TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 ブロードウェイ・ストライキ

 今月初め、ブロードウェイ・ミュージカルのミュージシャンがストを決行し、週末にほぼすべてのショーがキャンセルという異例の事態となった。今回はその背景をリポート。
 3月6日から7日金曜日へと日付が変わった午前0時、ついにブロードウェイのミュージシャンたちがストに突入してしまった。当初、ストが行われてもコンピュータによって作られた音楽を使ってショーは続行すると言われていたが、俳優や裏方たちがミュージシャンへの賛同を表明し、ショーはキャンセルされることとなった。

 ストの原因は、ミュージシャン組合と劇場プロデューサー側との間で取り決められているミュージシャンの最低雇用人数。劇場の規模によって最低何人のミュージシャンを雇わねばならないかが決められており、12ヶ所ある大劇場では24人から26人以上となっている。
ミュージシャンに賛同する俳優たちもデモに参加
 ところがプロデューサー側は以前から「これでは不必要なミュージシャンまで雇わねばならず、それが余計なコストとなってチケット代を高騰させる原因ともなっている」と主張。しかし規約は守らねばならず、そこでプロデューサー側は“ウォーカー”と呼ばれる、いわば幽霊ミュージシャンを使うこともあった。つまり書類上だけは最低雇用人数を守るために、実際には演奏しないミュージシャンも雇うのだ。もちろんウォーカーは実際に演奏するミュージシャンよりも少ないギャラを受け取る。
 しかし、そういった策にも限界があると見えて、プロデューサー側は今回ついにミュージシャンの数を減らし、代わりに昨今いちじるしく進歩したコンピュータによる音楽“ヴァーチャル・オーケストラ”を使いたいと言い出した。

 それに対してミュージシャン組合は、「ブロードウェイ・ショーの質を保つためには現在の最低雇用人数を守る必要がある」「ライブ・ミュージックによるショーこそがブロードウェイ」「コンピュータによって作られた音楽など使えばブロードウェイがミュージカル・テーマ・パークになってしまう」と激しく反発。
ブロードウェイで演奏しながらストを続けるミュージシャンたち
 両者の折り合いはつかず、当初は3月3日の月曜日からストに入る予定だったが、話し合いは4日間延長された。しかし、その甲斐もなく交渉は決裂し、ついに7日よりスト決行となってしまったのだ。
 3月9日現在、ブロードウェイ・ミュージカル18作品が休演しているが、『キャバレー』だけはブロードウェイ劇場ではなく、元ディスコであったスタジオ54を使っているため、規約外として上演を続けている。また、ミュージカルではない純然たる芝居作品と、オフブロードウェイ作品も上演されている。

 7日から9日にかけての週末、ミュージシャンたちは毎日「ミュージシャン・ストライキ中」のプラカードと共にブロードウェイにやって来ては路上演奏を続けていた。交渉はいまだ難航しているものの、そこはミュージシャン、路上パフォーマンスは楽しいものとなった。

 しかしショックを隠せないのが、州外や海外からの観光客。苦労して買ったチケットが無駄になり、せっかくのニューヨーク旅行も台無し。テレビニュースでは、18歳の誕生日に観るはずだったミュージカルがキャンセルとなって泣いている少女が写されていた。
「ライオンキング」キャンセルの貼り紙を眺める客
 今冬のニューヨークは異常な寒さと大量の雪に見舞われ、なおかつ戦争突入の不安で渡米を見合わせる海外観光客も出始めている。なんとか観光を盛り上げて市の財政難を乗り越えたいブルームバーグ市長もさっそく状況を懸念する声明を出した。

 一説にはこの週末だけでブロードウェイ、ホテル、レストラン、みやげもの屋などが合算で3,000万ドルを失ったとか。前回のブロードウェイ・ミュージシャンのストは1975年に起こっており、この時は9つのショーが25日間に渡ってクローズされた。さて、今回のスト騒ぎ、解決は一体いつになるのだろうか。

<スト解除> 3月10日、事態を重く見たブルームバーグNY市長が市長官邸にミュージシャン組合側と劇場プロデューサー側を呼んで徹夜の交渉を行った結果、<大劇場での最低雇用人数18~19人>で交渉成立。11日火曜日よりブロードウェイ・ミュージカル・ショーは再開された。


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