TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 第39回 NYフィルム・フェスティバル・レポート PartII
 10月14日、ジャン・リュック・ゴダール監督の『In Praise of Love』(01) の上映で幕を閉じたNYFF。テロに続くアフガン攻撃の影響でゴダール監督は欠席し、毎年華やかなレッドカーペットにセレブの姿はなく閉幕した。

 しかし6日に行われたパネルディスカッションではオリバー・ストーン監督を筆頭に、テロ事件後の映画界についての議論が白熱した。

 NYFF恒例のフィルムフォーラムだが、今年は『プラトーン』('86)、『JFK』('91)、『エニイ・ギブン・サンデー』('99)で知られるハリウッドの社会派オリバー・ストーン監督の発言が注目された。
第39回NYFFポスター
 その他の出席者は『ボーイズ・ドント・クライ』('99)のプロデューサー、クリスティーン・ヴァチョン、『ルムンバの叫び』(00)の監督ラウル・ペック、ニューライン・シネマ会長ロバート・シェイ、元ユニヴァーサル映画CEOのトム・ポラック、作家で批評家のベル・フックス、「ヴァニティ・フェア」コラムニスト、クリストファー・ヒッチェンズ、「ニューズウィーク」批評家デビッド・アンセンら。
左からトム・ポラック、ベル・フックス、ロバート・シェイ、デビッド・アンセン、ラウル・ペック、オリバー・ストーン、クリスティーン・ヴァチョン、クリストファー・ヒッチェンズ
 パネルタイトルは「映画を製作することについて/ 国家論争における映画の役割」。まず、9月11日のテロ事件が映画製作にいかなる影響をおよぼすかについて、パネリストの意見交換からスタートした。

 オリバー・ストーン監督は「リアリティは、9月11日以前から常に私の問題としてきたものだ。事件の翌日マスコミが私に何をしたいか訊ねてきた。私は映画の弾丸をテロリズムに向けたい。もしもそれが本当に行われたとしたら、とても魅惑的な方法となるだろう」と語った。
 また事件以来、バイオレンスやテロ関連の映画上映が次々と延期されているが、ストーン監督は「ハリウッドやフィルム・メーカーは、テロを題材にした映画製作に臆病になるべきじゃない。テロリズムの映画を作ろう。もしもアラブ側の描写をとてもうまく描けるとしたら、みんなが観にくるだろう」と語った。また大手メディア会社が統合して、カルチャーや思想をコントロールしているという意見を吐露。「テロリストたちはハリウッド映画に影響されている」「これこそがニュー・ワールド・オーダーである」と述べた。
ラウル・ペック監督(左)とオリバー・ストーン監督
 個人的に興味深かったのは、ハイチ出身のラウル・ペック監督の意見。カンヌ映画祭出品作品『ルムンバの叫び』でコンゴ初代大統領の伝記を描いたペック監督は「私にとっては、9月11日以前も以後も世界の状況は変わっていない」と語った。

 世界規模では、テロや戦争は日常的に起こり続けてきたわけだが、9月11日の事件をきっかけにまるで世界が変わってしまったかのように語る他のパネリストたちの中で、ペック監督の意見がとても冷静なものに思えた。あるいは今回の事件によって、はじめてアメリカ人は世界を知ったのだということなのかもしれない。


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