TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 ザ・ミュージアム・オブ・セックス
 100以上もの美術館・博物館がひしめくニューヨークに、またひとつ新しい博物館がオープンした。その名も「ザ・ミュージアム・オブ・セックス」。今回はオープン前からセンセーションを巻き起こしたこのセックス博物館をご紹介。

 最近、近代美術館とアフリカン・アート美術館が新館完成までの仮住まいとしてマンハッタンからクイーンズへと移動し、クイーンズがニューヨーク・アート・シーンのホット・スポットとして突如、注目を浴び始めた。しかしマンハッタンにも新たな博物館がオープンし、大きな話題となっている。

 それもそのはず、ここはセックスに関するアートや資料を展示するザ・ミュージアム・オブ・セックス。テーマの過激さが多くのニューヨーカーの関心を引き、さらにオープン前からキリスト教関連団体が内容が好ましくないとクレームをつけるという事態も起こってメディアでも大きく紹介された。そのためオープン初日の10月5日以降、週末には必ず行列ができるほどの盛況振り。

 現在、開催されているのは「NYC SEX」と題された展覧会。ニューヨークのセックス風俗にまつわる資料、写真、絵画、フィルムなどが年代順に展示されており、ニューヨーカーがどのようにセックスと関わってきたか、セックスの描かれ方が時代と共にどう変わってきたかが分かる。
「NYC SEX」ポスター
 1800年代末から1900年代中期にかけては文章資料、イラスト、写真が中心。ペチコートでふくらませたドレスにボンネットを被った女性とフロックコート姿の男性の情交シーンを描いたイラストは、今ではのどかで微笑ましくさえ感じる。1920年代頃のコンドームのブリキ缶ケースのコレクションは、デザインがバラエティに富んでいて貴重。昔のキャバレーの歌姫たちの華やかな衣装やレビューの写真はエロティックというよりもレトロ。
 1930年代以降はゲイ、レズビアン、フェティッシュ、SMがフィーチャーされている。アメコミ「ワンダーウーマン」にはレズビアン及びSMタッチの描写があること、1930~1950年代にはレズビアン対象のペーパーバック小説が多く出版されていたことなどは意外な驚き。アメリカの国民的セックス・シンボル、マリリン・モンローのヌード写真もある。

 ゲイ・セクションでは1980年代に大人気だったグループ、ヴィレッジ・ピープルのポスターを中心に据え、ハード・ゲイのカルチャーを写真やイラストで展示。他には1971年に出版した自伝「ハッピー・フッカー(幸福な売春婦)」が1,600万部も売れた高級娼婦イグザヴィエラ・ホーランダー、1970~80年代にポルノ映画界の大スターであったヴァネッサ・デル・リオなどの資料もある。またポルノ街だった42ndストリートをクリーンナップするために当時のコッチ市長が作成した企画書まで展示。
現在開催中の「NYC SEX」のカタログ
 時代が進むにつれて過激な描写の写真やビデオが登場するが、博物館というシチュエーションのためか、入館者は通常の美術作品を見ているかのような平静な態度で展示物を鑑賞。入館者には20~30代が多く、年配者はあまり見かけない。また18歳以下は入館できない。
 美術館・博物館は本来は文化施設として非課税となるのだが、州政府評議会はこのザ・ミュージアム・オブ・セックスに非課税認定を行わなかった。加えて同博物館がポルノ業界からの寄付金を断ったために経営はラクではなく、入館料は17ドル。ニューヨークの多くの美術館が5~12ドルなので、これは非常に高く感じる。

 展覧会を見終わったカップルの感想は、まずは「入館料が高すぎる!」。それから「前半部分は文字資料が多かったし、ちょっと期待外れ」と、「セックス」という言葉にかなりの期待を持ってしまったためか、文化資料的見地からの展示に少々肩すかしといった様子。それでも入館を待つ列はまだまだ長く、この人気はしばらくは衰えそうにない。
「NYC SEX」のパンフレット。
The Museum of Sex
233 Fifth Avenue (@ 27th Street)
New York, NY 10016
(212) 689-6337
■ザ・ミュージアム・オブ・セックス公式サイト> http://www.museumofsex.com/


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