★第70回アカデミー賞7部門ノミネート作品 (作品賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、編集賞、脚本賞、編集賞) 主演男優賞受賞 ジャック・ニコルソン 主演女優賞受賞 ヘレン・ハント
★ゴールデン・グローブ賞3部門受賞 |
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■主人公メルビン、風変わりな彼が初めて愛したのは、1匹の犬とウェイトレスだった…。 | |||||||
98年のアカデミー賞は『タイタニック』が11部門を受賞するなど大きな話題をさらったが、レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレットらをおさえて主演男優賞、女優賞をとったのはジャック・ニコルソン、ヘレン・ハントだった。ニコルソンはこの作品で3つめのオスカーをものにし、ハントは本作で認められて以来、『ペイ・フォワード <可能の王国>』('00)や『ハート・オブ・ウーマン』('00)など、メジャー作品に引っ張りだこの女優となる。監督はジェームズ・L・ブルックス。『愛と追憶の日々』('83)でもニコルソンと組み、助演男優賞を取らせた人物だ。数々の映画賞にも輝く大人のドラマ作りのベテランである。
ニコルソンが演じるのは独身の人気恋愛小説家の役。主人公メルビンはその甘い作品からは想像もつかないほどの偏屈な変わり者、という設定だ。人間嫌いで、他人のことなど全く意に介さない毒舌ぶり。隣人のゲイの画家など全く理解できない存在らしく、始終ケンカばかりしている。そのうえ極度の潔癖症。他人には絶対に触らず、家に帰ると鍵を5回は締める、1度使った石鹸や手袋は使い捨て、道路の汚れや割れ目なども決して踏まないように小走りで通り抜ける、レストランでは自前のフォークとナイフを持参し、几帳面に並べて見せる…。確かにこんな奴がいたらお近づきにはなりたくないが、そこはニコルソン、彼自身の持つ性格にも重ね合わせ、独特のキャラクターがあいまってぐいぐいと引きつけられていく。メルビンの病的な部分は変わらないが、彼の心が変化していく様子にほほえましく思ったり、逆にハラハラさせられたり…。 凝り固まった彼の心を溶かしはじめるのは、1匹の犬。この犬、バーデルの人懐っこさとブサイクぶりが、メルビンのような変人の心も虜にしてしまうほどたまらなく可愛い。バーデルがいなくなってしまうとメルビンの心に一抹の寂しさがよぎる。そこで急浮上してきたのが、唯一彼に親切にしてくれる近所のレストランのウェイトレス、ヘレン・ハント扮するキャロルというわけだ。バツイチで、息子はひどい喘息持ち、おまけに母親の面倒も見なくてはならないという悩みを抱えながらも、前向きな姿勢を忘れないキャロル。そんな彼女と偏屈なメルビンとの絶妙な言葉のやり取りが、この映画の魅力を作り上げるもうひとつの鍵となっている。 ニューヨークを舞台に繰り広げられる、ひねりのきいた恋愛ドラマ。おしゃれで、コミカルで、ちょっとありそうにない設定だけれども、それでいてとても身近に感じる…。『恋愛小説家』は、そんな不思議な魅力の映画なのです。 |
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【ストーリー】 メルビン(ジャック・ニコルソン)はマンハッタンの高級マンションに住む独身の人気恋愛小説家。彼の小説は優しい愛の言葉が綴られているが、本人は作品からは想像もつかないような変わり者。そんな人間嫌いのメルビンを、いきつけのレストランのウェイトレス、キャロル(ヘレン・ハント)だけは優しく接していた。 ある日、同じマンションに住むゲイの画家サイモン(グレッグ・キニア)が事件に巻き込まれて入院してしまう。親友である画商フランク(キューバ・グッディング・Jr)の剣幕に押されて、嫌々ながらサイモンの愛犬バーデルを預かることになってしまったメルビン。だが、バーデルとの生活は彼の心に安らぎを生み出していく。やがてサイモンが退院し、バーデルを引き取ってしまうと、メルビンは妙な寂しさを覚える。そこでレストランヘ行くが、キャロルは息子の急病で休みだという。彼女がいなければランチがとれないメルビンは、彼女の息子の為に医者を手配する。キャロルは感謝する一方、変人メルビンの突然の行動に納得いかない。深夜、マンションに駆けつけた彼女はメルビンに拒絶の言葉を告げて去って行く。この言葉はメルビンにそれまで意識していなかった恋愛感情をもたらすことになる。 一方、サイモンは高額の入院費のせいで破産を宣告され、絶望のどん底にいた。そんな彼を心配したフランクは、サイモンの両親に助けを求める。そしてメルビンに、サイモンをボルチモアの実家につれていくように頼む。仲直りのチャンスとばかりにキャロルを誘ったメルビンは、ボルチモアのレストランで彼女とひとときをすごす。しかし、またもやキャロルを毒舌で傷つけ怒らせてしまった。ひどく落ち込んだメルビンの様子を見たサイモンは、もういちど彼女に気持ちをぶつけるよう勇気づける。果たして、人間嫌いの毒舌家メルビンはどうやってキャロルの心を掴むのか…? |
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■60歳を越えてなお現役で活躍!ジャック・ニコルソンの新たな魅力とは | |||||||
恋愛のリアルさとロマンチックな部分をバランス良く紡いだ本作は、アカデミー賞7部門ノミネート、そして見事ニコルソンとハントに主演男優、女優賞をとらせた。ニコルソンがオスカーを獲得するのはこれで3度目。『カッコーの巣の上で』('75)と、『愛と追憶の日々』('83)、そして本作だ。ノミネートだけでも10回を数える。これ以上ないほど憎たらしい演技や、癖のある個性的な人物、身の毛もよだつような悪人役などで注目を集めてきたニコルソン。今回のメルビン役は、毒舌家で人間嫌いな超偏屈人間という設定で、変わり者という点では今までの役に引けをとらない。けれども実はメルビンはとても恥ずかしがりやで、傷つくのを恐れて逆に相手を攻撃してしまうというなんとも危なっかしい繊細な心の持ち主でもあるのだ。『愛と追憶の日々』でニコルソンを起用したジェームズ・L・ブルックス監督は、一筋縄ではいかない難しいメルビン役が出来るのは彼しかいない、と感じて彼を起用。ニコルソンの中にもあり、メルビンも持っているユニークな部分と優しさ、繊細さを魅力たっぷりに描き出した。結果的にニコルソンはこの役でオスカーのみならず、ゴールデングローブ賞、LA映画批評家協会賞、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞の主演男優賞を受賞することになったのだ。
ジャック・ニコルソンプロフィール:37年4月22日、ニュージャージー州ネプチューン生まれ。MGMで雑用係をしながら演技を学ぶ。映画デビューは『Cry Baby Killer』('58) 。ロジャー・コーマン監督のもとで10年ほど映画製作業務に携わる。『イージー・ライダー』('69)でアカデミー助演男優賞にノミネートされて以降、俳優として注目されるようになる。そのほかの出演作は『ファイブ・イージー・ピーセス』('70)、『さらば冬のかもめ』('74)、『シャイニング』('80)、『イーストウィックの魔女たち』('87)、『ア・フュー・グッドメン』('92)、『クロッシング・ガード』('95)、『マーズ・アタック!』(96)など。新作はショーン・ペン監督の『The Pledge』('01)、『About Schmidt』('01)など。 |
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今さら人に聞けない名作 アーカイブ 『恋愛小説家』