TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 エスニック・シティNY
 イタリア系ニューヨーカーと映画(後編)

 前回に引き続きニューヨークのイタリアン・コミュニティについてです。今回はブルックリンにおけるイタリア系の地区にスポットを当ててみましょう。

 現在ニューヨーク最大のイタリア系コミュニティはリトル・イタリーではなく、ブルックリンである。“ほんとうのイタリア料理が食べたければリトル・イタリーではなくブルックリンに行け”とまで言われているほど。ここを舞台に作られた、あの名作ロマンチック・コメディ『月の輝く夜に』('87)にも、味のあるウエイターのいるイタリアン・レストラン、ベーカリー、食料品店が登場して、観る者の食欲を刺激してくれる。
 ブルックリンの住人は、他のニューヨーカーとは違う独自のアクセントの英語を話すことで知られ、主演のシェールも“ブルックリン訛り”の特訓を受けて役に臨んだという。ちなみにシェールは実際にはアルメニア/トルコ/フランス/チェロキー・インディアンの血が混じっており、シェールの母親役のオリンピア・デュカキスはギリシャ系だというから面白い。もっとも相手役のニコラス・ケイジ、ダニー・アイエロも含め、他の主要キャストのほとんどは本物のイタリア系。

 他にも、あの『サタデーナイト・フィーバー』('77)、スパイク・リー監督の『ジャングル・フィーバー』('91)、マーティン・スコセッシ監督の『グッド・フェローズ』('90)が、やはりブルックリンのイタリア系地区で撮られている。しがないペンキ塗りの青年(ジョン・トラボルタ)が、土曜の夜だけはディスコでキングのように踊るという『サタデーナイト・フィーバー』のストーリーは誰もが知るところだけれど、主人公がイタリア系だということは日本ではあまり認知されていないはず。
 また黒人設計士(ウェズリー・スナイプス)と、イタリア系の秘書(アナベラ・シオラ)が人種を超えた恋に落ちるのが『ジャングル・フィーバー』で、秘書はブルックリンのイタリア系地区からマンハッタンの設計事務所まで通勤しているという設定。『グッド・フェローズ』は、イタリア系とアイルランド系のミックスである男(レイ・リオッタ)を主人公にしたマフィア物。

 このようにニューヨークにはイタリア系地区がたくさんあり、人口も多いものの、全盛時に比べるとその規模は縮小している。リトル・イタリーがその代表的な例で、経済的・社会的に成功したイタリア系移民たちは以前のように自衛のために固まって一ヶ所に暮らす必要がなくなり、郊外に家を買っては一軒また一軒とリトル・イタリーを出ていった。空いた部屋や店舗には隣りのチャイナ・タウンから中国系住民が移り住み、リトル・イタリーは年々小さくなってきている。ブルックリンのイタリア系地区にも、同じ現象が起きつつある。
 それでもユニークなカルチャーと陽気なキャラクターを持つイタリア系は、ニューヨーク・シネマにはなくてはならない存在。これまでの“イタリア系=マフィア”というステレオタイプなキャラクターはそろそろ改善されるべきだけれど、その分、さらにバラエティに富んだイタリアン-アメリカン・ムービーが、これからは期待される。

 最後にニューヨーク出身のイタリア系アクターと監督を紹介。上記のロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、チャズ・パルミンテリの他にはマリサ・トメイ、ジョン・タトゥーロ、シルベスター・スタローンなど、監督ではマーティン・スコセッシ。


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