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■今年のオスカーにもノミネートされているフランシス・マクドーマンド、コーエン兄弟の傑作! | ||||||||||
今年もアカデミー賞の発表が行われる季節がやってきた。2001年は何といっても12部門にノミネートされている『グラディエーター』が注目の的だ。アカデミー賞は、その年度の1月から12月にかけてL.A.地区で公開された作品を対象に、各部門5作品もしくは5人ずつがノミネートされ、本賞は5500人以上いるアカデミー会員の投票によって決定される。いわゆる主要部門とされる作品、監督、主演男優および女優、脚本賞等から、私たちにはあまり馴染みのない賞まで合わせて合計23部門、ノミネート総数は100以上にものぼる。
今回のこのコーナーでは、2001年度アカデミー脚色賞に名前を連ねている、ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン兄弟の作品、『ファーゴ』('96)を紹介しよう。この作品で、2人はアカデミー脚本賞を受賞。今年は、ジョージ・クルーニー主演の『オー・ブラザー!』('00)で脚色賞にノミネートされている。インディペンデント色が強く、ユニークな作品が多いコーエン兄弟の作品は、そのほとんどが何らかの賞を受賞したりノミネートされたりしている。ついでに言うなら、ジョエルの奥さんであるフランシス・マクドーマンドは『ファーゴ』で大きなお腹を抱えた妊婦の警察署長を演じ、アカデミー賞主演女優賞を獲得。そして今年はなんと『あの頃ペニー・レインと』('00)で助演女優賞にノミネートされている。『ファーゴ』にあやかって、コーエン兄弟と共にオスカーを受賞する一幕が観られるかもしれない。 さて、オスカー受賞作『ファーゴ』の舞台となるのは、アメリカ中北部に位置するノース・ダコタ州とミネソタ州。この地域独特の言いまわしやイントネーションが、映画の雰囲気作りに大いに貢献している。ウィリアム・H・メイシー扮する自動車セールスマンの、ささいな思い付きから始まった偽装誘拐。だが、それが次第に収拾のつかない大事件へと発展していく…。マクドーマンド扮する妊婦の警察署長が、殺人の捜査に出かける前に朝食をどうするかで悩んだりするシニカルな日常風景が渇いた笑いを誘う。コーエン兄弟は、独特のユーモアを含んだ陰惨な犯罪映画をつくることに成功し、その結果、見事オスカーを獲得した。 『ファーゴ』には、マージ・ガンダーソン役でオスカーをとったマクドーマンドのほか、『レザボア・ドッグス』('91)、『ビッグ・リボウスキ』('98)などに出演、コーエン作品ではお馴染みのスティーブ・ブシェーミ、人気TVシリーズ『ER 緊急救命室』('94~)や『陽のあたる教室』('95)のウィリアム・H・メイシー、『レナードの朝』('90)、『ダメージ』('92)、『ミリオンダラー・ホテル』('00)のピーター・ストーメアらが脇を固めている。 |
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【ストーリー】 87年冬。自動車セールスマンのジェリー・ランダーガード(ウィリアム・H・メイシー)は多額の借金返済のため、妻のジーン(クリステン・ルドルード)を偽装誘拐する計画を立てる。自動車業界の大物である妻の父親ウェイド(ハーヴ・プレスネル)から身代金をせしめて借金返済に回すつもりでいたのだ。 さっそく誘拐実行犯のカール(スティーブ・ブシェーミ)とグリムスラッド(ピーター・ストーメア)に会うため、ノース・ダコタ州ファーゴに向かうジェリー。大雪の中、ようやく待ち合わせ場所に着いたジェリーに、カールは約束の時間に遅れたとくってかかる。初めて会ったカールは神経質にしゃべる“変な顔”の男。逆にグリムスラッドは無口で不気味な大柄の男だった。ジェリーは2人を説き伏せて誘拐を実行させ、2人は隣町へ逃走するが、途中でグリムスラッドは警官と目撃者を殺してしまう。その上、目につくようなところへ出没したりとやりたい放題。 翌朝、殺害現場に女性警察署長マージ・ガンダーソン(フランシス・マクドーマンド)が現れる。出産を控え、大きなお腹を抱えているマージだが、優秀な警官である彼女はカールとグリムスラッドの残した証拠を丁寧に追い始める。ついに2人が乗っていた車からジェリーに行きついたマージ。いきなり現れたマージに驚いたジェリーはその場をごまかすが、逆にマージに不信感を抱かせてしまう。 そうこうしているうちに身代金を受け渡す時が来た。ジェリーは1人で運ぶと主張するが、彼をまったく信用していない義父に押し切られてしまう。事態を収拾しようと躍起になるが、義父はカールに射殺され、カールは義父に顔を撃たれる。隠れ家へ逃げるが、絶体絶命の状況に追い込まれるカール。マージはジェリーに疑惑に目を向け、執拗に追い続けていた。果たして誘拐されたジーンはどうなったのか?そしてジェリー自身の運命は…。 |
