TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 ファレリー・ブラザーズやワイアンズ・ブラザーズがいなかった時代、コメディ映画界のスターといえばメル・ブルックスだった。『ヤング・フランケンシュタイン』('75)『サイレント・ムービー』('77)『新サイコ』('78)など、70年代に次々と映画作品をネタにしたパロディでヒットを飛ばし、ベタなドタバタギャグとシニカルな風刺ギャグの二段攻撃で観客の笑いのツボをとことん押さえつけたメル・ブルックス。俳優と監督の二つの顔を持つ映画界の奇才、ブルックスのカルト的コメディ映画『プロデューサーズ』('68)が、ブロードウェイ・ミュージカルとなってこの春のシーズンに登場。セント・ジェームズ・シアターでマシュー・ブロデリックとネイサン・レイン主演で現在プレビュー上演が行われており、早くも今年のトニー賞候補という噂を呼んでメディアや舞台ファンの間で話題となっている。

 映画『プロデューサーズ』は1969年アカデミー・オリジナル脚本賞を獲得、出演のジーン・ワイルダーはアカデミー賞助演男優賞、ゼロ・モステルはゴールデングローブ主演男優賞にそれぞれノミネートされている。このメル・ブルックス監督初の長編映画作品は、2000年AFI(全米映画組合)選出の100年間ベスト100コメディ映画の第11位に選出され、また日本では30年以上の月日を経て昨年12月に初公開上映された。そういうめぐり合わせもあるのかないのか新世紀になった今、新たに脚本を書き直し、作詞&作曲&プロデューサーを一挙に手掛けてメル・ブルックスがブロードウェイに生の笑いをぶち込んだ。しかも振り付けと演出は『コンタクト』『クレイジー・フォー・ユー』でトニー賞を受賞したヒットメーカー、スーザン・ストローマン。そして主演は『You can count on me』でアカデミー賞主演女優賞候補となったローラ・リニーの相手役、実生活ではサラ・ジェシカ・パーカーの相手役マシュー・ブロデリックとなれば大ヒット間違いなしだろう。
☆St James Theatre
住所:246 West 44th Street New York, NY 10036
Tel:212-239-6200
期間:プレビュー2001年3月21日まで。開幕2001年4月19日~9月30日
時間(プレビュー期間中):火~金20:00 土14:00/20:00 日14:00/19:30
時間(開幕後):火~土20:00 水土14:00 日15:00
料金:$25-$90

 ベーシックなストーリーは映画とほぼ同様、かつての売れっ子プロデューサー、マックス・ビアリストック(ネイサン・レイン)と気弱で臆病者の会計士レオ・ブルーム(マシュー・ブロデリック)が、ブロードウェイ・ミュージカルをネタに詐欺を目論むというドタバタ喜劇。老婦人たちから巻上げた出資金で作った舞台『ヒトラーの春』を失敗に終わらせ、残り金を持ってリオに逃げる予定が…。登場人物のステレオタイプのキャラ、ストレートにベタなギャグの応酬、陳腐な音楽とダンス、とにかく最初から最後まで息をつく間もなく笑わせられる。いったん笑いのツボにはまると、あのマシュー・ブロデリックが歌って踊ってるっていうだけで笑いが止まらない。ユダヤ人メル・ブルックスならではのお得意のナチ風刺、劇中劇「ヒトラーの春」も舞台でみると尚お得な気分。ああメル・ブルックスがちらっとでもステージに登場していたら、この後一生笑わなくても文句をいわなかったのに。実際には、ヒット間違いなしでもリオに逃げるわけにはいかないメル・ブルックスの笑いは、舞台になるとかなり吉本新喜劇に通じる物がある。映画を観ているだけでは気が付かなかったけど、なんだか目からうろこが落ちる思いだった。


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