TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 ニューヨーク最新ラティーノ・ムービー

 はじけるパワーとカラフルな色彩でアメリカを席巻しつつあるラティーノが、いよいよ映画界でも快進撃を始めた。今回は、第二の『プリティ・ウーマン』と称されるJ.Loの新作ほか、ニューヨークを舞台にしたラティーノ映画をご紹介。
 「少しくらいぽっちゃりしてたって、いいじゃない!」と本音で生きるラティーノ女性の姿をコミカルに描いた『Real Women Have Curves』(02)は、低予算作品にもかかわらず予想外のヒットとなり、現在は上映館数を増やしてロングラン中。今や“ラティーノ版『マイ・ビッグ・ファット・グリーク・ウェディング』(02)”と呼ばれている所以だ。
 この『Real Women Have Curves』に続いて、いよいよニューヨークのラティーノを主人公にした作品が上映され始めた。

 まず12月8日に公開となったのが、ジョン・レグイザモ主演の『エンパイア(原)』。レグイザモ演じるサウスブロンクスのドラッグディーラーが、ウォールストリート勤務のエリート青年と意気投合。株式投資によってディーラー稼業から足を洗い、サウスブロンクスのゲットーからマンハッタンの上流社会へと住む世界を変えようとする。ところが思わぬところに落とし穴があり…。

 ニューヨークのラティーノにはプエルトリコとドミニカ共和国の出身者が多く、最近ではメキシコやエクアドエルからの移民も増えてきている。それぞれが出身地別にコミュニティを持っており、サウスブロンクスはプエルトリコ系が多いエリア。かつては“世界一危険な場所”とさえ呼ばれたが、近年は徐々に環境も良くなってきている。それでもまだ貧しい人々も多く、若者の中にはドラッグ売買に手を染める者が後を絶たないというのも現状だ。
『エンパイア(原)』の新聞広告
 そんなサウスブロンクスの青年を演じる主演のジョン・レグイザモは、プエルトリコ系だが生まれたのは南米コロンビア。子供の頃にニューヨークに移民としてやってきている。そういった自身の出自を過激に一人語りするオフ・ブロードウェイ・トーク・ショー『Mambo Mouth』『Spic-O-Rama』 は高い評価を得た。ハンサムとは言い難く、173cmと身長も高くはないが、その独特の魅力から、ピープル誌の選ぶ“もっともセクシーな男性 ALIVE 2002”にリストアップされている。

 なお、この作品にはサウスブロンクス出身のラティーノ・ラッパー、ファット・ジョーと、ラップ・グループ、ノーティ・バイ・ネイチャーのメンバーであるトリーチが出演し、物語にリアリティを添えている。そして、なんとイザベラ・ロッセリーニが大物ドラッグディーラー“ラ・コロンビアーナ”役で出演している。
ブロンクスにあるファット・ジョーのグラフィティ。
 この『エンパイア(原)』のキャッチコピーは“ふたつの世界(サウスブロンクス/マンハッタン)の衝突”だが、同じふたつの世界の幸福な出会いを描いているのが、12月13日封切り予定のジェニファー・ロペス主演ロマンチック・コメディ『メイド・イン・マンハッタン(原)』だ。

 ロペス演じるプエルトリコ系の若いシングル・マザー、マリッサは、やはりブロンクスに暮らしており、マンハッタンの一流ホテルでメイドとして働いている。いつも笑顔を絶やさず明るく働くマリッサは、このホテルにやってきたリッチで有望な若き政治家(レイフ・ファインズ)と恋に落ちてしまう。しかしメイドであることを知られたくないメリッサは…。
『メイド・イン・マンハッタン(原)』の駅張りポスター
 若くて健気な女性がリッチな男性と結ばれるこのシンデレラ・ストーリーは、早くも“第二の『プリティ・ウーマン』('90)”と言われている。ジェニファ・ロペスは実際にサウスブロンクス育ちのプエルトリコ系だが、ここ最近は白人キャラクターを演じることが多かった。しかしプエルトリコ系女性がハリウッド映画の主役キャラクターになる日が、ついにやってきたのだ。そして、それを演じられるのは今のところ、人気もキャリアも絶好調のJ.Loだけということだろう。なお、監督は『スモーク』('95)、『ジョイ・ラック・クラブ』('93)のウェイン・ワン。

 ブロンクスに暮らすラティーノたちの愛と夢と野望を描いたこの二作品、ハリウッドに於けるラティーノ・アクター/ラティーノ作品進出の大きなステップとなることだろう。


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