TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 チェルシーホテル
 かつてはウェストビレッジとソーホーが中心となっていたNYのアートとゲイ・カルチャーだが、現在その中心となっているのはチェルシー。このエリアに古くから存在するチェルシーホテルは、多くのアーティスト、作家。ミュージシャン、俳優らが滞在し、また彼らに愛された場所だ。今回は様々なエピソードを生み出したチェルシーホテルを紹介してみたい。

 現在ホテルとなっている12階建てのビクトリアン・ゴシック建築のビルがたてられたのは1884年。当初はアパートメントだったが、その後1905年にホテルとして開業。それ以来、多くの著名人やアンダーグラウンドの住人達がこのホテルでボヘミアン・スタイルの生活を送っている。チェルシーホテルを有名にしたのは、なんといってもアンダーグラウンド界の帝王アンディ・ウォーホルだろう。このホテルを舞台にした彼の実験映画『チェルシー・ガールズ』('66)は、この時代のアングラ・ワールドを垣間見ることが出来る興味深い作品だ。またウォーホルやウィリアム・バロウズらが出演している『チェルシー・ホテル』('81)は、ホテルツアーの形で撮影されたドキュメンタリー。奇妙なチェルシーワールドを味わうことが出来る。

 このホテルが舞台になった作品で一番印象に残るのは、実際に起こった事件を元にして撮影された、アレックス・コックス監督『シド・アンド・ナンシー』('86)だろう。伝説のパンクバンド、セックスピストルズのベーシスト、シド・ヴィシャスと恋人ナンシー・スパンゲンの破滅的な愛を描いた、カウンターカルチャーのカリスマ的映画だ。1978年にナンシーの刺殺死体がホテルの浴槽で発見され、その隣にはシドが放心状態で座り込んでいたという事件が描かれている。その他にも80年代にヒットしたエイドリアン・ライン監督、ミッキー・ロークとキム・ベイジンガー主演のセクシュアル恋愛映画『ナインハーフ』('85)や、マイケル・ゴールデンバーグ監督、クリスチャン・スレーター主演のこちらは純愛映画『マンハッタン花物語』('96)が ここで撮影された。

 また今回のオスカーでも話題になったアーサー・C・クラークが『2001年宇宙の旅』('68)を執筆したのがこのホテルの一室。スタンリー・キューブリック監督は映画化するにあたり、ホテルにこの作家を訪ねたという。過激な現代作家ウィリアム・バロウズはここで『裸のランチ』を執筆、この作品はデヴィッド・クローネンバーグ監督によって1991年に映画化された。

 このホテルに滞在した映画人はジェーン・フォンダ、ドナルド・サザランド、ミロシュ・フォアマン、デニス・ホッパー、サム・シェパードといった個性派が多い。またミュージシャンではボブ・ディラン、ジミ・ヘンドリックス、ディディ・ラモーン、パティ・スミスら。ひとつの時代を築き上げる要となる存在の人々がここに集結していた。

 かつてジャニス・ジョプリンが滞在していた部屋を現在スタジオにしているアーティストHIROYA氏も、このホテルの歴史に名を刻もうとする存在のひとり。ベニシオ・デルトロ、マシュー・モディン、スーザン・サランドン、マリア・シュライバー、カトリーヌ・ドヌーヴといったハリウッドスターたちの顧客を持ち、ヨーロッパとアメリカで活躍する日本人アーティストだ。アンディ・ウォーホルのアート集団ファクトリー最後のメンバーでもあり、マンハッタンではチェルシーホテルを筆頭に、一流の現代作家の作品が展示されているガーシュインホテル他58箇所に彼のポップアートがインスタレーションされている。彼の描くチェルシー・バニーという名のウサギが、世界中に繁殖していく日も近い。フリーキーでアーティスティックなエネルギーが存在するこのホテルでは、現在形で新たなるアーティストやストーリーが生み出され続けているのだ。


☆Hotel Chelsea
222 West 23rd Street New York, NY 10011
Tel: 212-243-3700
Fax: 212-675-5531

チェルシーホテル外観

チェルシーホテルフロント

チェルシーホテルロビー

HIROYA氏

チェルシー・バニー


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