12月23日(土)より新宿ジョイシネマ3にてロードショー

 現在日本でも『エクソシスト(ディレクターズ・カット版)』がヒット中だが、ホラーというジャンルは今も昔も変わらぬ人気を誇っている。確かに日常にはない感覚が味わえるという映画ならではの娯楽性が高いという点も見逃せないが、人間の本質に迫るという部分で作家の意欲を煽るものでもあるのであろう。そこで、今回はホラー作品をアメリカから紹介しよう。アメリカというとハリウッドメジャー作品の印象が強いが、もちろんそれだけではない。世界一の映画大国として、様々な作品を生み出している。明るいハリウッドのイメージとは異なる耽美な作品、『ヘルレイザー ゲート・オブ・インフェルノ』をご存知だろうか?

 87年、ホラー界の若手人気作家だったクライブ・バーカーが、自身の小説をもとに脚本・監督も兼任して生んだ『ヘルレイザー』。何の変哲もないボックスが誘う暗黒世界=インフェルノ(地獄)に彷徨う人々を描いて大ヒットを飛ばした。特に注目されたのは地獄の使者たちのビジュアル。ピンヘッドと呼ばれる、顔中に釘を打ちボンテージに身を包んだ男や彼の一味、魔道士たちがそれだ。今ではファッションとして当たり前となったボディ・ピアスの走りがここにある。しかし、もちろんファッションとしてのそれを超えているのは言うまでもない。前述のピンヘッドを筆頭に、目を潰され唇を開かれた上半身だけの人間や瞼を縫い合わされたボンテージの女など、苦痛の上の快楽を求めるSM的発想に基づいた強烈に耽美なキャラクターがスクリーンから迫ってくる…。

 そんな第1作のヒットを受けシリーズ化され、96年までに4本が製作された。それに続くのが本作、『ヘルレイザー ゲート・オブ・インフェルノ』だ。しかし、本作はただのホラーではない。今までは地獄の使者たちが中心に描かれており、人間は殺される、もしくは狂わされ魔道士になっていく道具という要素が大きかったが、今回は主人公が絞り込んで描かれ、人間の心の中の闇にぐっと迫ってくる。つまり、サイコ的要素が深くなったのだ。恐るべきビジュアルはそのままに、観る者の煩悩に肉薄してくるストーリーも堪能できるという進化した番外編とも言える仕上がりになっている。恐ろしくも惹かれずにいられない地獄の使者たちの「教え」を、あなたはどう解釈するだろうか?

STORY  デンバー警察殺人課のジョセフ・ソーン刑事(シェーファー)は美しい妻とかわいい娘がいるのにも関わらず、家庭を顧みない。のみならず隠れてドラッグを使用したりモラルのない男。彼はある日、肉を引きちぎられて殺された男の自宅を訪れる。被害者はジョセフの高校時代の同級生だったが、そんなことより現場で発見された子供の指と不思議な箱に興味を覚える。一夜限りの夢をくれる街娼の女と過ごした日、不思議な箱がひとりでに姿を変えるのを目撃。その後、ジョセフは地獄の魔道士たちに襲われるという悪夢を見るように。次の日、その娼婦が殺される事件が発生。ここにもまた、同じ子供の指が落ちていた。同一犯として捜査をすすめるうち、ジョセフは“エンジニア”という謎の人物にぶち当たる。そしてどうしても気に掛かる子供の指…。彼はこの子供は生きていると確信。助け出すことを心に誓う。一方でジョセフの周りにはピンヘッド(ブラッドリー)をはじめとする魔道士たちが時折現れては地獄図を見せて苦しめる。一体この連続殺人の犯人は?果たしてジョセフに安息の時はやって来るのか?

STAFF&CAST
監督・脚本::スコット・デリクソン 原作・キャラクター創造:クライヴ・バーカー 脚本:ポール・ハリス・ボードマン 撮影:ネイサン・ホープ 美術:デボラ・レイモンド、ドリアン・ヴァーナッチョ 衣裳デザイン:ジュリア・シュクラー 特殊メイク:ゲリー・J・タニクリフ 出演:クレイグ・シェイファー、ダグ・ブラッドレイ、カーメン・アルジェンツィアノ

DATA
1999年/アメリカ映画/カラー/35mm/99分
日本配給:ギャガ・コミュニケ―ション
公式サイト:http://www.gaga.ne.jp/hellraiser/


 52年、イギリスのリヴァプール生まれの彼は、「血の本」シリーズでスプラッタ・パンクの先駆者として注目された怪奇幻想作家だ。85年には「ミッドナイト・ミートトレイン」で世界幻想文学賞と英国幻想文学賞を受賞。自らの原作小説の映画化にも積極的で、『クライヴ・バーカーのサロメ 』('73~78・未) で初めてメガホンをとった。そして監督2作目が『ヘルレイザー』。本作は「魔道士」(後に「ヘルバウンド・ハート」と改題)の映画化で、2~4作目までは製作総指揮を務めた。その後、映画に深く関わるようになり、98年アカデミー賞にもノミネートされた『ゴッド・アンド・モンスター』でも製作総指揮をとっている。一貫した耽美的でパンクな作風に根強い人気があり、そのヒット具合はイギリスのスティーブン・キングとの異名をとっている。

 本作の主人公は、刑事であるにもかかわらずドラッグや売春をしたり、事件を隠蔽したりといかがわしいことこの上ない。しかし、表面的には誠実な男を装い、その身を取り繕うために平然と人を裏切っていく…。その煩悩に付入ってくるのが地獄の使者たちだ。しかし、この男もただの悪人ではない。自身の娘には深い愛情を抱いているし、煩悩深い己に良心を痛めることもある。極端な部分もあるが、ごく普通の人間なのだ。ひどい奴だと思うだろうが、さて、これは他人事だろうか?人間とは、常に本能と理性の間の葛藤を日常に抱えているのではないだろうか。主人公はサイコな世界に引き込まれていくが、誰しもが紙一重なのだ。勧善懲悪で割り切れないリアルな人間がここに描かれている。主人公の悪夢は他人事ではない…。


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