★第64回アカデミー賞6部門ノミネート、主要5部門受賞作品 (作品賞、主演男優賞、主演女優賞、監督賞、脚色賞、編集賞、録音賞にノミネート) |
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■トマス・ハリスの同名小説を完全映画化、サイコ・スリラー映画の先鞭をつけた作品が登場! | ||||||||
アカデミー賞はその年度の1月から12月にかけてL.A.地区で公開された作品を対象に、各部門5作品もしくは5人ずつがノミネートされ、5500人以上いるアカデミー会員の投票によって本賞が決定される。また、アカデミー賞はいわゆる主要部門とされる作品、監督、主演男優および女優、助演男優および女優、脚本、編集、衣装、撮影、音楽賞など約20くらいの賞がある。 オスカーを取れば俳優やスタッフは契約金が上がるだけでなく、仕事や役を自由に選べるチャンスが増える。もちろんそういったことを見越して公開日の決定をしたり、キャンペーンを行ったり、宣伝を展開したりする。しかし、投票で決められるアカデミー賞で多くの支持を得るのはとても難しい。いくら派手に宣伝しても、良くないと判断されればそれまでだからだ。ノミネートされたからといって全ての賞をとれるわけではないし、ましてや主要5部門をすべて取ることなど至難の業。ところが、91年のアカデミー賞ではそのまさかが起こった。『羊たちの沈黙』は、この種のスリラーものにしては珍しく、ノミネート6部門のうち、作品、監督、主演男優および女優、脚色賞と、主要5部門すべてを獲得してしまったのだ。 ちなみに、これまでに主要5冠という偉業を成し遂げたのは、フランク・キャプラ監督、クラーク・ゲーブル、クローデッド・コルベール主演の『或る夜の出来事』('34)と、ミロシュ・フォアマン監督、ジャック・ニコルソン、ルイーズ・フレッチャー主演の『カッコーの巣の上で』('75)、そして『羊たちの沈黙』の3作品のみ。どの作品にも共通して言えるのは、監督の演出力、役柄にぴたりと合った俳優、そしてストーリーに恵まれているということ。この要素をうまく合わせられれば、後世まで残るような結果を得ることができる。 そして、クラリス役のジョディ・フォスター、レクター博士役のアンソニー・ホプキンス。2人とも今や押しも押されもせぬ大スターの仲間入りを果たしているが、10年前は今ほどのビッグ・ネームは誇ってはいなかった。やはり、この映画の成功要因のひとつは、スター性よりもキャラクターを重視した配役にあるといえよう。静寂の中で行われる両者の駆け引きは、事件の陰惨さと相俟って不思議なテンションの高さを感じさせるし、特別派手なシーンがあるわけでは無いが、それがかえって作品に深く静かな緊張感を与えている。主役の2人が持っている魅力を作品に昇華させたジョナサン・デミ監督の丁寧な演出が、原作を凌ぐほどの映画を生み出す結果につながった。 『タクシー・ドライバー』('76)や『ホテル・ニューハンプシャー』('84)など、様々な映画に出演していたジョディ・フォスターは、『告発の行方』('88)に続き、本作が2度目のオスカー受賞。トップスターとしての地位を不動のものとし、監督やプロデュース業にも意欲的に取り組むようになる。片や、アンソニー・ホプキンスは、『ジョー・ブラックをよろしく』('98)や『タイタス』('99)、『M:I-2』('00)、『グリンチ』('00)などに出演。93年には英国王室よりナイトの称号を得ており、本作の続編『ハンニバル』('01)では、再びレクター博士役を演じている。 監督を務めたジョナサン・デミは非常に丁寧な演出をすることで知られている。この作品の後、エイズを宣告された弁護士が社会と闘う姿を描いた作品『フィラデルフィア』('93)で、主演のトム・ハンクスにオスカーをとらせた。また、『スイング・シフト』('84)でカート・ラッセルとゴールディ・ホーンが実生活でも結ばれるきっかけを作り、カルト・コメディ『サムシング・ワイルド』('86)や『愛されちゃってマフィア』('88)などの演出で、若き日のメラニー・グリフィスやミシェル・ファイファー、マシュー・モデインらの魅力を引き出している。本作では、フォスターとホプキンス、2人の持つ才能を引き出すことに成功し、オスカーを受賞する事となった。 |
