TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 『キング・オブ・ニューヨーク』に観るリアルNY

 常にニューヨークのダークサイドを描き、カルト人気を誇るアベル・フェラーラ監督の『キング・オブ・ニューヨーク』('90)は、マンハッタンの超高級ホテルからブロンクスのゲットーまで、ニューヨークのあらゆるエリアを見ることの出来る貴重な一作だ。今回はこの作品に描かれるシーンを通して、リアルなニューヨークにふれてみたい。
 個性派クリストファー・ウォーケン演じる主人公フランクは、白人でありながら黒人ギャングのリーダー。これは実際には有り得ない突飛な設定だが、他にも南米系、イタリア系、中国系のギャングが次々と登場するあたりは、ニューヨークの多様なエスニック模様をそのまま呈している。そのため各シーンの背景も、バラエティに富んだリアルなニューヨークのコラージュとなっていて興味深い。

 刑期を終えたフランクは、豪華なリムジンでニューヨーク州郊外にある刑務所から、娼婦が佇み、男たちがたむろするサウス・ブロンクスのゲットーを抜け、マンハッタンへと入る。フランクが到着したのは5番街とセントラルパークの角にそびえる超一流のプラザ・ホテル。 そこで部下(ローレンス・フィッシュバーン、ジャン・カルロ・エスポジート、スティーブ・ブシェミ他)と再会したフランクは、受刑中に失った縄張りを取り戻すべく、さっそく行動を開始する。
セントラルパーク・サウスにある超一流プラザ・ホテル
 まずはリトル・イタリーのレストランIl Tramontoでマフィアに宣戦布告をし、チャイナタウンの映画館でも中国系ギャングと渡りをつける。その合間にはブロードウェイの芝居を楽しみ、タイムズスクエアにある高級レストランLunt Fintonneのバーでくつろぐ余裕すら見せつける。
 フランクを追い詰めようとする刑事は、アイルランド系(デビッド・カルーソ)と黒人(ウエズリー・スナイプス)のコンビで、その上司はイタリア系(ビクター・アーゴ)という、これは実際の警察官にも多いエスニック構成。3人はフランクとの闘いに明け暮れるが、時にはアイルランド系コミュニティにあるアイリッシュ・バーでの、同僚刑事のウエディング・パーティで束の間、人間性を取り戻すこともある。

 一方、フランクの右腕の殺し屋がフラリと立ち寄るのは、ブロンクスやブルックリンの貧しい黒人地区に無数にあるフライドチキン屋。ニューヨーク中を縦横無尽に走る地下鉄だが、マンハッタンを出ると、その多くは高架となっており、ジミーが入る貧装な店も高架線のたもとにある。
サウス・ブロンクスの地下鉄・高架駅
 ハイソなプラザ・ホテルに飽き足らないフランクの一味は、ブルックリン・ブリッジの足下にある廃虚でドラッグ&セックスのパーティに溺れる。ところがフランクへの憎しみが超点に達した刑事たちが殴り込みをかけ、深夜のブルックリン・ブリッジでのカーチェイスが繰り広げられる。

 その結果ほとんどの部下を無くしたフランクは、報復のためにブルックリンの広大な墓地で行われた黒人刑事の葬儀に乗り込み、さらにクイーンズに住むイタリア系刑事の自宅にも潜入。その後、クイーンズからマンハッタンへと向かう7番線の地下鉄に乗り、やがてタイムズスクエアに着いたフランクは、ひとり夜の雑踏を彷徨い、イエローキャブを拾うが…。
マンハッタンとクイーンズを往復する地下鉄7番線
 ニューヨーク/ブロンクス生まれのアベル・フェラーラ監督と、クイーンズ生まれのクリストファー・ウォーケンが見せるリアル・ニューヨーク。きらびやかなマンハッタンだけがニューヨークではないことを知るには絶好の作品だ。

※劇中に出てくる店名はプラザホテル以外は架空


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