TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)
メリル・ストリープ他、豪華キャストの「かもめ」上演終了
2001年の夏、様々なフリーイベントをご紹介してきましたが、なんといっても一番の話題となったのはメリル・ストリープを筆頭としたオールスターキャストによるチェーホフの戯曲「かもめ」。毎夏セントラルパークの野外劇場で行われるシリーズ、「シェークスピア・イン・ザ・パーク」のひとつの演目として、7月24日から8月26日の1ヶ月間上演された。
「シェークスピア・イン・ザ・パーク」は、1957年、パブリックシアターの設立者ジョセフ・パップが、セントラルパークで移動劇場を利用して無料上演を行ったのがはじまり。その後デラコルテ劇場に場所を移し、毎年6月から8月の夏季シーズンに少なくとも1本のシェークスピア戯曲を掲げてこのシリーズを上演。夏の恒例フリーイベントととして、ニューヨーカーに最も親しまれるものとなっている。
シリーズ異例の大ヒットとなった46回目の上演作品、チェーホフの喜劇「かもめ」は、20年ぶりに舞台に立つメリル・ストリープを筆頭に、スクリーンでもおなじみの豪華な顔ぶれ。大ヒットとなった理由は、豪華キャスト陣の生ステージを無料で観ることが出来るからに違いない。
メインキャストはストリープの他にケビン・クラインとクリストファー・ウォーケン。過去にクラインは『ソフィーの選択』('82)、ウォーケンは『ディア・ハンター』('78)で、ストリープと映画で共演している。また『レオン』('94)で映画デビュー、『アンネの日記』('97)でブロードウェイの舞台経験がある美少女系女優ナタリー・ポートマンは、大女優の影に押されながらも可憐にニーナ役を演じている。そして脇を固めるのは『Pollock』(00)でアカデミー助演女優賞を獲得したマリシア・ゲイ・ハーデン、デブラ・モンク、フィリップ・シーモア・ホフマン、ジョン・グッドマンら。
上演開始は夜8時だが、超人気のため、昼の1時にフリー・チケットが配布されるダウンタウンのパブリック・シアターとデコルテ劇場周辺では、前夜からチケットを求めて野宿する人々が続出。評判が評判を呼び、ついには前夜9時に列に並んでもチケットが取れない状態となった。「かもめ」の前に同シリーズで上演されたシェークスピア作品「尺には尺を」は、当日の朝9時から並べばなんとかチケットが取れたのだが。
こうなるとニューヨーカーたちは、チケットを確保するために野宿することを含めて、ほぼ1日がかりでこのイベントを楽しむことになる。毛布や椅子、挙句にマットレスまで用意周到に持参してラインに並ぶ人たちは、チケットをゲットすることプラス、ネットワーキングの場としてこの場を利用。隣同士で親しくなったり、あるいは愛が芽生えることを期待したりして戸外の一夜を過ごしたニューヨーカーは数知れず。
それにしても、チケットを取るためラインに並ぶという原始的な方法が取られていたのはなぜ? 日本だと葉書による抽選だったり、今時ならインターネットで応募という手段もあるのに、主催者側がタダのチケットを配布するのに一番手間がかからないのがこの方法だったからだろうか…。タダのチケットを手に入れるのは、実はタダならぬ努力が必要だったというわけだ。
この舞台、今後オフ・ブロードウェイで上演される予定だが、チケットは100ドル以上になるらしい。いずれにしろチケット入手困難になることは間違いない。
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