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【ストーリー】 次々と女性を殺しては、その皮を剥ぐという連続猟奇殺人事件が起こった。どの被害者も若く長身で太り気味という特徴が共通していたが、連続殺人犯“バッファロー・ビル”の目星はついていなかった。FBI行動科学課課長ジャック・クロフォード(スコット・グレン)は、自らの患者9人を異様な手口で殺した元精神科医のハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)に犯人を割り出すための示唆を受けようと考える。そして、女性FBI訓練生のクラリス(ジョディ・フォスター)にレクターが収容されているボルチモア精神異常者用の収容所を訪れ、事件解決の鍵になりそうなヒントを得てくるよう指示を出した。レクターは、クラリス自身の過去を話すように、という不思議な条件を付けてクラリスに事件のヒントを与え始める。そうこうしているうちに、再び“バッファロー・ビル”の仕業と思われる遺体が出てしまう。さらに、ルース・マーティン上院議員(ダイアン・ベイカー)の娘キャサリン(ブルック・スミス)が“バッファロー・ビル”の次の獲物として誘拐されてしまう。殺害するまでの期間が短くなってきているせいで捜査陣には焦りの色が見えはじめるが、クラリスはレクター博士の言葉を思い出し、単独で解決の糸口を探り始める。レクター博士はFBIにヒントを与えた謝礼として孤島の収容所に移送されるが、その途中にとんでもない事件が起こってしまう。博士の身に一体何が起こったのか。そしてクラリスら、FBIは“バッファロー・ビル”を捕らえ、誘拐された娘を救い出す事が出来るのか…? |
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■レクター博士3部作を書いたトマス・ハリスとは? | ||||||||
『羊たちの沈黙』が多くの観客から支持されたのは、優れた原作のお陰とも言える。トマス・ハリスの原作は世界中で続編を待たれるほど大ベストセラーとなっており、脚本はその原作に従って忠実に作られた。センセーショナルな話題を扱った作品にしては押さえ気味の演出と、淡々としたカメラワークで観客はストーリーに引きこまれ、殺人事件を解明する過程は当時のサスペンス映画とは一線を画す出来となっている。 原作者のトマス・ハリスはプライバシーに関してとても敏感なようで、私生活はほとんど知られていないのだが、わかる限り紹介しよう。40年にテネシー州ジャクソンで生まれたハリスは、ミシシッピー州のリッチで幼少期を過ごし、テキサス州ウェイコにあるベイラー大学に進む。専攻は英文学。学生時代に「ニューズ・トリビューン」の記者としても働いていた。大学の同級生と結婚して女の子をもうけるが、まもなく離婚。この頃から大衆誌にホラー短編などを投稿していたという。68年から74年まで、編集者兼レポーターとしてニューヨークのAP通信社で働き、様々な犯罪事件を取材。この経験を生かして、75年に「ブラック・サンデー」で作家デビューを果たす。81年には「レッド・ドラゴン」、88年に「羊たちの沈黙」、2000年には「羊たちの沈黙」の続編「ハンニバル」を発表。25年もの作家生活のなかで作品は上記の4つのみという大変な寡作家だが、ミステリー界の重鎮としていまやその名を知らぬ者はない。ちなみにハリスの作品はすべて映画化されている。
■トマス・ハリス著作リスト |
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■『羊たちの沈黙』ニュープリントバージョン・リバイバル上映中! <シネマスクエアとうきゅう>にて 3月31日(金)まで 上映時間 11:30/14:00/16:30/19:00
<渋谷東急3>にて 3月24日(土)より
<シネマミラノ>にて 3月31日(土)より
○当日:一般1,300円 中・小・60歳以上1,000円
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今さら人に聞けない名作 アーカイブ 『羊たちの沈黙』