WTCトリビュート/映画に登場した場所を訪ねて特別編

 世界を震撼とさせたワールド・トレード・センター(以下WTC)のテロ事件勃発からはやくも9日間が過ぎ去った。ショックと悲しみのどん底へ突き落とされたNYの街は、今復興に向けて力を結集している。犠牲者の方々へ祈りを捧げ、遺族と悲しみを分かち合い、今後の情勢に不安を感じつつも人々は通常の生活に戻ろうとしている。
 これから世界がどうなるのか、ネガティブな予想はしたくない。多くの人々の平和を願う心と愛で、怒りと悲しみが鎮まることを祈りつつ、今回のコラムをWTCへのトリビュートとさせて頂きたい。
 NYロウワー・マンハッタンに位置していたWTCはアメリカ経済の象徴であり、またツインタワーは映画作品の中でNYを象徴するシーンになくてはならない存在だった。

 環境建築家ミノル・ヤマザキ氏とエミリー・ロス&サンズ事務所によって設計されたWTCは6棟のビルで構成され、1966年に着工し1973年に完成。中心となる110階建てのツインタワーは、翌年にシカゴのシアーズタワーが完成されるまではエンパイアステートビルを抜いて世界一の高さとなった。
プロムナードからの風景。
ツインタワーは消えた。
 1933年にエンパイアステートビルに登ったキングコングが、リメイク版でツインタワーに登ったのは1976年。WTCが完成してまだ間もない時期で、当時かなりの話題となった。それまで映画のNYを象徴するシーンはエンパイアステートビルであったのが、WTC完成後は必ずといっていいほど、ツインビルを含めた鳥瞰図やスカイラインが映像に登場するようになる。
 比較的最近の作品ではニコラス・ケイジ主演、ブラット・ラトナー監督の『天使のくれた時間』(00)で、ニュージャージー側から見たマンハッタンの光景の中にツインタワーがとらえられていた。

 マーティン・ブレスト監督が、ブラピのファンのために作ったみたいな『ジョー・ブラックをよろしく』('98)では、ヘリコプターからマンハッタンへ向かうシーンに登場。お約束のようにツインタワーを登場させることで、舞台がNYであることが一目瞭然となっていたわけだ。
事件の当日の夕刻、
対岸からの煙でマンハッタンがみえない。
 個人的にはシェール主演、ノーマン・ジュイソン監督の『月に輝く夜に』('87)に出てくる映像が一番印象に残る。ブルックリン・ブリッジのたもとから5匹の犬をつれた老人がツインタワーの上に出ている満月を観上げ、犬達に向かって月に向かって吠えろとうながすシーン。今までは微笑ましいと思って観ていたシーンが、これからは哀しく切ないシーンとして思い出されるだろう。
 これから世界がどうなるかというときに瑣末なことかもしれないが、2001年9月11日を境にツインタワーが新作映画に登場することはなくなった。『メン・イン・ブラック2』のファイナルシーンにツインタワーが設定されていたが、不可能となり急遽変更することに。また来年5月封切り予定の『スパイダーマン』ではツインタワーの間に巨大な蜘蛛の巣が張られるはずだった。

 ハーヴェイ・カイテル主演、ウェイン・ワン監督『スモーク』('95)にも出てくるブルックリン・プロムナードからは、ロウワー・マンハッタンが一望出来る。自宅アパートから歩いて3分の距離にあるこの遊歩道から世界で一番魅力的なマンハッタンの姿を観る度に、NYに住むことを実感し今まで随分と力づけられた。
殺戮はもう沢山だ。平和と正義を。
 事件からほぼ毎日、すべてが夢であって欲しいと願いながらプロムナードに行ってみる。当日は煙で対岸がみえなかったが、現在はツインタワーの在った位置から立ち上っていた煙も鎮まり、献花とキャンドルをたずさえた人々が日ごとに増えてきている。この状況の中で多くの人々が願うのは、愛と平和であり決して報復などではない。

ブルックリンプロムナードに集まり、
キャンドルで追悼する人々。
9月12日、まだ煙が立ち昇るスカイライン。


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