TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 映画に登場した場所を訪ねて Part10 グランド・セントラル・ステーション

 マンハッタンの中心部にあるグランド・セントラル・ステーションは、ニューヨーカーにとっては交通の要となる駅であり、観光客にとっては絶好のサイトシーン・ポイント。今回はそのグランド・セントラル・ステーションを舞台にした映画を紹介します。
 グランド・セントラル・ステーションは1913年にデザインされたボーザール様式(フランス古典装飾様式)の巨大ターミナル。パーク・アベニュー側から正面入口を見上げると、そこには天を仰ぐヘラクレス像があり、建物の歴史を感じさせられる。

 そのまま一歩内部へと足を踏み入れると、今度は中央コンコースの広大なスペースと、クラシックなデザインのシャンデリアや大理石の階段に眼を見張る。煌めく星座が描かれた38メートルもの高さのドーム型天井も圧巻。5つの地下鉄路線と、ニューヨーク州郊外へと走るメトロノース鉄道が乗り入れており、一日の乗降客は約15万人。
堂々たる風格の正面入口
 そんな雑踏の中に、光と共にどこからともなく静かに降り立った異星人プラト(ケヴィン・スペイシー)に気付いたのは、物乞いをしていた車椅子のホームレスだけ。足早に歩き過ぎるニューヨーカーたちは、この不思議な男の到来を知るよしもなかった…。こんなふうに始まるのが『光の旅人』(01)。他の惑星からやって来たと主張するプラトは精神科医(ジェフ・ブリッジス)の元に送られ、やがてふたりの間には不思議な絆が生まれる。

 まるで昔の社交場の大ホールのようにも見えるこの中央コンコースを、そのままダンスホールに変えてしまったのが、ファンタジックな作品作りには定評のあるテリー・ギリアム監督。ウィットに富んだホームレス(ロビン・ウィリアムズ)と、自殺志願のラジオDJ(ジェフ・ブリッジス)の、これもまた奇妙な友情を描いた『フィッシャー・キング』('91)では、めくるめく色彩のワルツ・シーンが中央コンコースで撮影されている。
バンダービルト・ホールと呼ばれる
豪華なホール
 一方、もっとリアルな日常のグランド・セントラル・ステーションを描いているのが『恋に落ちて』('84)。ニューヨーク郊外からメトロノース鉄道でグランド・セントラル・ステーションまで通うグラフィック・アーティスト(メリル・ストリープ)と建築家(ロバート・デニーロ)は、共に家庭を持つ身でありながら、いつしか恋に落ちてゆく。
 コメディなら『ミッドナイト・ラン』('88)。逃亡した犯罪者をつかまえて賞金を稼ぐバウンティハンター(ロバート・デニーロ)は、やっと見つけた相手(チャールズ・グローディン)が飛行機恐怖症だと知り、仕方なくグランド・セントラル・ステーションから長距離列車に乗り込む。

 この駅がもっともドラマチックに使われているのは『カリートの道』('93)。ギャング家業から足を洗い、恋人(ペネロープ・アン・ミラー)と共にマイアミへ逃げようとするカリート(アル・パチーノ)は、やはり列車に飛び乗るためにグランド・セントラル・ステーションにやって来るが、その運命は…。
構内ショッピング・モール
 他にはアダム・サンドラー主演の爆笑コメディ『リトル・ニッキー』(00)、バーブラ・ストライザンド&ニック・ノルティの恋愛ドラマ『サウス・キャロライナ/愛と追憶の彼方』('91)、マーロン・ブランドが『ゴッドファーザー』('72)のセルフ・パロディを演じ、マシュー・ブロデリックと共演した『ドン・サバティーニ』('90)にもグランド・セントラル・ステーションは登場する。

 出逢いと別れの場となる駅、しかもグランド・セントラル・ステーションのように“絵”になる巨大ターミナルは、映画作家や監督にとってこれ以上はないドラマの舞台となるようだ。


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