TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 NYU/ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アーツ

 通称“NYU”ことニューヨーク大学は、あらゆるサブカルチャーの中心地であるマンハッタンのヴィレッジにあり、そのアート学部ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アーツ(TISCH)からはアメリカン・シネマ・シーンをリードする数々の監督やアクターが誕生している。今回はそのキャンパスをのぞいてみよう。
 ヴィレッジの中心には白い凱旋門がそびえるワシントン・スクエア公園がある。愛犬を連れて散歩する人や木陰のベンチで読書する人、またはストリート・パフォーマンスを繰り広げるミュージシャンやダンサーなどでいつも賑わっている。

 そんな公園の周囲には小振りで瀟洒な古い建物が立ち並んでいるが、その多くに紫色のバナーが取り付けられている。それぞれのバナーにはNYUの学部名や、劇場、カフェ、ブックストアなどの名前が記されている。紫はNYUのシンボル・カラーであり、この辺り一帯はNYUのキャンパスとなっているのだ。手狭なマンハッタンゆえにキャンパス用に広大な敷地を確保することが出来なかったNYUは、1831年の創立以来、既存の建物を次々と改装してはキャンパスに転用してきた。ところが、それが“都会のど真ん中にある大学=NYU”ならではの独特の学風を生み出したのだ。
NYUのシンボルマーク
 それが顕著なのが、にぎやかなブロードウェイ沿いに建つティッシュ・スクール・オブ・ジ・アーツ(TISCH)。ここはNYUのアート学部として1965年に創立され、現在は映画&TV制作、写真、舞台デザイン、脚本、演技、ダンスなどの学科を持つ。

 この学部に入学するには作品提出かオーディションが必須となっており、さらに高校での学業成績も重視される。しかも学費も高く、映画製作科の場合は1年間で15,491ドル(約182万円)。さらに課題映画の制作費が毎年数千ドルは必要で、特に卒業制作には最低でも1万ドル(約118万円)かかるという。しかも物価の高いマンハッタンでは寮費や生活費も相当なもの。
モニュメントの前でくつろぐ学生たち。
未来の大物監督かもしれない?
 それでも、ここはあらゆる人、モノ、アート、現象が集まるマンハッタンのダウンタウン。学生たちは毎日この学校に通うだけで、クリエイターには欠かせない新鮮な刺激を受けることになる。加えて教授陣や学校設備の充実度も素晴らしく、ワシントン・スクエア公園を取り巻くように学生寮、専用インターネット・カフェ、コンピュータ・ストアなどが立ち並ぶ。こういったことからここには多くの入学志願者が殺到し、競争率は非常に高い。

 そんな難関をくぐり抜けてTISCHで学んだ卒業生の中には錚々たる顔ぶれが並ぶ。映画監督ではマーティン・スコセッシ、ジム・ジャームッシュ、アン・リー、スパイク・リー、ジョエル・コーエン、オリバー・ストーンなど。スパイク・リーとアン・リーが同期で共同作業もしていたことは有名なエピソード。舞台監督ではブロードウェイ・ミュージカル『Bring in da Noise, Bring in the da Funk』、現在ハーレムのアポロ劇場で上演中の『Harlem Song』などで知られるジョージ・C・ウルフ。
ワシントン・スクエア公園のアーチ。
NYUの学生にとっては裏庭のような存在
 アクターでは同学部の学部長委員会のメンバーでもあるアレック・ボールドウィン、ビリー・クリスタル、マーシャ・ゲイ・ハーデン、エリック・ラ・サールなど。ユニークなところでは映画『スラム』(ヤ88)の共同脚本を書き、主演も果たした詩人のソウル・ウィリアムスもいる。またインディーズ色の強いニューヨーク・シネマ・シーンを反映し、サンダンス映画祭などで好評を得た作品の監督の中にも同校出身者は多い。さらにブロードウェイや映画で舞台セット、照明デザイン、衣装デザイン、脚本などを手掛けている卒業生も無数にいる。

 来年度入学希望者の作品提出期限は12月。今頃、世界中の若者が明日のシネマ・クリエイターを目指して作品製作に励んでいるはず。その中から、もしかしたら第二のスコセッシやスパイク・リーが生まれるのかもしれない。
TISCHの校舎はブロードウェイ沿いの立派な建物。
現在は外装工事中だ


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