2月24日(土)、新宿シネマ・カリテにてレイト・ロードショー。 以後、大阪・シネマパラダイスほかにて全国順次公開 |
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本コーナー、FILE1:『WEBMASTER』でも紹介したデンマーク映画。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の大ヒットにみられるように、今まさに旬を迎えています。それだけにさまざまな新しい才能が生まれやすい環境が整うのでしょう。映画ファンとしては、気鋭のクリエーターを青田買いする絶好のチャンスです。今回はそんなデンマーク映画から、掘り出し物とも言える1本、『フォーリン・フィールズ』を取上げます。
本作は、前述の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も手掛けた名プロデューサー、ペーター・アールベイク・イェンセンが製作総指揮を務めている“問題作”。問題作ゆえに、99年カンヌ映画祭に選出されながら上映が見送られたという経緯を持っています。どこが問題とされたのでしょうか? 新鋭監督らしい、新しい表現に迫ってみましょう。 |
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ユーゴスラビア内戦仲裁に参加した、国連軍の若い兵士を主人公とした本作。主人公は、平和維持活動という名目の裏に潜む、罠に掛けられていきます。しかし、誤解を恐れず言うのならば、これは戦争映画ではありません。ジャンルにすれば人間ドラマ。人の紙一重な部分を描ききるために、戦争を題材にし、そして見事成功しているのです。戦争映画というと『プラトーン』『地獄の黙示録』など、題材にしつつ人の愚かさまで描くのが普通だ、という意見もあるでしょう。ごもっとも。しかし、本作の新しさは、本当の意味で静かに描いているところです。派手な爆撃シーンなどは皆無。人が死んでいく様も何事もないように静かに描かれています。音響も音楽も、そして台詞さえ、ほとんど使用されていません。それなのに、強烈な緊張感を観客に与えます。そんな戦争映画、想像できますか? | ||
これほど静かなのに観客に緊張感と恐怖を与えるのは、リアルだから。もちろん俳優たちの演技によるところも大きいのですが、もし、自分が戦場にいたらこうなのだろうな、と思わせるものがあります。敵がどこにいるか分からない静寂、息さえ押し込める自分たちの静寂、そして敵を撃つ時に心で感じるであろう冷たい静寂…。そんな体験を観客に与えるという演出に、見事に嵌められてしまうのです。 |
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その監督の名はアーゲ・レイス。ドキュメント出身で、96年のドラマ『ANTON-THE FLYER』がベルリン映画祭の若手部門特別賞を受賞したことで頭角を現しました。そして最後に付け加えたいのは、本作のランニングタイムが約1時間半と、コンパクトにまとまっていること。短時間で描ききるのには、それなりのテクニックが必要です。しかも、ラストにあるスパイスを効かせて、物語にスケール感さえ与えています。アーゲ・レイス、要チェックです。 |
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STAFF&CAST 監督・脚本:アーゲ・レイス 脚本:イェンス・ダール 製作:ヘンリク・ダンスラップ 製作総指揮:ペーター・アールベイク・イェンセン 出演:ペレ・べネゴー、ニコライ・ユスターワルドー、ジュリア・イェガー、スティーブン・ニコルソン 、ヨハン・ワイデルベルグほか
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本作をスクリーン上で支えているのは、もちろん俳優陣。演出同様、静かに背後に迫ってくるような気配の演技を見事こなしています。主人公を演じるのは、映画ファンには懐かしい“ペレ少年”。87年アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『ペレ』のあの男の子です。俳優業から遠ざかっていた彼、ペレ・べネゴー(写真右)を久々に拝むだけでも観る価値あり。すっかり大きくなりました。もちろん、演技的な期待も裏切りません。そして、彼を狂気の世界へ導く軍曹役はニコライ・ユスターワルドー(写真左)。北欧の若手陣として、強い人気を誇るスター俳優。スキンヘッドに端正な顔立ちだけでも納得です。何度もリメイクされている名作サイコ・ホラーの94年版『モルグ』、ナチスの残虐行為をアーティスティックに描いた97年の『ベント 堕ちた饗宴』で覚えている人も多いのでは? いずれも、本作では二人の対極的な目の演技に注目です。 | ||
91年、クロアチアとスロベニアがドイツ、オーストリアの支援で分離独立宣言をして始まったのが、設定の基となるユーゴスラビア内戦。中でも、セルビア正教、イスラム教、カトリック教徒が三つ巴の壮絶な紛争を繰り替えした舞台となったのが、ボスニアです。ユーゴスラビアと言えば、かつてチトー将軍によるゲリラ戦であのスターリンを黙らせたところ。その時行われたチトー将軍による、全国民への兵教育が、国民に必要以上の武力を与えることになり、ここにきて、内戦を激化させました。さらに話をややこしくしたのは、クロアチアの戦略。なんと、アメリカのPR会社ルダー・フィンと契約し世論を利用して、セルビア人だけを悪人に仕立て上げたのです。この影響は今だに大きく、国連でさえセルビア人を悪人と捉え、事情も分からないままに、セルビア人を殺略する者を英雄視する風潮が。本作では、そこをうまく描き出すことに成功しています。 | ||
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