ハリウッドスター出演のオフ・ブロードウェイ
 イースト・ビレッジにあるオフ・ブロードウェイ劇場パブリック・シアターで、ドン・チードルとジェフリー・ライトによる「トップドッグ・アンダードッグ」が上演されている。両名ともスクリーンの上でも定評のある演技派。ふたりの演技バトルが繰り広げられるナマの舞台は迫力満点で、各誌のレビューでも絶賛されている。
 演劇界の気鋭、スーザン・ロリ・パークスの新作「トップドッグ・アンダードッグ」は、ゲットーに生まれ育った兄弟リンカーンとブースの確執を描いた演劇作品。ジェフリー・ライト演じる兄リンカーンは、元カードゲーム詐欺師で、現在は顔を白く塗ってその名の通りリンカーンの物まねで小金を稼ぐ。一方、万引き常習犯でかつての兄のようなカード詐欺師になることを熱望している弟ブースを、ドン・チードルが演じている。

 リンカーンとその暗殺者ブースの名前を持つ兄弟ふたりが住むアパートの一室における、前半と後半2つの場面のみで舞台は進行する。子供の頃ある日突然親に捨てられて彼らが、協力し合いながらも名前が示す通りライバルとして対立する様が、コミカルにまた悲劇的に描かれている。歴史上のリンカーンとブースの暗殺劇は、アメリカでは誰でも知っているが、この舞台で展開する兄弟劇はカインとアベルにも重ね合わせられ、その結末は観る人のみぞ知る。劇中でライバル同士の兄弟を演じるライトとチードルは、事実上舞台の上でライバル同士となり、お互いの演技を切磋琢磨し合っている。
 最新作『ラッシュアワー2』(01)がヒット中のドン・チードル。その他の近作では『ブルワース』('98)、『天使のくれた時間』(00)、『ソードフィッシュ』(01)に出演し、中堅俳優としてハリウッド界での地位を確実に築き上げている。刑事役を演じる『トラフィック』(00)のラストシーンで、報復に成功したあとのにんまり顔は印象的。スクリーンで観ているだけではあまり思ったことがなかったが、ナマの舞台を観ると改めて彼の演技のうまさを実感した。饒舌なセリフ回しと自然な動き、エネルギッシュでありながら演劇臭さをまったく感じさせないのはかなりのもの。
 片やジェフリー・ライトは、『バスキア』('96)、アン・リー監督『シビル・ガン 楽園をください』('99:劇場公開タイトル『楽園をください』)、『シャフト』(00)などの映画に出演。舞台ではトニー賞作品「ブリング・イン・ダ・ノイズ、ブリング・イン・ダ・ファンク」の他、「ジュリアス・シーザー」、「リア王」といった古典もこなす実力派。「Angels in America」ではトニー、ドラマデスク、アウター・クリティックス・サークル各賞を受賞している。舞台をいくつもこなしてるだけあって、酔っ払いの兄を演じるライトの演技も凄まじい。リンカーンがリンカーンの一人芝居をする場面は鳥肌ものだった。
 オフ・ブロードウェイなので派手さやスペクタクル性はまったくないが、ふたりの名優の際立った演技をじっくりと鑑賞することが出来る舞台だ。当初8月上旬までの公演予定が、9月2日まで延長。オフ・ブロードウェイ鑑賞では、今一押しの作品です。

場所:Public Theater
425 Lafyette St.
New York, NY
Tel: 212-239-6200
料金:$45.00
期間:9月2日まで

Text & Photo Yoshiko Chujo


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