TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 ハーレム・ミュージカル

 黒人文化のメッカと呼ばれるハーレムを舞台にしたミュージカルが、相次いで上演されている。古き佳き時代のジャズやダンス、そしてレトロなファッションが楽しめるハーレム・ミュージカルをまとめてご紹介します。
 ニューヨークの黒人地区ハーレムは、1920~1960年代にかけてはブラック・エンターテインメントの発信地として知られていた。ところがいつしかその伝統に翳りが見え始め、一時はかのアポロ劇場ですら公演回数が極端に減り、寂しい状態が続いていた。

 しかしここ最近、ハーレムをテーマにしたミュージカルが人気を集め、またハーレムでのミュージカル公演も増えている。アポロ劇場ではハーレムの歴史を歌と踊りで綴ったミュージカル・レビュー『ハーレム・ソング』を8月より上演中。プロデューサーは『ブリング・ダ・ノイズ、ブリング・ダ・ファンク』、『トップドッグ/アンダードッグ』などを手掛けたジョージ・C・ウォルフ。公演開始前から劇場側は盛んなプロモーションを行い、新聞や雑誌などのレビューでは“古き佳き時代のハーレムを巧みに再現”と高い評価を得ている。これらが功を奏し、これまでハーレムには足を向けなかった団体観光客に特に人気が高い。
「ハーレム・ソング」を上演中のアポロ・シアター
 この『ハーレム・ソング』に続いて9月に42ndストリートにあるオフ・ブロードウェイのハウスマン・シアターで始まったのが『ラングストン・ヒューズ・リトル・ハム:ア・ハーレム・ジャジカル』。ハムとはハーレムの愛称で、ジャジカルとはジャズをふんだんに使ったミュージカルのこと。ハーレムで黒人文化が一気に華開いた1920年代はハーレム・ルネッサンスと呼ばれるが、その時期に活躍した詩人でジャズにも傾倒していたラングストン・ヒューズの半生にインスパイアされて作られた作品。

 トライベッカ・パフォーミング・アーツ・センターでは『シェイズ・オブ・ハーレム:ザ・コットン・クラブ・ミュージカル』が11月19日~24日に8回のみの限定上演となる。ハーレム華やかなりし1920~30年代に一世を風靡し、コッポラ監督による映画『コットン・クラブ』('84)により一般にも知られる存在となった実在のジャズ・クラブを取り上げたミュージカル。
「リトル・ハム」のフライヤー
 ハーレムにあるナショナル・ブラック・シアターでは『マリアン・アンダーセン:ザ・レディ・フロム・フィラデルフィア』を11月16日まで上演中。これは1920年代から数少ない黒人オペラ歌手として活躍し、黒人歌手として初めてニューヨークのメトロポリタン・オペラ劇場で歌うという快挙を成し遂げたマリアン・アンダーセンの半生を綴ったミュージカル。

 さらにハーレムのセント・フィリップ教会コミュニティ・センターで11月24日まで上演中の『ア・ソング・フォー・ユー:黒人女性の公民権運動の旅』もある。これも実在の大物女性ジャズ・シンガー、リナ・ホーンの物語。
「シェイズ・オブ・ハーレム」のフライヤー
 ハーレムには音楽・演劇・ダンス・ビジュアルアートのコースを持つハーレム・スクール・オブ・ジ・アーツがある。同校の劇団が10月4日から27日まで限定公演したのが『マ・レイニーズ・ブラック・ボトム』。1920年代に人気のあった女性ブルース・シンガー、マ・レイニーを主人公にしたミュージカルで、そもそもは1984年にブロードウェイで上演され、当時トニー賞候補にもなったもの。今回のリバイバルに続いて、来年1月からはウーピー・ゴールドバーグ主演により再びブロードウェイでも上演される。

 R&Bやヒップホップはもちろん、ロックンロールに至るまで多くのアメリカン・ポピュラー・ミュージックのルーツは昔の黒人音楽にあると言われている。ハーレムの音楽シーンがもっとも華やかに盛り上がっていた時代をミュージカルを通して体験すれば、温故知新のことわざどおり、これからのポピュラー・ミュージックやショービズの方向性も見えてくるかもしれない。


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