2001年HRW国際映画祭

6月13日にから18日に渡って、今年も人権をテーマにした国際映画祭がリンカーンセンターで開催され、短編と長編を併せて全30作品が上映されている。
HWW(ヒューマン・ライト・ウォッチ)は過去20年に渡って70カ国以上で人権運動を繰り広げているオーガニゼーション。毎年ロンドンとNYで大々的な映画祭が行われ、それに引き続きアメリカ国内およそ20ヵ所で小規模な映画祭が開かれる。人権をテーマにしたドキュメンタリー・フィルム、ビデオ、そしてアニメーションなど世界中から集まった作品群は、パワフルで感動的なものばかりだ。人権というテーマから硬くてつまらない映画ばかりと想像しがちかもしれないが、事実は小説より奇なりとは良くいったもの。質の良いドキュメンタリーは姑息なフィクションより何十倍もおもしろい。興味がなくっても、無理をして会場に足を運んでみると絶対に観て良かったと感動するはず。今後ぜひ日本でもこの映画祭が開催されることを期待したい。
まずオープニングナイトに先駆けたベネフィット・ガラでは『蜘蛛女のキス』('85)が上映された。ウィリアム・ハートがアカデミー最優秀主演男優賞を取得し、作品賞他4部門でもノミネートされている作品。監獄で出会った政治犯と夢見がちなゲイの男との交錯する愛を描いた叙情的で切ないストーリーとハートの名演は心に残る。インディペンデント映画として初めてアカデミー賞に輝いたこの作品は、その後一般上映されていなかったが、今回寄付を集めるためのベネフィット上映作品に選ばれ、15年ぶりに観客の喝采を浴びることになった。寄付金集めが目的の上映会はレセプション込みで$150から$1,000というお値段。一般人は足を踏み入れることのない世界だ。
今回のオープニングナイトでNYプレミア上映されたのは、ジャマイカの現状を捉えたドキュメンタリー『LIFE AND DEBT』(01)。開発とともに生じる第三諸国の様々な問題を、労働者と政治側から描いている。音楽はもちろんボブ・マーレー、ジギー・マーレーやブージュー・バントン。ジギー・マーレーのライブのイントロで上映が行われたのはフィルム・フェスティバルならでは。
数ある上映作品の中で、早くからソールドアウトとなった人気作品のひとつとして『PROMISES』(01)を取り上げたい。ユダヤ系アメリカ人であるB.Z.ゴールドバーグ監督が故郷エルサレムを訪れ、パレスチナとイスラエルの子供達をフィルムに収めたドキュメンタリー。中東問題を日常に抱える子供たちの姿を、5年間に渡ってシリアスに時にはコミカルに捉えたこの作品は、ロッテルダム映画祭観客賞を受賞している。たった20分の距離に住みながら、思想や宗教や政治的に遮断され行き来のない生活をするパレスチナとイスラエルの子供達が、B.Z.監督の計らいで共有の時間を過ごすシーンは感動的だ。
映画終了後に登場した監督を、観客ほぼ全員がスタンディングオーベーションで迎えた。「ジャスティス/正義」を振りかざして中東問題を審議するのではなく、「アウェアネス/知ること」というアプローチで捉えようと思ったというB.Z.ゴールドバーグ監督。ユダヤ人としてパレスチナの子供達の思想に時としては怒りを覚えることもあったが、それを超えて出演した子供達全員を愛しているという監督の言葉は真実だろう。作品全体にやさしさと愛が溢れている。また監督は、現状や世界を変革しようということではなく、現状を知ること、そして個人のレベルでそれぞれが対処する方法を見出せれば良いと語っていたのが、現在の人権運動を反映しているようで印象的だった。
クロージング・ナイトは古典的ユダヤ教徒のゲイを追ったドキュメンタリー映画『TREMBLING BEFORE G-D』(00)。これはかなり興味深いテーマなので見逃せない。
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