ウインドウ(2)

 前回、映画ビジネスにおけるウインドウという概念で、第3段階であるBS&CS放送(主にWOWOWやスターチャンネル)まで説明しました。今回は、ウインドウの第4段階にあたるフリーテレビ(地上波放送)の話です。

 フリーテレビとはその名の通り、無料放送のことであり、テレビをお持ちの方であれば誰もが視聴できます(そのかわり、代償としてカット【注1】があったり、提供スポンサーのCMが合間に入ることになります)。

 地上波で映画を放送する場合、各局によって放送時間はまちまちです。でも大体、21時~23時のプライムタイムの吹替えでのオンエア(NTV/CX/ANB/TXはレギュラー枠)が中心になります。それに大体深夜2時以降でのオンエアがあることになっています(深夜の映画放送枠は各局によってまちまちです。年末年始は結構深夜枠での映画オンエアが多いです。また、深夜枠では字幕でオンエアすることもあります)。
 BS&CS放送からフリーテレビまでのウインドウは概ね半年になります。つまり、ビデオ&DVD発売から約1年後にはテレビでのオンエアが可能になります。ただし、今年の『千と千尋の神隠し』のようにテレビ局が出資&製作した映画(主に邦画やアニメ)の場合は、ビデオ&DVD発売から約半年後にテレビでオンエアされる特殊なケースもあります。

 なお、この1年後というのはあくまでオンエアが可能になる時期ということです。それ以降どのタイミングでオンエアするかについては、映画会社との契約【注2】と、局の番組編成【注3】によって決まってきます。ある局でオンエアされた映画の放映権の契約が切れた場合、その映画の放映権を他局が購入すれば、また別の局でその映画がオンエアされることになる訳です。つまり、2年前にCXでオンエアされた映画が、今年はNTVでオンエアされる、といったことが起きてくるのです。
 もっとも、地上波で吹替え放送する場合、ビデオ&DVDのための吹替えは使わず、その局独自の吹替えを製作することがほとんどです。ようするに、それぞれの局のバージョンの吹替え版があるわけです。しかし最近は経費削減のため、よほど悪いものでなければ一番最初の地上波放送のときに、その放送局が製作した吹替えを他局でも流用することも多いようです。

 先日NTVでオンエアされた『タイタニック』に関しては、2年前にオンエアされたCX版のジャックとローズの声は差替えられていました【注4】。

 なお、地上波放送では誰もが映画を目にしやすい状況なので、最近ではシリーズ最新作の劇場公開タイミングにあわせて、前作や関連作をオンエアすることも多いようです。地上波放送においてもっとも重要なのは、ドラマなどと同じく“視聴率”になります【注5】。視聴率が良ければその後もその映画には商品価値があり、悪いとその後が厳しくなってきます。
 映画ビジネスを考えると、出来るだけ長期間その映画の放映権が売れるのがベストです。この視聴率というものは、その映画の地上波での今後を左右してしまうと言えます。だからこそ、最近のNTVでの『マトリックス』(実は昨年の10月にCXで1stオンエアだったので、今回の1年も経たないタイミングでの2ndオンエアは異例中の異例!)、ANBでの『チャーリーズ・エンジェル』の1stオンエアは、それぞれ20%を超える視聴率【注6】を取ったので、映画公開とうまく連動した好例です。

 『ターミネーター3』の公開直前にも、シュワルツェネッガーの主演作品のオンエアがあります。しかし肝心の『ターミネーター』シリーズは、『T1』がTXで今年5月に、『T2』がCXで今年2月にそれぞれオンエアされてしまっているので、この公開直前の時期にオンエアされていれば上記の例同様に相乗効果が期待できたはずです。テレビ局にとっても好視聴率が狙えたはずなので、残念だと思います。
 普段、映画は映画館やビデオ&DVDでしか観ないという方も多いと思います。でも無料で視聴できる地上波放送だからこそ、初めて観て面白かったという映画もあります。何しろ一番気軽に観られるメディアなので、時間があるときにはぜひ地上波でのオンエアも観ていただきたいです。映画人口を支える、そして広める役割をも実は担っている、かなり重要な存在ではないかと思います。


【注1】枠にあわせるため、あるいは時間的に不適切な暴力&性的描写を削除するなどのためにのカット。時間的な問題は通常枠を延長してノーカットオンエアすることもある
【注2】その局がいつまで独占的放映権を有することが出来るのかということ
【注3】たとえば、年末・年始や年度末、夏休みなどの期間には話題作を放映し、通常期間にはそれ以外の作品を放映する
【注4】後のキャストも新録だったのか、CX版を流用したのかは不明。恐らく流用ではないかと思われる
【注5】一番最初の放送を1st、以降2nd、3rd・・・といった感じで呼ばれる。名作と呼ばれる作品だと7回も8回もオンエアされ、その都度良い視聴率を取るものもある
【注6】21~23時オンエアの映画だと、普通10~12%ぐらい。15%を超えればもう上出来のレベル
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