TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 アーバンワールド・フィルム・フェスティバル2002

ブラック・ムービーの祭典、第6回アーバンワールド・フィルム・フェスティバルが8月7日から11日にかけて開催された。メジャー作品からインディーズ、ドキュメンタリーまで、ブラック・ムービーの最先端シーンを知ることができる貴重なイベントだ。
 今年は長編、ドキュメンタリー、ショート・フィルム合わせて56本が、主にマンハッタン34丁目にある映画館The Loews 34th St.で上映された。ここ数年はブラック・ムービーの他に、アメリカでの人口増加と共に勢いを増してきたラティーノ・ムービー、アジア系ムービーも上映されている。しかし今年はアジア系の作品は、ヒップホップDJと恋に落ち、祖国の伝統とのはざまで葛藤するニューヨークの中国系アメリカ人女性を描いた『Face』の1本のみ。フェスティバルのエグゼクティブ・ディレクターがアジア系のジョイ・ヒュアンであることを考えると、やや残念だ。

 オープニング&クロージング、及びスペシャル・スクリーニングとして上映された5作品は、いずれも興味深い。まずは秋頃に全国公開予定の『Drumline』。ハーレムのストリート・ドラマーが、マーチング・バンドに参加するべく南部の大学に入学するコメディ。出演はニック・キャノン、オーランド・ジョーンズ他。
フェスティバル公式ポスター
 役者としても活躍するラッパー、アイス・キューブ待望の新作『Barbershop』は、シカゴで父親から冴えない床屋を譲り受けた息子の一日を描いたコメディ。『Biggie & Tupac』は96~97年に巻き起こったヒップホップのNY-LA対決と、大物ラッパーふたりの射殺事件を追ったドキュメンタリー。『Paid in Full』は1986年のハーレムの若者たちを描いている。出演はウッド・ハリス、メイキ・ファイファー他。『Crazy As Hell』は日本でも放映されているテレビ・ドラマ『サード・ウォッチ』のマイケル・ビーチが精神科医を、『ER緊急救命室』のエリック・ラサールが患者を演じる異色作。
会場となったThe Loews 34th St.シアター
 他にもヒップホップ版『華麗なるギャツビー』(74)と評された『G』、インターネット会社に勤めるグラフィック・デザイナーを主人公にしたラブ・コメディ『Me and Mrs. Jones』、元フージーズのプラズ、ボビー・ブラウンが大当たりの宝クジと強盗を巡って大騒ぎする『Go For Broke』、腐敗した刑務所システムに団結して立ち上がる女性受刑者を描いた社会派作品『Civil Brand』などバラエティに富んだ作品が並んだ。

 また盛り上がるラティーノ・ムービー・シーンを反映して、アーバンワールド・フィルム・フェスティバルより1週間早く開催されたラティーノ・フィルム・フェスティバルで好評だった『Washington Heights』『Manito』を上映、他にもプエルトリコ系、メキシコ系、ブラジル系などを描いた多彩なラティーノ・ムービーがあった。
『Civil Brand』のポスター。
女性監督が団結する女囚を描いた力作
 これらのラインナップから観客の投票によるベスト観客賞に選ばれたのは、ニューヨークのラティーノ・コミュニティに暮らす兄弟を描いた『Manito』。なお、今年から新たに設けられた“メッカ・ムービー・アワード”の授賞式はマンハッタンのプラネット・ハリウッドで行われ、俳優賞にはラッパーでありながら俳優・監督業もこなし、今年のフェスティバル・クロージング作品となった『Barbershop』主演のアイス・キューブが選ばれた。フューチャー・オブ・ザ・フィルム賞には、『セイブ・ザ・ラスト・ダンス』(01)、『9デイズ』(02)に続いて、メグ・ライアン主演『Against The Ropes: The Jackie Kallen Story』に出演が決定し、文字通り輝かしい未来を持つ女優ケリー・ワシントンに贈られた。


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