TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 映画にも出演したビッグ・アーティストのジャズ・コンサート

 気温が40℃近くまで上昇した8月第2週目のNY、まだまだ真夏のスペシャルイベントは続きます。この週末、コロンビア大学のキャンパスではビッグネームのジャズアーティスト達がフリー・コンサートを行ない、雨模様の天気にかかわらず熱心なジャズ・ファンが大集合。女優として映画に出演している大御所シンガー、アビー・リンカーン、モダンジャズの巨匠ウェイン・ショーターらが出演したコンサートの模様をレポートします。
 8月11日、コロンビア大学のキャンパスに設置された野外ステージに出演したアーティストはジェームス・カーターとチェイスィン・ザ・ジプシー・バンド、アビー・リンカーン、ザ・ウェイン・ショーター・カルテット、ザ・ビッグ3パラディアム・オーケストラら。出演者全員が伝説的ビッグ・アーティストで、たとえ単独でコンサートを行うとしても見逃せない面々だ。こんな大物を一挙に集めてしかもタダでとあっては、たとえ天気が悪かろうがあるいはジャズファンじゃなかろうが、とりあえず駆けつけなくてはなるまい。
 4時ごろからスタートしたコンサートは10時ごろまで続き、最後はザ・ビッグ3の熱いラテン・ジャズでダンスに興じる人々で盛り上がった。すべてのアーティストのプレイが素晴らしかったが、映画サイトならではということで、今回は特に映画に出演したふたりのアーティストにスポットを当ててみたい。
 まず一番の若手アーティスト、テナー・サックス奏者であるジェームス・カーターについて。17才でウィントン・マルサリス・クインテッドと共演し、ジャズ界の新星として注目されたカーターは、68年デトロイト生まれ。90年にNYに拠点を移し、その後リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラと共演するなど名実を共にし、93年にはソロ・アルバム「J.C. on the Set」を日本で先行発売。

 最新CD「Chasin' the Gypsy」はタイム誌の2000年トップ10アルバムにランクイン。アヴァンギャルドなソウルジャズを聴くことが出来る。
 96年にはロバート・アルトマン監督の映画『カンザス・シティ』に出演。ジャズ全盛期の30年代カンザスを舞台にしたこのギャング映画では、実在の伝説的テナーサックス奏者ベン・ウェブスター役を演じている。ハリー・ベラフォンテや同じくテナー・サックス奏者であるジョシュア・レッドマンが出演しているこの映画は、白熱のジャム・セッションが繰り広げられジャズ・ファンの間では必見モノとされている。蒸し暑いNYの夏を、スタイリッシュなジェームス・カーターのテナー・サックスがクールダウンしていくかのようだった。
 レコード・デビューしてから45年になる大御所中の大御所アビー・リンカーンは、70代とはいえパワフルな歌声は現役そのもの。彼女の代表作は前夫でありドラマー、マックス・ローチとのコラボレーション「ウイ・インシスト」('60)。アフリカンアメリカン市民権運動を宣言したアルバムとして評価が高い。

 彼女の映画出演デビューは57年製作のミュージカル『The Girl Can't Help It』。女優としてのキャリアは60年代中期に開花、シドニー・ポワティエとの共演作『愛は心に深く』(ダニエル・マン監督/'68)は当時アフリカン・アメリカンのラブロマンスとして代表的ヒット作となった。
 アビー・リンカーンのコンサートは今回で2回目。彼女の歌声は最初、あっけにとられるくらいこれって調子っぱずれ…と思ってしまうような朴訥さを感じさせるが、しばらく聴いているとポジティブで突き抜けた歌声がソウルに共鳴してくる。そして自分でも気がつかないうちに涙が流れている。やはり年季の入ったアーティストならではこその味わいなのだ。最新アルバムは「オーヴァー・ザ・イヤーズ」(00)でぜひご確認ください。
Text & Photo Yoshiko Chujo


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