テープ素材

 映画館での上映において用いられるのは現行では基本的にご存知の通りほとんどがフィルム(プリント)であり、テープではありません。しかしながらそれ以後の使用(ビデオ&DVDの収録用や放送用)においては、すべてテープ素材が使用されております。但し、ここで言うテープ素材とは当然VHSテープなどではなく、あくまで業務用のものになりますので、一般の方があまり馴染みのないテープばかりが使用されています。
 まず現在もっとも多く使われているものは「デジタルベータカム」(通称:デジベ)と呼ばれるテープになるかと思います。これは通常のVHSテープの1.5倍程度の大きさになりますが、業務用テープとしてはコンパクトで最大記録時間が124分でコストも手軽(ほぼ1万円ぐらい)。名称通り、デジタルでの使用に適している為、そのままDVDへの収録などにも使えて非常に便利なものです。但し、最大記録時間が124分という制限がある為に、当然それを超える長さの映画には使用することが出来ません。

 従って120分を超える映画などでは「D-2」と呼ばれるテープを使用致します(※最大記録時間は208分まで可能)。このD-2は、デジベが登場するまで主流のもので、現在も放送局を中心として依然として良く使われているようです(ローカル局ではデジベに対応できないところもあるそうです)。また、字幕版&吹替版のレンタルビデオのコピー用のマスター(※本編前の巻頭に予告編集などが編集でつけられたもの。このテープがコピーの大元になる)は、必然的に120分を超える場合などが多い為に、まだまだかなりの頻度でD-2が使われています。
 但し、ネックになるのは120分を超えるものを収録するD-2テープはラージと呼ばれるものになり、テープとしては非常に大きなものになる上(※デジベの1.5倍ぐらいの大きさになる。VHSから考えると約3倍ぐらいの大きさ。)、コストも5~10万円ぐらいと非常に高額になります。よって我々は、現在では少なくとも120分未満の作品では、デジベを、それ以上の作品では仕方なくD-2を収録用のテープとして使用するように区別をつけています。

 上記はSD(スタンダード)用のものですので、今後本格的に始まる「地上波デジタル放送」などのHD(ハイビジョン)放送などには使用することが出来ません。よってハイビジョン放送ではそれ専用のテープが使われることになります。現行、放送局では一般的には値段が手頃(1~2万程度)ということもあってか、「HDカム」と呼ばれるものが使用されております。しかしながらクオリティを重視するWOWOWのデジタル放送などではHDカムよりも上位に位置する「HD-D5」と呼ばれるテープを使用しています。このHD-D5は確かにHDカムよりは高いのですが、これをキチンと持っておけば、すべてのマスターの大元とすることも出来るので、我々は現在ハリウッドからは将来的なことも考えて、このHD-D5でハイビジョン素材を取り寄せるようにしています。
 また、VHSテープとは異なり、デジベにしてもD-2にしても1&2chだけでなく3&4chにも音声を収録することが出来るのですが、HD-D5であれば使用するデッキ次第になりますが、スペック的には5.1ch音声までもがすべて収録出来る8chまで音声を入れ込むことが出来るそうです。通常、DVDに収録する5.1ch音声は「DA-88」と呼ばれる音声テープ(※かつて8mmハンディカムなどに使用されたテープとほぼ同サイズ)に音声だけ別に収録されているのですが、HD-D5ならばこのDA-88を不要とすることも可能なのです。

 尚、このHD-D5を超えるテープ素材も既に出回り始めています。まだあまり一般的ではないようですが、名称は「HDカムSR」というもので、クオリティは当然HD-D5を上回り、音声も何と最大で12chまで収録することが可能になっているそうです。まだまだこれを超えるテープが現れるかもしれませんが、しばらくはスペック的にはこのHDカムSRというものはが最上位のテープ素材ということになるのでしょう。
 また、デジベよりもクオリティは落ちますが「ベータカムSP」と呼ばれるテープ素材も、宣伝用の映像素材用テープ(※テレビなどでパブリシティ露出する為に、映画の予告編や任意で数箇所の場面を抜き録ったもの)として良く使用されています。

 これはかなりの本数を用意して放送局に渡したりするので、とにかくコストが安くかつ大きさが手頃ということが重視されているからだと思います(※昔の“ベータ”と同じサイズ。ちなみに大きなもの<長時間収録用>はデジベと同じ大きさになる。また逆にデジベでも同サイズのコンパクトなものが存在する)。
 VHSテープは短い収録時間のものでも、長い収録時間のものでもテープの大きさは変わらないのですが、業務用のテープはその収録時間によって大きさも変化するのです。
業務用のテープをご覧になったことがある方はほとんどいらっしゃらないと思いますが、こんなものがあるんだと記憶しておいて頂ければ幸いです。

 最後にお気づきになられた方もいると思いますが、デジタルベータカムやベータカムSPという名称の“ベータ(β)”とは、民生用(一般用)のビデオ機において、その規格争いで過去に覇を競い合ったVHSとβの、βと同じです。つまり形を変えて業務用ではありますが、βはしっかり生き残っていたということになるのです。これもあまり大したことではないかもしれませんが、一般の方はあまり知らないことではないかと思います。

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