Phil Alden Robinson

　80年代最後の名作といわれる『フィールド・オブ・ドリームス』('89)でその名を世界的なものにし、新作『トータル・フィアーズ』を大ヒットさせたフィル・アルデン・ロビンソン監督。少ない作品数ながらも、その見事な演出力で名匠と謳われるロビンソン監督の魅力に迫ります！
　1950年３月１日、ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。ユニオン・カレッジを卒業後、ＴＶ、ラジオの報道の世界に入り、ＴＶシリーズ『Trapper John, M.D.』の２エピソードの脚本を書いたことから創作の道を歩み出す。84年には、『クラブ・ラインストーン／今夜は最高！』のストーリーを執筆。さらに、カール・ライナー監督の『オール・オブ・ミー／突然半身が女に！』('84)の脚本を手がけ、才人ぶりを光らせた。監督デビュー作は、87年の『ウー・ウー・キッド』。
　第２作の『フィールド・オブ・ドリームス』('89)はアカデミー賞の作品賞候補になり、ロビンソン自身も脚色賞の候補になった。この作品で彼は、脚本家組合賞にノミネートされ、ショーウェスト・コンベンションの最優秀脚本家に選出された。
　３作目の『スニーカーズ』('92)は、ロバート・レッドフォードを主演に迎えたハイテク・サスペンスで、軽妙洒脱な演出の腕前を披露。また、監督＆脚本＆製作総指揮をつとめたTV作品『フリーダム・ソング』(00)では、サンフランシスコ国際映画祭のゴールデン・スパイア賞と脚本家組合賞のTV部門を受賞している。'92年、国連の難民高等弁務団にオブザーバーとして参加したロビンソンは、ソマリアとボスニアで救済活動を行い、５本のドキュメンタリーを作った。その最新作『Sarajevo Spring』は、’97年のエミー賞ニュース・ドキュメンタリー部門にノミネートされた。また、ゴールデン・グローブ賞のＴＶ映画部門を受賞したミニ・シリーズ『バンド・オブ・ブラザーズ』(01)では、第一話の監督にあたっている。


■ロビンソン監督作品をDVDでチェック！
■スニーカーズ　('92)

　ロバート・レッドフォード、シドニー・ポワチエ、ダン・エイクロイド、リヴァー・フェニックスというオールスター・キャストでおくる犯罪エンタテイメント・ムービーの傑作。サンフランシスコを拠点に活躍するハイテク集団“スニーカーズ”は、コンピュータを始めとしたエレクトロニクスを駆使して、警備システムの不備を証明する。NSA(国家安全保障局)からの要請により天才数学者が作り出したブラックボックスを盗み出すが、それは世界を転覆させかねない究極の暗号解読機だった……。ロビンソン監督の演出力が見事な犯罪エンタテイメント作品。
販売：SPE
価格：￥3,800(税抜き)
■フィールド・オブ・ドリームス　コレクターズ・エディション('89)

　失ったものは帰ってくる――若き日の父に姿をかえて。すべての野球好きにおくるケビン・コスナー主演の大人のためのファンタジー・ドラマ。ある日「それを作れば、彼はやって来る」という“声”を聞いた農夫レイ・キンセラは、とうもろこし畑を潰して野球場を造り始める。およそ1年後、1人の男が野球場にやって来る。今は亡き父親のヒーロー、伝説の大リーガー“シューレス”・ジョー・ジャクソンであった。レイは第２､第３の声を聞き、小さな奇跡はやがて、様々な人々の心に暖かい波紋を広げていく…。信じる事の素晴らしさを詩情豊かに描き上げたロビンソン監督の演出は見事。アカデミー賞３部門(作品、脚色、作曲)にノミネートされた傑作だ。
発・販売：SPE
価格：￥3,800(税抜き)


■新作でチェック、ロビンソン監督の技量
　公開と同時に全米２週連続トップの座に輝き、東京地区興行成績でも第１位を獲得した『トータル・フィアーズ』を監督したフィル・アルデン・ロビンソン。
　
　トム・クランシー原作のジャック・ライアン・シリーズ映画化作品ではNo.１のヒット作となっている。CIAによれば、核を保有または開発している恐れのある国は、少なくとも世界に20カ国(そのほぼ半数が中東と南アジア)あるという。また、冷戦時代に構築された何万ものミサイルがいまも発射台の上で待機状態にあり、今日まで164個の核弾頭が行方不明になっているという調査結果も報告されている。
　『トータル・フィアーズ』は、そうした現実の危機をベースに、疑心暗鬼にかられた大国同士が恐怖を誇大妄想的にエスカレートさせていき、世界を破滅の淵に向わせていく様を克明に描いている。サスペンス映画は『スニーカー』でその手腕を見せつけた監督が、ますます緊張感に満ち溢れたスペクタクル巨編を生み出した。観るものを圧倒するたたみかけるようなクライマックスの演出は、ロビンソン監督の技量を発揮するものとなっている。


■ロビンソン監督の注目すべきTVドラマ・シリーズ
　スティーヴン・スピルバーグ、トム・ハンクス製作総指揮、総製作費150億円をかけた史上空前のテレビドラマ『バンド・オブ・ブラザース』(01)。フィル・アルデン・ロビンソンは、このシリーズの第１話を監督した。

　1942年から1945年までの３年間、第２次世界大戦中、米陸軍101空挺師団第506パラシュート歩兵連隊のなかのエリート部隊の苛烈な戦いを、兵士たちの人間模様を軸に描いたこの作品は、10話のエピソードからなる全10時間余りの大作ドラマだ。

　ある日突然スティーヴン・スピルバーグから電話があり、１話目のエピソードを監督しないかといわれたロビンソン監督。NYからすぐさまLA行きの飛行機に乗ってトム・ハンクスのオフィスへ向かい、そこでハンクスとスピルバーグに会う。スピルバーグが体調不良で、仕事が出来ないということで「明日イギリスへ飛んでもらおう」といわれたロビンソンは、またもやバッグとパスポートを引っつかんでイギリスへ。ロンドン北部のロケ現場では、すでに大勢のスタッフとキャストが、いつ監督が到着するのかと待ち構えていたという。
　命や絆の尊さを描く戦争ドラマは、2002年エミー賞(TV部門)、第59回ゴールデン・グローブ作品賞(ミニ・シリーズ／TV映画部門)を獲得した。またひとつロビンソン監督の名前を連ねる名作が生まれた。このシリーズは現在WOW　WOWで放送中。

　少ない作品数ながらも決定的な名作を撮り、その名をハリウッドに刻みつけたフィル・アルデン・ロビンソン監督。今後の動向にぜひとも注目したい。


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