3月24日から4月6日まで、大阪のシネ・ヌーヴォにて公開
■■DATA■■
【上映時間】11:00~14:02
【イベント】
・3月24日、槌橋雅博(監督)・山下葉子(主演)の舞台挨拶あり
・同日、23:00から、宮台真司、山下葉子との対談、THE NEW JAZZ CONCEPTIONSのライブ、覆面上映などのオールイトイベントあり(¥3000)
・3月11日17:00より、大阪十三の第七芸術劇場にて特別プレミア上映あり

 前回デンマーク映画を紹介し、北欧の監督グループが結成している<ドグマ95>について触れました。CGなどが発達し映像に関して不可能がないかのように見える昨今の映画界にあって、「人工照明を使わない」など、あえて制約を与えることで基本に立ち戻り、その真の良さを追求しようという団体です。そして我が国日本では、映画を自由に捉えることで本来の姿に立ち戻り、より研ぎ澄まされた感情を伝えようとしている作品が誕生しました。その作品の製作には約10年の月日を要したと言います。

 日本映画の低迷が長い間叫ばれていましたが、近年では『BROTHER』('00)の北野武監督、『漂流街 THE HAZARD CITY』('00)の三池崇監督を初め、『EUREKA(ユリイカ)』('00)の青山真治監督など、独自のアプローチで世界的な評価を集める監督が出現し、本格的復興の兆しが見え始めました。将来その一翼を担うであろう、槌橋雅博監督デビュー作『TRUTHS:A STREAM』('99)を紹介します。


 独自の美学を確立しているスイスの映像作家、ダニエル・シュミットが絶賛したという『TRUTHS:A STREAM』。彼を知っている人なら、本作が映像的にもテーマ的にも何者にも媚びない、極められたものであると察しがつくでしょう。その通り、テーマは生と死。これは題材という意味ではありません。まさに生と死そのものを、丹念に撮られた映像で綴る作品です。

 物語を形取っていくのは、元恋人同士の男女。生の自由を求める二人は、死にそれを見出します。道行の旅に出る二人の行動が、詩のような哲学のような数々の言葉を軸にゆっくりと展開するのです。迸る感情を描いているにも関わらず、あえて淡々とした見せ方で。大人になり処世術を身に付けると、人としていかに生きるか、死とは何なのかなどとは考えなくなるのが常。それは一方的に否定されることではありません。が、生まれて死んでゆく人間である以上、生と死から開放されることはないのです。静かながらも迷いのない直球である本作は、「そんなのコドモの言うことだ」と言って憚らないオトナたちでさえ立ち止まらせる究極の“青春映画”に仕上がっています。


 そんなテーマを浮かび上がらせる映像も秀逸。2000年度ベルリン映画祭でヴォルフガング・シュタウテ賞特別賞を受賞したことでも明らかではありますが、前衛であり耽美でさえある映像の美しさは皆さんご自身の目で確認しかありません。何はともあれ、ここまで媚びない、堂々とした作品が日本映画界に登場した、というだけでも映画ファンは必見と言って過言ではないでしょう。





STORY  橘響子は参議院議員である父の第二秘書を務めている。権力主義的な家族にうんざりしながらも、これが運命と大学卒業時に自ら決心した職業であった。ある夜更け、彼女のもとに大学時代の恋人で、冴木峻一が訪ねてくる。常々生きることに馬鹿馬鹿しさと無常を感じており、死に憧れを抱いていた彼は、ついに自死を決行することに決め、しかも響子に共に死のうと誘いに来たのだった。逃れようのない「家系」の重さに押し潰されそうになっていた響子は峻一の誘いを受け入れ、二人は響子の祖父が遺した山嶺の奥に眠る土地へと向う。人界から切り離された自然の真只中で、どのようにして死すかを考えるうちに、彼らは、ただそのまま消え去るのではなく、自らの死を充実させることによって、生の最期の瞬間を輝かせようと思い立つ。そして響子と峻一は、自分たちの手で自分たちの墓を作り、作り上げた時に自死を執り行うことを決意する。しかし響子の心の内には秘められたもう一つの思惑もあったのだった。




STAFF&CAST
監督・製作・脚本・美術・音楽・編集:槌橋雅博 プロデューサー:吉川晶子 撮影:中本憲政 音楽:堀越昭宏 美術:久野浩志 整音:浦田和治 タイミング:安斎公一 キャスト:山下葉子、 馬野裕朗、 中江絵美、 中村優子、 河田義市ほか

DATA
1999年/日本映画/モノクロ&カラー/35mm/スタンダード/DTS/182分 製作・配給:アート・オブ・ウイズダム(http://www.art-of-wisdom.com/)



槌橋雅博
 本作が長編劇場映画デビューとなる槌橋雅博監督は、ジャズミュージシャンでもあります。63年神戸市に生まれ、87年渡米。コロンビア大学、及び、社会科学新研究所にて、映画 製作技法を学び、90年、短編映画「LIFE OF RAINDROPS」を製作しています。強い作家性を押し出した作風の持ち主で、アーティストと称するにふさわしいタイプ。そんな監督は本作を「究極のラブ・ストーリーであり、究極のハード・ボイルドである」とも語っています。次の一風変わったプロフィールでその人となりを想像するのも一考。興味が湧いた方は、公開初日ほかのイベントで会うことができるので要チェック!
PROFILE:
5歳、スナフキンをギターの師と仰ぐ/6歳、スピット・ファイアーの撃墜王となる/7歳、スヌーピーから「人生」を学ぶ/9歳、楠ノ木の影を群青で描く/10歳、ジミヘンに脳天ブチ割られる/11歳、NCC1701で宇宙の旅に出る/12歳、レット・バトラーに男の中の男を見る/13歳、黄色いロバジョンと化す/14歳、絵画の脱構築を開始/15歳、マタイ受難曲でフィーバー/16歳、ツァラトゥストラと空を歩く/17歳、放課後のジャズ喫茶でアル中になる/18歳、白紙解答を出す楽しみに溺れる/19歳、ラファロでWベースに転向/24歳、コロンビア大で映画に目覚める/25歳、ロイクでもグルーヴしない奴に驚く/26歳、ソーホーでストリート演奏。ポリとヤッチャンとの付き合い方を覚える/27歳、人間は基本的に自由であると知る。以下略(チラシから抜粋)

 パートカラー、及びセピア掛かった色彩で構成された映像や構図は、映画評論家の佐藤忠男氏をして「よほど時間をかけて徹底的にねばっても容易に撮れるものではない場面がいっぱいつまっている」と言わしめたほど。その秘密のひとつとして、白黒ネガの使用が上げられます。白黒ネガは現状の日本映画ではほとんど使われていません。それ故、技術的に苦労も多かったようですが、完全なるモノクロの色彩をスクリーンに映し出すことによって、生活においてカラーに慣れている私たちのイマジネーションを喚起し、真の意味で映画を制作者と観客が共有するという意図に基づいて実行されました。また、照明にも気が配られ、基本的に撮影のための人工照明は使用されていません。これにより、絵画的な映像が創造されたわけです。こうした頑固なまでの監督はじめスタッフの姿勢があってこそ、この深みある映像美が構築されたのです。
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