映画に登場した場所を訪ねてPART4/コニーアイランド
初夏とはいえ30℃を越す暑さとなった6月最後の土曜日、コニーアイランドで毎年恒例のマーメイドパレードが開催された。今年で19回目を迎えるマーメードパレードは、ニューヨークの初夏の風物詩として盛り上がる海がテーマの仮装パレードだ。人魚や海賊、カニや魚といった海の生き物たちに扮装した人々が、アメリカングラフィティに出て来そうなレトロなオープンカーに乗ってネプチューン通りをパレードする様はなかなかお茶目。中にはほとんどトップレス状態の女性も多く、カメラを向けるとポーズを取るサービス精神満点の彼女達に沿道の観衆たちからは大きな歓声が沸き上る。今回はマーメイドパレードにちなんで、無声映画時代から数々の映画のロケ地にもなっているこの歴史的歓楽街を紹介しましょう。
数々の歌のタイトルになったり小説の舞台ともなっているコニーアイランドは、ブルックリンの南端に位置し、メトロで訪れる事が出来るニューヨーカーの最もお手軽な行楽地だ。大西洋を臨むビーチと遊園地は、毎年イースターから週末のみオープンし始め、本格的な海開きとなるのは5月のメモリアルデーから秋を告げる9月の初旬レイバーデーまで。19世紀の中頃、ニューヨークのリゾート地として開発されたコニーアイランドは、今でこそいかがわしさの漂ううらぶれた街だが、栄華を極めた19世紀末から20世紀の初頭には当時としては画期的な一大テーマパークが存在した。初期のコニーアイランドの様子は無声映画『ファッティとキートンのコ二―アイランド/自動車屋』('17)で観る事が出来る。
1884年に世界ではじめてのローラーコースターが登場したのもコニーアイランド。その後数々のローラーコースターが作られたが、大規模なものは1925年に作られた木製ローラーコースター、サンダーボルト。ウディ・アレン監督主演、アカデミー賞受賞作『アニー・ホール』('77)の主人公アルヴィーは、父が遊園地のアトラクション係でサンダーボルトの下にある家で幼年期を送ったという設定。映画に登場したローラーコースターと家は残念ながら1982年にクローズされ、現在ではその形骸だけが残っている。

もうひとつの名物アトラクション、サイクロンは1927年に作られた同じく木製ローラーコースター。ダイアナ・ロス、マイケル・ジャクソン出演、シドニー・ルメット監督の現代版ミュージカル、オズの魔法使い『ウィズ』('78)には、サイクロンを舞台にした歌と踊りのシーンがある。

コニーアイランド出身のギャング団の抗争を描いたB級ストリート映画、『ウォリアーズ』(ウォルター・ヒル監督/'79)では、グラフィティだらけの真夜中の地下鉄から一転して、まぶしい朝のコニーアイランド・ビーチでの最終決戦が印象的。
ウディ・アレンと同じくブルックリン出身のスパイク・リー監督の『クルックリン』('94)では、ロケ地としては登場しないが、家族そろってコニーアイランドへ行こうとする矢先に電気とガスをとめられてしまうというエピソードがある。ブルックリン出身者にとってコニーアイランドは郷愁を誘う場所であることに違いない。

オープン当初は上流階級のリゾート地だったコニーアイランドは、その後地下鉄の開通によりニッケル(5セント)で行ける大衆的な行楽地となり、1911年に起った遊園地の大火災によって衰退して行く。現在1962年に古いアトラクションを引き継いだ形でオープンしたアミューズメントパーク、アストロランドが健在。ポップで怪しい見世物小屋や渚に続くボードウォークと共に当時の面影を少しばかり残している。高級リゾートでは決して味わえない独特の怪しい雰囲気に魅了された酔狂者たちは、毎年夏にはこの都会の寂れた行楽地に足を運んでしまうことになるのだ。


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