TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)
エスニック・シティNY/アイルランド系ニューヨーカー(後編)
前編で紹介したニューヨークに移住したアイルランド人の歴史に引き続き、今回は現在のアイリッシュ系家族の在り方を描いた作品、そしてアイルランド系アクターたちを紹介しましょう。
北アイルランドは長年に渡ってイギリスからの独立を悲願としており、IRAと呼ばれる過激な組織が、度々テロ事件を起こしている。そのIRAのメンバーを描いた作品『デビル』('97)では、アイルランドからニューヨークのスタテン島に逃亡したIRAのメンバー、マクガイア(ブラッド・ピット)が、アイルランド系の警官オメラ(ハリソン・フォード)の自宅に正体を隠して間借りする。
セント・パトリック・デイ/本番直前の練習
このオメラ警官のように、ニューヨークに落ち着いたアイリッシュは苦しかった時代を経て、現在ではその多くがミドルクラスとなっている。他の移民グループと同じく、いったん良い仕事につき、十分な収入と学歴を得た彼らはどんどんとマンハッタンから出ていき、いまではニューヨーク州の郊外や隣接するニュージャージー州に住む。
かつてマンハッタンのアイリッシュ・コミュニティであったヘルズ・キッチンと呼ばれる地区も再開発が進み、今ではアイリッシュ・タウンの面影はほとんどない。この変わり行くヘルズ・キッチンを舞台に、幼なじみのアイルランド系ギャング(ゲイリー・オールドマン)と警官(ショーン・ペン)の葛藤を描いたのが『ステイト・オブ・グレース』('90)だ。
現在のアイルランド系の家族の在り方を描いた作品には『ファミリー・ビジネス』('89)と『マクマレン兄弟』('95)がある。
『ファミリー・ビジネス』は、アイリッシュ魂にあふれ、“泥棒”を生業として生きてきた祖父(ショーン・コネリー)、それに反発し、地道な商売で成功した父(ダスティン・ホフマン)、その父の財産のおかげで大学に進学できた息子(マシュー・ブロデリック)のマクマレン一家が主人公。ニューヨークのアイルランド系が時代を経るにしたがって、いかにアメリカナイズされてきたかが、ほろ苦いコメディ・タッチで描かれている。
セント・パトリック・デイ/アイルランドの旗を持った女の子
アイルランド系に多い、同じくマクマレンという姓の若い3人兄弟を主人公にした『マクマレン兄弟』は、サンダンス映画祭でグランプリを獲得した作品。こちらには警官も泥棒も出てこず、ミドルクラスとなって郊外に暮らし、マンハッタンに通うアイルランド系の若者たちの恋愛や家族観、宗教観がテーマとなっている。現在のニューヨーク・アイリッシュの姿をもっともリアルに描いている作品と言えるだろう。
このように今ではニューヨーク郊外に暮らすアイルランド系だが、毎年3月のセント・パトリック・デイにはマンハッタンのフィフス・アベニューに大集合し、盛大なパレードを繰り広げる。アイルランドの色であるグリーンの衣装と、シンボルマークのシャムロック(クローバーの葉)を身に付け、バグパイプ隊やリバーダンス隊、アイルランド系の警官隊や消防隊の行進を見物する。
『逃亡者』('93)では、妻殺害の疑いをかけられた医者(ハリソン・フォード)が連邦捜査官(トミー・リー・ジョーンズ)の追跡をかわすために、このセント・パトリック・デイ・パレードに紛れ込むシーンが見られる。
セント・パトリック・デイ/子供たちのリバーダンス
最後にニューヨーク生まれのアイルランド系アクターを紹介。ニューヨーク・シティ出身はマシュー・ブロデリック、古くはジェームズ・キャグニー。ニューヨーク郊外出身ならマット・ディロン、ミッキー・ローク、アレック/ダニエル/ウィリアム/スティーブンのボールドウィン兄弟など。
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