TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 アフリカン・アート・フェスティバル~ブルックリンの黒人コミュニティ

 7月4日の独立記念日に、ニューヨークのブルックリンで毎年恒例のアフリカン・アート・フェスティバルが開催された。カラフルな色彩と音楽、香ばしいエスニック・フードの楽しいファミリー・イベントをリポート!
 最近はニューヨーク旅行のリピーターが増え、マンハッタンに飽き足らなくなった人たちが出てきた。そういった層へ向けて、日本の雑誌やガイドブックでブルックリンが紹介されることが増えている。とはいえ、やはりマンハッタンに近い北西エリアにあるブルックリンハイツ、若いアーティストの暮らすウィリアムスバーグ、ブルックリン・ブリッジのたもとのDUMBOなどに限られているようだ。あとは毎年、独立記念日にホットドッグの早食いコンテストが行われるコニー・アイランド。

 しかし、ブルックリンには歴史あるエスニック・コミュニティーがたくさんある。ロシア系のブライトンビーチ、イタリア系のベンソンハースト、ユダヤ系のクラウンハイツなどなど。それぞれ『リトル・オデッサ』('94)、『月の輝く夜に』('87)、『サタデー・ナイト・フィーバー』('77)、『ブルックリン・バビロン』(00)で、そのコミュニティーの雰囲気を知ることができる。
カリビアンの親子連れ
 ところが、ブルックリン最大のマイノリティ・グループは、なんといっても85万の人口を持つ黒人だ。区の中央部から東部には、ガイドブックで紹介されているブルックリンとはまったく違う風景がある。
 そういった黒人コミュニティのひとつであるベッドフォード・スタイブサンド(通称ベッド・スタイ)で、独立記念日の3連休に第32回アフリカン・アート・フェスティバルが開催された。

 アフリカン・アート・フェスティバルとは言っても、参加者はさまざま。西アフリカ諸国からの移民、ジャマイカ系、トリニダッド系などのカリビアン、そしてアフリカンーアメリカン。黒人であるということ以外は、それぞれに文化も習慣も異なるが、ルーツがアフリカという点では共通している。
黒人絵画ではキリストも黒い肌を持つ
 露天に並ぶ商品も、アフリカ製のアクセサリーや彫刻、レゲエのCD、ジャマイカ料理のジャーク・チキン、アフリカン―アメリカンの画家による絵画……と、ナショナリティ豊か。
 2ヶ所設けられたステージでは、のど自慢大会で小さな子どもが器用にラップを披露して拍手喝采を浴びたり、日本人ドラマーも参加のバンドがジャズやR&Bを演奏したり、はたまたポエトリー・リーディング(詩の朗読)では、黒人としてのアイデンティティが熱く語られたりと、こちらもバラエティ豊かだ。

 公園ではアフリカン・ドラムのワークショップが開かれ、子どもたちも楽しそうに叩いている。その脇にはテーブルがいくつも並べられてチェスのトーナメントが行われている。小学生たちも小さなテーブルをもらい、熱心に次の手を考えている。
 広い公園は木々と芝生が美しく、ベンチには露天の冷やかしに疲れた人や、屋台で買ったジャマイカ料理を食べる人たちがのんびりと座っている。うば車を押した親子連れも多く、アイスクリームの屋台も大繁盛だ。

 実はこのベッド・スタイは、一般的には治安の悪いことで知られている。映画で見かける“黒人ゲットー”のモデルのような地区だ。しかし実際には公園の周囲に限ればブラウンストーンと呼ばれるアンティークなデザインのタウンハウスが建ち並び、中流層、もしくはそれ以上の人々が暮らしている。
象牙、金属、昔は貨幣として使われていた白い巻き貝などで作られたアフリカ製のアクセサリーを売る露天
 スパイク・リー監督の『ジョーズ・バーバーショップ(原題:ジョーズ・ベッド・スタイ・バーバーショップ)』('83)、『ドゥ・ザ・ライト・シング』('89)、『クルックリン』('94)、『クロッカーズ』('95)はベッド・スタイ、及びその周辺が舞台となっているが、それぞれ違った雰囲気の場所が登場し、この地区の多様性を物語っている。

 ニューヨークの黒人コミュニティといえばハーレムが有名だが、ブルックリンやクイーンズにもたくさんの黒人地区があり、それぞれに特色を持っている。もうそろそろ、こういった地区を舞台にした映画作品が、スパイク・リー監督以外によって作られてもいい頃だろう。ただし、それは犯罪・アクション作品ではなく、人々の暮らしぶりを伝えるリアルな物語であって欲しいと願う。


■読者の皆さま

 こんにちは、『よむ映画/from NY』筆者の堂本かおるです。
これまで1年3ヶ月に渡り、ニューヨークのシネマ・シーンにまつわる様々な話題をお届けしてきましたが、今回でひとまず連載終了とさせていただきます。長い間、ご愛読いただき本当にありがとうございました。

 いずれまたお目にかかることもあるかと思いますので Good-bye の代わりに、ニューヨーカー風に See Ya!


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