TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 エスニック・シティNY アフリカンーアメリカン/ハーレム編 その2

 現代のハーレムを舞台にした作品は意外に少ないが、そのうちの1本がスパイク・リー監督のもとでカメラマンをしていたアーネスト・R・ディッカーソンの監督デビュー作『ジュース』('92)。現在は、実力派アクターとして活躍中のオマー・エプスがDJ志望の少年、97年に射殺されて今や伝説のラッパーとなっている2パック・シャクールがその友人を演じ、犯罪に手を染めていくハーレムの少年たちの姿を痛々しく描いている。
 ウェズリー・スナイプス主演の『シュガー・ヒル』('94)は、ハーレムの中にある高級住宅地区シュガー・ヒルに生まれ育ったインテリ・ドラッグ・ディーラーの苦悩の物語。新作では10月に公開される『Paid in Full』がある。これはアメリカで大きな話題となったバドワイザーの“Whassap?!”CMを手掛けた監督チャールズ・ストーン三世の劇場映画デビュー作で、1980年代のハーレムを舞台に、やはり犯罪に走る若者たち(ウッド・ハリス、メイキ・ファイファー)が主人公となっている。こうしてみると、ハーレムを舞台にした作品にはやはり犯罪ものが多い。昔から現在に至るまで“ハーレム=貧困・犯罪地区”というイメージが強烈に浸透しているためだ。
ハーレムの高級住宅地シュガー・ヒル
 しかし犯罪以外のハーレムを描いた作品もある。中でも異色なのはジョン・セイルズ監督による『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』('84)。外見が黒人とそっくりな逃亡異星人(ジェリー・モートン)が追っ手から逃れるためにハーレムに紛れ込み、ハーレムの住人たちとほほえましい交流を見せる佳作だ。

 他にはニューヨークを代表する黒人監督スパイク・リーの代表作で、デンゼル・ワシントンが主役を務めた『マルコムX』('92)がある。生前のマルコムXが立ち寄ったとされるハーレム内の実在の場所があちこち登場する。また同じくリー監督が異人種間の恋愛問題に挑戦した『ジャングル・フィーバー』('91) では、ウェズリー・スナイプス演じる黒人建築家がハーレムに住んでいるという設定。しかしリー監督の作品の舞台設定は同じニューヨークでも本人が暮らしているブルックリンであることが多く、ハーレムはあまり登場しない。
マルコムXがモハメッド・アリと会見したホテル・テレサ
 最近の作品でハーレムが登場するものには、オペラ歌手になりたいと願うハーレムの若者を主人公にしたインディーズ作品『Harlem Aria』('99)がある。これは新進のウィリアム・ジェニングス監督によるもので、出演はクリスチャン・カマルゴ、デイモン・ウェイアンズ。また前述『Paid in Full』のストーン監督の2作目『Drumline』も来年早々に封切り予定だが、これはハーレムの若き天才ドラマーが奨学金を得て南部の大学に進学するというストーリーで、出演はニック・キャノンとオーランド・ジョーンズ。
 このようにハーレムを舞台にした作品にも徐々にではあるが、バラエティが出てきている。その理由のひとつは、ここ数年のハーレム再開発による治安の向上=犯罪発生率の低下だろう。またスパイク・リー監督の登場から20年近くを経てブラックムービー・シーン自体も多様化が進んでおり、黒人監督にもいろいろなタイプが出てきていることが考えられる。

 こういったことから今後はハーレムをさらに肯定的に、または多面的に描く作品がますます増えていくのではないだろうか。
再開発が進んでも、昔ながらのニューススタンドも健在


■以下はハーレムが登場する作品
■『アリ』(01)…モハメッド・アリ(ウィル・スミス)とマルコムX(マリオ・ヴァン・ピーブルズ)が125丁目にあるホテル・テレサの一室からアポロ・シアターを見下ろす。
■『ロイヤル・テネンバウムズ』(01)…テネンバウム一家が暮らしている“裕福な白人のエリア”は、実はハーレムのハミルトン・テラス地区で撮影された。
■『ダイ・ハード3』('95)…テロリストの要求によってマクレイン刑事(ブルース・ウィリス)が「オレは黒人が嫌いだ」という看板をまとってハーレムの街角に立たされる。
■『ダウン・トゥ・アース』(01)…クリス・ロック演じる売れないコメディアンがアポロ・シアターのアマチュア・ナイトに出演。
■『シャフト』(00)…シャフト刑事(サミュエル・L・ジャクソン)のためのパーティが開かれたのは、実在のジャズ・クラブ、レノックス・ラウンジ。
アイス・キューブ主演『Barber Shop』を上映中の
マジック・ジョンソン・シアター。
シカゴが舞台だがハーレムでも大ヒット


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