TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 セレブが経営するショップ/HIP-HOPアーティストMOS DEFのブックストア

 日本では芸能人がオーナーのレストランやショップは何かと話題となるがそれはNYも同じ。たとえばロバート・デ・ニーロが経営する超有名レストラン「NOBU」や「トライベッカ・グリル」はもうすでに誰もがご存知のところ。そこで今回は知るひとぞ知るもっとニッチなセレブリティショップを紹介してみたい。
 HBOの番組「Def Jam ポエット」の司会でTVにもレギュラー出演し、ハル・ベリーのアカデミー主演女優賞ノミネート作品『Monster's Ball』('91/マーク・フォスター監督)で本格的に映画デビューを果たしたモス・デフ。

 次世代ヒップホップ・カルチャーの担い手として常に動向を注目される彼は、ヒップホップ・ユニット“ブラックスター”のパートナー、タリブ・クウェリと共に地元ブルックリンでブックストア「ンキル・センター/NKIRU CENTER」を経営している。
 ンキル・センターはブルックリンではアフリカンアメリカンがオーナーの一番古い歴史ある本屋。しかし経営困難のために閉店してしまうということになりそれを聞いたブラックスターの二人、モス・デフとタリブ・クウェリが店を存続させるために経営権を買い取った。コアなブラックネイバーフッドにあるのでアフリカンアメリカン以外はちょっと立ち寄り難い場所だが、他の書店では手に入りにくいブラックカルチャー系の書籍が揃っている。
 注目したいのはンキル・センターが単なる書店ではなくマルチ・カルチャー教育センターとしても存在していること。ライターのためのワークショップ、ポエトリー・リーディング、作家のレクチャーやサイン会、ミーティングやセミナーを定期的に開催しブルックリン・コミュニティの中でアート、文学、カルチャーを発展させるための重要な役割を果たしている。
 昨年末にはブルックリン美術館でンキル・センター主催のベネフィットパーティが開かれた。パーティではブラックスターが詩人でアクティビストのソニア・サンチェスにミラー・オーウェン・アワード授与するなどカルチャーイベントとしても価値があるものとなった。また天才タップダンサー、セヴィアン・グローバーがゲストで登場しいつもながらのパワフルで魅力的なパフォーマンスで会場を沸かせた。
 ブルックリンから世界に向けてブラックカルチャーを発信するモス・デフ。コミュニティ運動の他にアーティストとしての話題を付け加えるなら、昨年ヒットしたオフ・ブロードウェイ作品「トップドッグ/アンダードッグ」(バックナンバー68)の再演で3月にオフ・ブロードウェイの舞台に立つ。同じく『Monster's Ball』に出演したHip-Hopスター、ショーン・コムズ(パフ・ダディ)と今後どちらが多く映画出演を依頼されるかなどと噂されているが、舞台出演予定があるモス・デフのほうが役者として一歩先を行っているようだ。

NKIRU Book Center
732 Washington Ave, Brooklyn, New York, 11238
TEL: (718) 783-6306


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