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■2人で1つの作品を生み出す想像のルーツとテクニックに迫る! | ||||||||||
コーエン兄弟は、監督業を兄のジョエル、製作を弟イーサンが受け持つ、という具合に一応の役割分担をしつつ、2つの頭脳をかけ合わせて奇想天外なストーリーを紡ぎあげてきた。奇妙な人生物語とユニークな演出で観客を魅了してやまない2人。でも、一体どうやって映画作りをコラボレートしているのだろうか。
2人は小さい頃から遊び半分で映画を撮影していたという。兄ジョエルはニューヨーク大学で映画を、弟イーサンはプリンストン大学で哲学を学ぶ。その後、イーサンがニューヨークに移り、兄弟で本格的に映画製作をはじめるようになる。ジョエルはサム・ライミ監督のホラー映画『死霊のはらわた』('83)の編集助手などをし、イーサンはデパートのメイシーズで働きながら脚本を書いていた。そのうちの1本が、サム・ライミが監督した『XYZマーダーズ』('85)である。そして5年がかりで公開にこぎ付けたのが『ブラッドシンプル』だった。メジャーに断られ続けたこの作品は口コミでで大ヒット。その後、『赤ちゃん泥棒』('87)、『ミラーズ・クロッシング』('88)、『バートン・フィンク』、『未来は今』など、1度観たら忘れられない癖のある作風で、多くの“コーエン・フリーク”を生み出していく。 兄弟で映画作りといえば、古くは19世紀のパリで自作の映写機によって初めて映画を上映したと言われる、ルイ&オーギュスト・リュミエールがいる。新しいところで言えば、『ジム・キャリーはMr.ダマー』('94)、『メリーに首ったけ』('98)などを手がけたピーター&ボビー・ファレリー、『バウンド』('96)、『マトリックス』('99)などのラリー&アンディ・ウォシャウスキーらがいる。どの兄弟にも共通して言えるのは、ユニークで新しいものが大好き、2人でひとつのものを作るのにも関わらずバランスがとれている、そして作品のほとんどがスマッシュ・ヒットを放つ、ということ。 2人の次回作の舞台は日本、主役はブラット・ピットだという。どんな話になるのか想像もつかないが、そこはコーエン兄弟、その辺りの映画とはひと味もふた味も違う作品に仕上げる事だろう。期待して待ちたい。 |
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○ジョエル&イーサン・コーエン プロフィール
兄ジョエルは54年11月29日、弟イーサンは57年9月21日、ミネソタ州ミネアポリス生まれ。デビュー作『ブラッド・シンプル』('85)でナショナル・ボード・オブ・レビュー作品賞を受賞、サンダンス映画祭でもグランプリを獲得。さらに、『バートン・フィンク』('91)で、カンヌ映画祭パルム・ドール、主演男優賞、監督賞を受賞。主な作品に、『赤ちゃん泥棒』('87)、『ミラーズ・クロッシング』('90)、『ビッグ・リボウスキ』('98)、など。ジョエルは『スパイ・ライク・アス』('85)で俳優を、『トイ・ストーリー』('95)では脚本に携わり、オスカーにノミネートされている。新作はジョージ・クルーニー主演の『オー、ブラザー!』('00) 、ビリー・ボブ・ソーントンが出演する『The Barber Project』('01)、ブラッド・ピット出演の『To the White Sea』('02)、ジョナサン・デミ監督、ヒュー・グラント、テア・レオーニ、ジェフリー・ライトが出演、2人は脚本で参加する『Intolerable Cruelty』('02)など。 |
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今さら人に聞けない名作 アーカイブ 『ファーゴ』