TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 MoMAフィルム

 愛称MoMAとして知られるニューヨーク近代美術館は、改装のために昨年マンハッタンからクイーンズに一時移設した。しかし同美術館内にあった映画館MoMAフィルムはマンハッタンのグラマシー・パークに移っており、今もコアな映画ファンの集う場所となっている。
 MoMAフィルムの仮の宿となっているのは、レキシントン・アベニューと23丁目の交差点近くにあるグラマシー・シアターという古い劇場。このエリアは昔から裕福な住宅地であり、付近の限定された住人だけが鍵を所有しているブライベート公園“グラマシー・パーク”がエリアの名称の由来。

 もっともここ数年は、鍵を持たない一般住人から「公共の公園にして誰でも自由に使えるようにするべきだ」と、富裕層の特権に反発する声も出ている。確かに、鉄柵に囲まれた美しい公園のそばを、鍵を持たない家庭の子供たちが素通りして行く姿には多少の疑問がわく。
MoMA-film.jpg
127 E. 23rd St. @ Lexington Ave.
1-212-708-9480
http://www.moma.org
 それはさておき、MoMAフィルムの主な上映ラインアップは、名作のリバイバルとインディーズ作品。グラマシー・パーク移転後は、特にリバイバル作品に、この付近の住民が足を運んでいる様子。白黒映像のスクリーンを眺める観客の中には50~60代の上品なカップルを多く見かける。しかし、すぐ近くにはバルーク大学があり、学生たちはインディーズ作品やアート系作品を観に来ているようだ。
 ここ最近の特集内容を見てみると、先週まではニューヨークが誇る元祖インディーズ監督ジョン・カサベテスの特集。計9本が上映されたが、中でもカサベテスの妻であった名女優ジーナ・ローランズ主演の『グロリア』('80)は名作。ローランズ演じる元ギャングの女が、両親を殺されたラティーノの少年と共に逃亡劇を繰り広げるアクション活劇は、20数年を経た今も新鮮だ。

 来月14日までは“映画監督に愛された映画監督”ニコラス・レイの作品を1ヶ月に渡って20本も上映する大特集を敢行中。『夜の人々』('47)、『孤独な場所で』('50)、『北京の55日』('63)、ジェームス・ディーン主演の『理由なき反抗』('55)など、このボリュームは大したもの。
MoMAフィルム3月のプログラム
 この特集と並行して3月26日から4月6日まで開催されるのが、第37回ニューディレクターズ/ニューフィルムス・フェスティバル。今回も世界各国の新進気鋭監督によるフレッシュな作品23本を、MoMAフィルム、アリス・トゥーリー・ホール、リンカーン・センター内ウォルター・リード・シアターの3ヶ所で分割上映する。
 いずれ劣らぬユニークな作品の一例を挙げると、これまでの中国映画の常識を破ったとされるアクション映画『Missin Gun』、現在もケニアで行われている女児の女性器切除の儀式を取り上げたドキュメンタリー『The Day I Will Never Forget』、一見平凡に見える家族が内部に抱えている“ねじれ”を描き、日本で高い評価を得た西川美和監督の『Wild Berries(邦題:蛇イチゴ)』、エルサレム近郊の難民キャンプの様子をドキュメンタリーとフィクションのミックスという新しい形で表した『Ticket to Jerusalem』などなど。他にもスロベニア、香港、イラン、パキスタン、スペイン、中国、オーストラリア、チェコなどからの作品もある。
第37回ニューディレクターズ/ニューフィルムス・フェスティバルのウェブ
 こういった地味ながら内容の濃いアート系映画館が大型美術館によって堅実に運営されているということ。これがアート・シティ、ニューヨークの基礎体力となっているのだ。


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