TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 初のヒップホップ・ドラマ『プラチナム』

 ニューヨークのヒップホップ・シーンを描いた初の連続テレビドラマ『プラチナム』が始まった。いまやブラックカルチャーの枠を超えてアメリカン・ポップカルチャーとなっているヒップホップだが、ゴールデンタイムのドラマに登場するのは、実はこれが初めて。今回はこの作品と、その背景をリポート。
 主人公であるジャクソンとグレイディの兄弟は、今もっとも勢いのあるヒップホップ・レーベル“スウィートバック”の経営者。オフィスはマンハッタンのミッドタウンにある。兄のジャクソンはスタイリッシュなファッションに身を包み、ビジネスを取り仕切る。弟のグレイディはストリートの空気を嗅ぎ取り、有望なア-ティストをスカウトする。まるでタイプの違うふたりだが、だからこそCDを車に積んで売り歩くことから始めたビジネスをここまでの成功に導くことができたのだ。
『プラチナム』のビルボード看板
 他にも敏腕弁護士、看板アーティストである白人ラッパー、ライバル・レコード会社の非情な女経営者などが登場し、ヒップホップ・ビジネスの現状や裏を見せてくれる。
 例えば白人ラッパーのキャラクターは、白人でありながらヒップホップ界のスーパースターとなったエミネムをモデルにしていることは明らか。第一回目のエピソードではその白人ラッパーが発砲事件を起こすが、その様子は1999年にパフ・ダディ(現 P-Diddy)がニューヨークのクラブでジェニファー・ロペスと同伴時に起こした実際の事件とそっくり。他にもアーティストの引き抜き合戦や、ライバル会社の不義理には暴力での返答も辞さないなど、スリリングなシーンが多々ある。もっともドラマの描写には誇張があり、実際のレコード・ビジネスとはかけ離れているとコメントした業界関係者もいる。
ヒップホップ・シーンでは熾烈なビジネス合戦が日夜繰り広げられている
 このドラマのもうひとつのテーマは“家族の絆”。ジャクソンとグレイディにはニューヨーク大学に通う妹ジェイドがいる。ふたりともジェイドを目に入れても痛くないほどに可愛がっているが、ジェイドは異母兄であるグレイディを憎んでいる。グレイディの母親が自分の両親の仲を裂き、家族を崩壊させたからだ。しかもジェイドはライバル会社に引き抜かれてしまった白人ラッパーと付き合い始めており、これもふたりの兄にとっては悩みの種。さらに第3回目以降のエピソードでは、おしどり夫婦であるジャクソンと妻モニカ、白人弁護士とその妻にも危機が訪れるようだ。
 主演の兄ジャクソンを演じるのはジェイソン・ジョージ。映画『バーバーショップ』(02)で、ラッパーのイブが演じた女性理髪師のボーイフレンドを演じている。

 弟グレイディ役は、オニックスというグループのラッパー、スティッキー・フィンガズ。これまでに『ネクスト・フライデイ』(00)、『イン・トゥー・ディープ』('99)、テレビドラマ『トワイライ・ゾーン』などに出演しており、演技力は確か。
登場人物のストリート・ファッションも『プラチナム』の重要なポイント
 ジャクソンの妻役のラレーニャ・マスターズは、今年末に公開予定の『G』に出演する。この作品はラルフ・ローレン・プロダクションによるもので、『華麗なるギャッツビー』('74)のアーバン・バージョンという触れ込みの話題作。ちなみに“アーバン”とは“ブラック”を意味する。
 『プラチナム』のクリエイターのジョン・リドリーは、湾岸戦争時の3人の兵士を主人公にした映画『スリー・キングス』('99)の脚本を書いた人物。ジョージ・クルーニーが演じた主人公は、実は黒人キャラクターとして書かれたものだが、映画会社の意向で白人に変えざるを得なかったという。そういった苦い経験も経てきたリドリーは、今回はコッポラ監督の娘で、ニューヨーク・ショービズ・シーンの第一級セレブであるソフィア・コッポラを共同クリエイターに迎え、勝負に出ている。しかし聴視者を黒人に限定しているわけではないことは、主要キャラクターに白人が複数含まれていることから分かる。

また、白人ラッパー役のヴィシスは今夏デビュー・アルバムをリリースすることが決まっており、これも白人ファン獲得策だろう。さて、初のヒップホップ・ドラマ『プラチナム』、果たしてヒットとなるか。

『Platinum』…… UPN 火曜 午後9時
タイムズスクエアに掲げられた『プラチナム』のビルボード看板


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