TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 スパイク・リー/絵本出版と新作映画『The 25th Hour』

 期待の新作『The 25th Hour』の公開を間近に控えているスパイク・リー監督が、それに先駆けて妻と共著の絵本を出版し、サイン会を行った。今回はその模様をレポートします。
 ハーレムのシネコン、マジック・ジョンソン・シアターと同じビルにあるヒューマン・ブックストアは、ブラックカルチャー関連書籍の専門店。ゆったりと広く、落ち着いた色調でまとめられた店内には、ジャズや絵画のアートブック、黒人作家による小説、黒人学の専門書から児童書までが並んでいる。

 このヒューマン・ブックストアでは著名作家によるサイン会が頻繁に開かれており、今月前半にはマルコムXの娘であるイレイサ・シャバズ、『DENGEKI(電撃)』『ロミオ・マスト・ダイ』など映画にも出演し、最近自伝を出版したばかりのラッパーDMX、R&Bシンガーのアシャンティなどが来店。そして11月14日には、初の絵本『プリーズ、ベイビー、プリーズ』を出版したスパイク・リー&トーニャ・ルイス・リー夫妻がサイン会を開催した。
夫妻共著の絵本『Please, baby, Ppease』
イラストはカディール・ネルソン
 ふたりが共同制作した絵本は、はちきれんばかりのエネルギーで両親を振り回す2歳の女の子が主人公。朝食のコーンフレイクを頭からかぶったり、公園から帰りたくないとダダをこねたり、お風呂を水浸しにしたり、そのたびにママは「お願い、ベイビー、やめて!」と悲鳴を上げるという具合。
 サイン会当日、トーニャは会場に早々に到着したが、リー監督はなぜかクリーニング屋の袋をぶら下げて40分の遅刻。ふたり揃って席に着くと、仲むつまじく1ページずつ交互に絵本を朗読し、その後は参加者からの質問に答える形で絵本作りの動機や創作過程、子育てについて語った。

 リー夫妻には現在7歳の女の子と5歳の男の子がおり、どちらも2歳の時にもっとも手がかかったとか。ニッケルオデオンという子供向け番組専門のテレビ局に勤めるトーニャは、それを他の子育て中の親と分かち合うために絵本を作ったという。一方、リー監督は黒人の子供向け絵本のマーケットにはまだまだ大きな可能性があり、ビジネスとしても捉えている様子。
絵本を朗読するスパイク・リー&
トーニャ・ルイス・リー夫妻
 会場にいた小学生くらいの男の子が「続編は作らないの?」と質問すると、「そのうちに君の弟向けのものを作るよ。それから父親向けの作品もね」とジョークを飛ばして会場を笑わせた。つまり数年後に1冊、質問した少年が父親になった頃にまた1冊、という意味だが、出来ることならシリーズ化したいとの意向。

 ちなみにタイトルの『プリーズ、ベイビー、プリーズ』は、リー監督の映画第2作『シーズ・ガッタ・ハブ・イット』('86)の中で登場人物のひとりが繰り返していたセリフから取られている。
 ところで12月19日封切り予定の新作映画『The 25th Hour』は、エドワード・ノートン主演の期待作。ノートン演じるウォール街の株ディーラーが麻薬売買に手を出し、7年間の禁固刑を宣告される。しかし刑の執行日前日、つまり最後の自由な24時間を、主人公はニューヨークの街に飛び出して過ごす。もちろん最後にはあっと驚くどんでん返しが用意されているというが、これは見てのお楽しみ。待ちきれない人は、原作であるデビッド・ベニオフ著の同名小説を読んでもいいかもしれない。なお、当初、主役にはトビー・マクガイアが予定されていたが、『スパイダーマン』(02)主演のために降板となった。

 スパイク・リー監督といえば、『ドゥ・ザ・ライト・シング』('89)でブラックムービー・ブームに火を付けた、いわばシーンの先導者。しかし、99年に初の白人キャラクター主演作『サマー・オブ・サム』を公開した際には、一部の黒人ファンから非難を浴びた。サイン会場で「再度“ノン・ブラックムービー”を作った理由は?」と尋ねられた監督は、ひとこと「いいストーリーだったからだよ」と返答。つまり良い映画に人種は関係ない、ということなのだろう。
スパイク・リー監督、エドワード・ノートン主演『The 25th Hour』の新聞広告
 ブラックムービーの枠を超えた映画作りと、ブラックキッズのための絵本出版。スパイク・リー監督の動向は、これからもますます論議を呼びそうだ。
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