TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 ニューヨーク・コリアン・フィルム・フェスティバル2002

 ニューヨークのカルチャー・シーンにも徐々に台頭してきた韓国系アメリカ人。若手の映像作家による組織KOFFO(Korean Film Forum)の主催により、今年で2回目となるニューヨーク・コリアン・フィルム・フェスティバル2002~ビタースゥート・ドリームス~が開催された。
 さまざまな移民のグループで構成されているニューヨークだが、ここ数年はアジア系の人口が急激に伸び、現在、韓国系は48万人が暮らしているとされている。韓国からの移民が増えたのは1960年台以降。母国では高等教育を受けていたものの、英語の苦手な一世たちは24時間営業の食料品店を開いてひたすら働いた。新鮮な野菜や果物を売る韓国系の店はどれも繁盛し、彼らはアメリカ生まれの子供たちを大学へ通わせた。その結果、二世、三世の中からは高学歴・高収入となる者が続々と現れ、韓国系グループは他の移民グループに比べると社会的成功までのスピードが圧倒的に早かった。

 こういった環境で育った韓国系アメリカ人の若者たちは、母国の文化や伝統を守りながらも、おしゃれでアートへの関心も高い。ダウンタウンにあるNYU (ニューヨーク大学)の映像科などでも韓国系の学生を見かける。そんな若者たちが昨年、ついにコリアン・フィルム・フェスティバルを開催したのだった。
フェスティバル公式ポスター
 第2回目となった今年は、ロウアー・イーストサイドにあるアンソロジー・フィルム・アーカイブスで8月16日から23日にかけて行われた。この映画館は古い裁判所を改造した2スクリーンのアート館で、通常はかなり実験的な作品やアンダーグラウンドな作品を上映している。

 今回のフェスティバルでは、1999年から2002年に製作され、いずれも本国や東京、トロント、ロンドンなどの映画祭で高い評価を得た12本が上映された。その中の一本『血も涙もなく』(02)は、クエンティン・タランティーノ風のフレイバーを持つハードボイルド・アクションだが、主人公はふたりの女性。

 イ・へヨン演じる元ギャングで現在は借金に追われる女タクシー運転手と、チョン・ドヨン演じるギャングの女が、闘犬の上がり金を盗む。韓国ナンバーワンのアクション女優と呼ばれるイ・へヨンが、これでもかというほどに“殴られる”シーンは鮮烈だが、随所にコミック・リリーフも配し、アクションとユーモアのバランスが絶妙。
館内で上映を待つ観客。やはり韓国系が多いが白人の映画マニアも見かけられた
 他には韓国版『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』('84)と評され、韓国映画界の記録を塗り替える大ヒットとなった『友へ チング』(01)、殺人事件のあったアパートに暮らす住民たちの恐怖を描いたホラー『鳥肌』(01)、公害による酸性雨が降りしきる近未来の街を舞台にした『バタフライ』(01)、勤め先を解雇されて“主夫業”に楽しみを見つけた途端に、キャリアウーマンである妻の浮気を知った男を描く『ハッピーエンド』(' 99)、孤独な少年のファンタジーをリリカルに表現したアニメ『マリ物語』(01)、幼なじみの女性5人の再会を描く『猫をお願い』(01)など、数は12本と少ないながらも見応えのある作品が並んだ。(いずれも韓国語、英語の字幕付き)

 全ての作品が本国で製作されていることから、作品を通して現在の韓国の若者風俗を知ることもできる。日本の若者とほとんど同じファッションやカラオケが登場する一方で、韓国では成年男子に20ヶ月の徴兵義務があり、そのために別れざるを得ない恋人たちが登場する作品が2本もあるという具合だ。残念ながらニューヨークの韓国系アメリカ人を描いた作品は今回はなかったが、これは今後、必ず登場するだろう。
幼なじみの女性5人が再会し、過去と未来を探る様子を綴る
『猫をお願い』のポスター


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