TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 ケイジャンピザとカルト映画

 ニューヨーク・サブカルチャーのメッカとして知られるダウンタウンのアベニューA。今回は、ここで若きアーティストたちにピザとカルトムービーを提供し続ける「トゥーブーツ&パイオニアシアター」をご紹介!
 若者の街イースト・ビレッジをさらに東に進むとアベニューA、B、C、Dという名の4本の通りがあり、この周辺はアルファベット・シティと呼ばれている。昔から若者サブカルチャーの発信地であると共に、1990年代初期頃までは麻薬の蔓延するエリアとしても知られていた。エリアの中心にあるトンプキンズ公園も、かつては麻薬中毒者の使い捨てた注射器が転がる荒廃ぶりを見せていた。

 その後、治安は徐々によくなり、トンプキンズ公園も映画『ダイハード3』('95)で見られるように、今ではすっかりきれいに整備されて地元住人の憩いの場となっている。しかしヒップでアンダーグラウンドなカルチャー・コミュニティとしての姿は変わっておらず、特にアベニューAには若きアーティストがたむろするコーヒーショップやダイブ・バーなどが軒を連ねている。
1階がピザとビデオ、2階が映画
 そんなアベニューAのシンボル的存在となっているのが「トゥーブーツ」。ピザ・レストランとカルト系映画館のグループだ。そもそもは1987年にケイジャン料理の「トゥーブーツ・レストラン」としてアベニューAに登場。ユニークなケイジャン風味のピザがたちまち評判となり、ウエストビレッジにもピザ専門の2店舗をオープン。ユニークなロゴの看板はダウンタウン名物となった。
すっかり名物となっているユニークなロゴ
 1996年にはアベニューAにインディーズ&カルト・ムービーを幅広く取り揃えたレンタルビデオ・ストア「トゥーブーツ・ビデオ」と、地下に「ザ・デン」と名付けられたラウンジをオープン。2000年に同じビルの2階に100席のアート館パイオニアシアターを開設。これでひとつのビルでピザ、ビデオ、映画、パーティが楽しめることとなった。
 トゥーブーツのメニューを見ると、各ピザにはカルト・ムービーのキャラクターや俳優の名前が付けられている。チキン、トマト、ガーリックのピザは『レザボア・ドッグ』('92)の“ミスター・ピンク(スティーブ・ブシェミ)”、レッドオニオン、ハラペーニョは『ヘアスプレー』('87) の“ディヴァイン”といった具合。

 ここ2~3年はダウンタウンの若者以外にもアプローチすべく、グランドセントラル駅とロックフェラーセンターにも出店。しかし、アベニューAではしっかりとサブカルチャーの殿堂としての地位を守っている。
トゥーブーツ・ビデオ店内。テーブル代わりに置かれているのは、懐かしいパックマンのビデオゲーム
 パイオニアシアターでは、平日は午後6時以後3本の違った作品を上映。現在は、風変わりな少年がスーザン・サランドン演じる母親を殺害しようとするブラック・コメディ『イグビー・ゴーズ・ダウン(原)』(02)、ケイト・ブランシェットがイタリアを舞台に、麻薬で亡くなった夫の敵討ちに執念を燃やす『ヘブン(原)』(02)、スラムダンスとカンヌの両映画祭で好評を得た『ベター・ハウスキーピング(原)』(00)の3本。いずれもカルト/インディーズ・ファン垂涎の作品だ。現在は金曜日のみの上演となっている『Donnie Darko』(01)は、かれこれ1年のロングラン上映となっている。
 火曜日の8時からは、サンダンス・チャンネルがスポンサーとなって行われる「IFPバズカッツ」というイベントがある。これは映画上映後に観客とゲストの映画関係者がピザとビールを手に和気藹々と語り合うもの。また日曜日には独自のセレクションによるショート・フィルムを上映する「ショート・フィルム・スラム」を開催。

 地下にあるラウンジ「ザ・デン」でも毎週月曜日に「モンド・マンデー」と銘打ってクラシック・ムービーの上映会を実施。ここは貸し切りパーティも可能で、ケイジャン・ピザとカルト・ムービーによるオリジナル・スクリーニング・パーティも開ける。

 こういったユニークな店が存在するのは、リッチでなくともアートを愛するニューヨーカーが多いダウンタウンなればこそ。じわじわと活動と続ける「トゥーブーツ」にこれからも期待は大。
パイオニアシアターで上映中『ヘブン(原)』のポスター


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