★A★S★H』('70)、フェデリコ・フェリー二監督『カサノバ』('76)、ロバート・レッドフォード監督『普通の人々』('80)。最近ではクリント・イーストウッド監督主演の『スペース・カウボーイ』(00)に出演、『ファイナル・ファンタジー』(01)では声優としてDr.シド役でクレジットされている。TVドラマシリーズ「Citizen X」('95)でエミー賞とゴールデングローブ賞を受賞。生のステージでは63歳とは思えないカッコ良さ、マルグリースとのキスシーンでは果たしてどっちが役得なのか…?


 一方ジュリアナ・マルグリースもTVシリーズ「ER/緊急救命室」のキャロル・ハサウェイ役でエミー賞を受賞した、注目度ナンバーワン女優。27ミリオンダラーを稼いでいた「ER/緊急救命室」を1999年に降板してハリウッドでメジャー映画に出演かと思わせたが、NYの舞台に登場するとは意外。映画ではアンディ・ガルシア、ミック・ジャガーと共演した『The Man from Elysian Field』(01)が封切り予定。また、今回の話題「Ten Unknowns」は作家ベイツが彼女にインスピレーションを得て、マルグリースのために当て書きしたそう。これでも彼女への注目度が分かろうというもの。今後舞台がロングランとなった場合、映画出演は少なくなるかもしれないのは残念だが、人気TVシリーズをやめた理由のひとつは彼女にとって生の舞台に立つことだったのかもしれない。ステージの彼女はエネルギーに溢れていた。

あと一つ付け加えるなら、ジャド役のジャスティン・カークにはぜひ注目したい。今回4人の役者の中で一番の喝采を受けたのは、実は彼だったのだ。


★Mitzi Newhouse Theater

150 West 65th Street
New York, NY10023
Tel(212) 239-6200

<上演スケジュール>
火~土 20:00、水・土14:00、日15:00
4月15日まで上演予定



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