TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)
今夜観に行く1本。ニューヨーク流映画の選び方
アメリカでは映画はもっとも身近なエンターテインメント。特にニューヨークのような大都市には、一般の映画ファンからマニアや業界人までがひしめき、公開される本数も多ければ、ジャンルも様々。では、ニューヨーカーはどうやって観に行く作品をチョイスしているのだろう。
ニューヨークには現在84の映画館・上映施設があり、そのほとんどがマルチ・スクリーンなので、スクリーン数の合計は数百にも上る。上映作品はハリウッド製の大作からインディーズ作品、外国映画、旧作のリバイバルまで含めて常時100本前後。ちなみに話題作の場合は30館以上、超大作なら50館近くでの公開となることもある。さて、この膨大な数の作品の中から“今夜観に行く1本”を選ぶには…。
バス亭のポスター
まず言えることは、映画の宣伝・広告が日常生活の一部に組み込まれているということ。たとえばバス亭や電話ボックスはアクリル板の壁にポスターがはめ込まれるように作られている。
またニューヨークでは常に街中のあちこちでビルの改築・新築工事が行われており、その工事現場を覆う板塀は、かっこうのポスター・スペースとなっている。それぞれのポスターのデザインも優れているものが多く、これらはニューヨークの楽しい風物詩のひとつでもある。
新聞の映画欄
新聞にも毎日、公開中の映画の全リストや広告が掲載される。特にウィークエンドの始まりである金曜日の新聞はにぎやか。話題作の多くが金曜日に封切られることもあり、ニューヨーク・タイムズ紙には、週末の映画&ミュージカル情報だけで34ページもの別冊が付く。
ちなみに5月3日金曜日付けの同紙を見てみると、トップページは今週もっとも話題の封切り作『スパイダーマン』の大きなカラー写真入りの記事。スパイダーマンはアメリカでは国民的ヒーローであることに加え、特撮の素晴らしさや、舞台がニューヨークであることも手伝って、ニューヨーカーは公開を楽しみに待っていたのだ。
他にはリチャード・ギアとダイアン・レインの『運命の女』、ウディ・アレン監督による『ハリウッド・エンディング(原)』などが“本日公開”として一面広告を打っている。WWFの人気レスラー、ザ・ロックの主演で大ヒット中の『スコーピオン・キング』、サミュエル・L・ジャクソンとベン・アフレックの奇妙な運命の交錯を描いて好評の『チェンジング・レーンズ(原)』も同じく一面広告。他にも大作からB級作品まで、とにかく広告と記事がぎっしり。
電話ボックス
また、いったん映画館に足を運ぶと、本編の始まる前に予告編を5~6本は見ることになる。しかも本編と似たジャンルの作品が巧妙に選ばれているので、観客は自然と自分の好みの作品の予告編をたくさん観ることとなる。
さらに月曜日には新聞・テレビが、先週末の映画興行成績を発表する。映画関連ウェブサイトには翌週の興業成績の予想まで掲載しているところがある。多くの人は「トップ10に上がっている作品なら面白いのだろう」と考えるので、これも観に行く作品を決める手助けになっているようだ。
けれど、“今夜観に行く一本”を決める決定打は、ここニューヨークでもやはり友人や同僚などの「面白かったよ」の一言であることが多い。映画人口が圧倒的に多いニューヨークだけに、特に月曜日の職場では週末に観た映画の話題で盛り上がることもしばしば。こういった“口コミ”も、莫大な予算をかけた広告と同等か、もしくはそれ以上の宣伝効果を持っているのだ。
地下鉄入口
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