妻に家出された夫が仕事と家庭の両立に奮闘 笑いと涙のヒューマンドラマ
|
今年のアカデミー賞で最優秀主演女優賞に輝いたニコール・キッドマン。『めぐりあう時間たち』での作家ヴァージニア・ウルフ役が評価されての受賞でした。この作品にはジュリアン・ムーア、メリル・ストリープといった実力派女優も出演していました。
特にメリル・ストリープが演じたクラリッサ・ヴォーンは、敏腕編集者でありながら、人工授精によって生まれた娘を同性の恋人と育てる母という非常に現代的な女性です。「自由に生きる」とは、自由な恋愛をし、自由な生活をし、すべてを自分で選び取ることでもあります。そのかわり、自分で選ぶからにはすべてに責任を負わなくてはなりません。そういう覚悟を持った、本当の意味で自立した女性は彼女の雰囲気にぴったりです。
メリル・ストリープは今から20年以上前、やはり同じように自分で人生を選びとろうとする女性を演じ、見事アカデミー賞助演女優賞を獲得しています。ここでご紹介する『クレイマー、クレイマー』('79)がそうです。助演女優賞のほかにもこの作品は、作品賞、主演男優賞(ダスティン・ホフマン)、監督賞・脚色賞(ロバート・ベントン)など多数の賞を受賞。名作の名に恥じない、一度は観ておく価値のある作品であることは間違いありません。
|
|
■ストーリー |
|
|
仕事一筋のテッド・クレイマー(D・ホフマン)がある晩帰宅すると、妻ジョアンナ(M・ストリープ)が家を出てしまう。つねに家庭に縛られてきた彼女は、自立した生活をするために夫と子供を残して出て行くという苦渋の決断をしたのだ。 その日から、テッドと6歳の息子ビリー(J・ヘンリー)の二人だけの生活が始まった。テッドは慣れない家事やビリーの送り迎えなどで、仕事にも支障を来たしてしまい、ビリーは突然母親がいなくなったことに戸惑うばかり。最初は困難や失敗ばかりで、テッドも息子を置いていった妻の身勝手さに腹を立てていた。 しかし、息子との二人だけの生活をとおして、テッドは自分がいかに家庭をないがしろにしてきたか実感する。”仕事”を理由にすべてを妻にまかせっきりだった彼は、家庭のことを何一つ知らない。そして息子の世話をとおして、はじめて”父親”になり、家族の本当のあり方に気付いていく。 そんな折、突如ジョアンナが現われ、ビリーを引き取りたいと申し出てくる。テッドも譲らず、裁判で決着することになるが……。 |
|
|
|
■ここをチェック! 女性の自立が高らかに謳われた<ウーマンリブ>の時代 |
|
今でこそ、女性が仕事を持つのは当たり前だが、この作品が作られた当時はまだまだ”女性は家庭を守っていさえすればいい”という空気が社会を覆っていた。 そんななか、欧米は日本よりもずっと早く、女性の社会進出を推し進めてきた。70年代に台頭した<ウーマンリブ>は、女性たちが「自由」を求めて起こしたムーブメント。「女性解放」という言葉には、彼女たちの並々ならぬ思いがある。物理的にも精神的にも解放されたいと願い、今までの生き方に終止符を打つ女性だって多かったはずだ。『クレイマー、クレイマー』のジョアンナには、そんな当時の女性像が見てとれる。 さて、時は流れ、時代も変わり、女性の社会におけるあり方も変わった。しかし、本当に変わったのだろうか。この作品を観ればその答がわかる。女性だけが変わっても社会は変わらない。一番大切なのは、長い歴史のなかで社会を支えてきた男性の変化で、だからこそテッドの変化を丁寧に描いた『クレイマー、クレイマー』が名作なのだ。 |
|
|
■ここをチェック! リアルなドラマを生み出す名優たちの演技 |
|
父と子の心の交流、家族のあり方を描いた傑作として、今も多くの人に感動を与え続ける『クレイマー、クレイマー』。この作品の大きな魅力が、感情移入せずにはいられない主人公たち。 はじめは仕事第一だったが次第に子供が第一になり、仕事は二の次になるテッドを演じるダスティン・ホフマン。あえて説明の必要もないほど有名な彼だが、仕事人間から父親へと変化していくテッドの姿は、この作品の”ヒューマニティ”の象徴になっている。それを見事に表現したホフマンには拍手を贈りたい。 子供を置いて出て行くという、母親としては許されない行為をとりながら、それを「やむをえない」と思わせるメリル・ストリープ。一歩間違えれば、自分勝手で無責任な女性になってしまうジョアンナ役を、女性の共感を得る普遍性で演じきっている。 そして、テッドとジョアンナを唯一つなぐ役割の息子ビリー。大人たちの勝手な行動に振り回される、いわば一番の被害者ながら、新しい環境に馴染もうと必死に頑張る健気な姿には誰もが心を打たれる。影の主役ともいえるビリーを演じたジャスティン・ヘンリー。彼の笑顔があるから、観客も「この笑顔を守りたい」と思うテッドとジョアンナに共感できる。 |
|
|
■ここをチェック! 光をとらえたアルメンドロスのカメラ |
|
前年の78年『天国の日々』で見事アカデミー賞撮影賞を受賞した名匠カメラマン。世界的に活躍する彼のカメラは、どんな光も自在に捉えてしまう。この作品でも、主人公たちの揺れる心情を表すかのような色使いが印象深い。彼独特の鮮やかさは、役者の演技、セリフ、セットすべてを包んでいる。 |
|
|
|
クレイマー、クレイマー コレクターズ・エディション 発売・販売元:㈱ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 原題:KRAMER VS. KRAMER <初回限定> ピクチャー・ディスク仕様 <映像特典> ●メイキング・ドキュメンタリー ●タレント・ファイル ●オリジナル劇場予告編 105分/片面2層/カラー ビスタ/ドルビーデジタル/モノラル/英語 |
|
|
|
<スタッフ> 監督:ロバート・ベントン 製作:スタンリー・R・ジャッフェ 原作:アヴェリー・コーマン 脚本:ロバート・ベントン 撮影:ネストール・アルメンドロス 編集:ジェラルド・B・グリーンバーグ 音楽:ヘンリー・パーセル
<キャスト> ダスティン・ホフマン メリル・ストリープ ジャスティン・ヘンリー ジョージ・コー ジェーン・アレクサンダー ハワード・ダフ ジョベス・ウィリアムズ
<アカデミー賞> 作品賞 主演男優賞 ダスティン・ホフマン 助演女優賞 メリル・ストリープ、ジェーン・アレクサンダー 監督賞 ロバート・ベントン 脚色賞 ロバート・ベントン
<アカデミー賞ノミネート> 助演男優賞 ジャスティン・ヘンリー 撮影賞 ネストール・アルメンドロス 編集賞 ジェラルド・B・グリーンバーグ
|
|
<<戻る
|
今さら人に聞けない名作 アーカイブ 『クレイマー、クレイマー』