TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 エスニック・シティNY/プエルトリコ系ニューヨーカー(前編)

 ニューヨークには今、ラテン・パワーがみなぎっている。情熱的で、早口のスペイン語を話し、サルサ・ミュージックをなにより愛するプエルトリコ系は、シネマ・シーンでも本格的な活動を始めている。今回はNYを舞台にしたプエルトリカン・ムービーと、ビビッドな演技を見せてくれるラティーノ・アクターを紹介しよう。
 プエルトリコとは、カリブ海に浮かぶ風光明媚な小さな島。アメリカ準州なので島民はビザなしでアメリカに渡ることができ、1930年頃から大量の移民がやってくるようになった。

 そのプエルトリコも含めて、中南米のスペイン語圏諸国の出身者をラティーノと呼ぶが、ニューヨーク市ではラティーノが人口の3割近くを占めるまでになっている。とは言え、ラティーノ移民の平均所得はまだまだ低く、アメリカ領であるプエルトリコ以外からの移民には違法滞在者も多い。
プエルトリコ旗のミューラル(グラフィティ)は
プライドの表れ
 そういった事情からラティーノのシネマ・シーンへの進出は遅れており、いわゆるブラック・ムービーに比べると、ラティーノ・ムービーはまだまだ少ない。しかし、ニューヨークを舞台にした映画を注意深く見ていると、実はラティーノをたくさん見つけることができる。

 スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』('83)はニューヨーク/ブルックリンの黒人地区を舞台にしているが、スパイク・リー演じる主人公ムーキーのガールフレンド(ロージー・ペレス)はプエルトリコ系で、ふたりの間に生まれた子供は黒人とラティーノのミックス。ニューヨークでは、この組合せのカップルやミックスの子供は、実際にとても多い。また、劇中では黒人ヒップホップvsプエルトリコ系サルサによる“ラジカセ・ボリューム合戦”という、実際にはあり得ないがユーモラスなシーンも見られる。
 プエルトリコ系を主人公にした作品なら、日系のカリン・クサマ監督による『ガールファイト』(00)がある。ニューヨーク/ブルックリンのプエルトリコ系地区で、怠惰で無責任な父親(ポール・カルデロン)とやり切れない生活を送っていた少女ダイアナは、ボクシングを始めたことにより少しづつ変化を遂げていく。

 この作品がデビュー作の主演ミシェル・ロドリゲスは、プエルトリコ系とドミニカ系のミックス。『ワイルド・スピード』(01)などで、野性味たっぷりのキャラクターを演じる期待株だ。
陽気なラティーノの床屋さんとお客たち
 『ピニェーロPinero』(01)は、ニューヨーク/ロウワー・イースト・サイドに実在するポエトリー・リーディングのメッカ“ニューヨリカン・ポエッツ・カフェ”の創設者であるプエルトリコ系詩人、ミゲル・ピニェーロの生涯を綴った伝記映画。天才的な才能を持ちながら麻薬中毒となって早逝したピニェーロを演じ、役者として新生面を見せたベンジャミン・ブラットもラティーノだが、プエルトリコ系ではなく、ペルー・インディアンと白人とのミックス。
 ニューヨークのプエルトリコ系コミュニティを描いた作品で忘れてはならないのが、あの『ウエスト・サイド物語』('61)。これは「ロミオとジュリエット」を下敷きに、当時は貧民街だったマンハッタン/ヘルズ・キッチンでのプエルトリコ系ギャングと白人ギャングとの抗争と、その狭間での許されないラブ・ストーリーを描いている。だが、映画が制作された当時はラティーノ俳優が少なく、またマイノリティ俳優への差別もあったため、主役のプエルトリコ系兄妹はジョージ・チャキリス、ナタリー・ウッドという白人アクターによって演じられている。主要キャラクターの中で実際にプエルトリコ系だったのは、ヒロインの親友役のリタ・モレノだけだった。(以下、続く)
カラフルなラティーノの食料品屋


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