6月30日(土)、シネ・ラ・セットほかにて公開

 アカデミー賞ほか各映画賞でも話題をさらった、ペドロ・アルモドヴァル監督による『オール・アバウト・マイ・マザー』('98)。近年のスペイン映画と言えば、やはりこの印象が強いですね。アルモドヴァル監督の評価は本作で世界的に固まった感がありますが、映画ファンにはおなじみの名前。そして、ルイス・ブニュエル、ビクトル・エリセ、カルロス・サウラ各名匠監督らの国でもあるスペインは、アーティスティックで独自性の強い作家を生み出し続けています。

 その中でも注目を集めるのが、『オープン・ユア・アイズ』('97)でトム・クルーズを唸らせリメイク(タイトル『VANILLA SKY(原)』(01)。『オール・アバウト~』のペネロペ・クルス共演)までさせた若手トリオ。メンバーはマテオ・ヒル監督、監督であり音楽も担当するアレハンドロ・アメナーバル、そして実力と人気を兼ね備えた二枚目スター、エドゥアルド・ノリエガ。彼らのコンビネーションが始まったのは、95年の『テシス 次に私が殺される』でした。

 スペイン映画らしい作家性を持ちつつ、エンターテインメント要素も巧みに組み込み注目のこのトリオが、また一見の価値ある作品を生み出しました。それが今回紹介する『パズル』。巧妙な語り口と作家魂が融合するとどうなるのか? 本作で、今のスペイン映画界を見てみましょう。

 タイトル『パズル』が表すように、複雑なピースが散りばめられたサスペンスである本作。ノリエガ演じる主人公に、謎のメッセージが届くところから物語は紆余曲折に展開します。メッセージにあった指令を軽い気持ちで実行したことから殺人事件に発展。しだいに魔の手が自身に降りかかってきます。敵味方も分からず困惑する主人公…。概要を言ってしまえば、よくあるサスペンスです。だからこそ、その面白さの程が歴然としてしまう。彼らは3度目のコラボレーションである本作で、そんな難題に挑みました。

 この難題をクリアするために彼らが用意した武器は、“セビリアの町”“技量ある演技人”、そして当然のことながら“よく練った脚本”です。物語はセビリア最大の祭りであり、4月に行なわれるキリスト教最大の行事でもある聖週間のうちに展開。加熱するマスコミ陣まで背景に加え、設定だけでも十分観客を熱くします。そしてノリエガの共演に『ハモンハモン』('92)などの演技派ジョルディ・モリャを迎え、種明かしをさらに難解にしています。

 また脚本に関しても秀逸。見えない駆け引きを描き出すためゲーム性を打ち出したり、インターネットを駆使したかと思えば、古典文献を引っ張り出したり…。本当に、出来そうで出来ない“パズル”のような展開を見せてくれます。「意地でも完成させたい!」と思わされつい熱中してしまう“パズル”。本作はそんな世界を堪能させてくれるのです。現在のスペイン映画界における、頭の柔らかさとキレのよさを体現していると言えるでしょう。

 本作は「作家性とサービス精神が同居するとこんなにスゴイ!」という見本。ここにスペイン映画の未来予想図があるのです。





STORY 聖週間の祭りに沸くスペイン・セビリア。青年シモン(ノリエガ)は、新聞のクロスワード・パズルの作成で収入を得ている。ある時、パズルに“敵対者”という言葉を入れろという脅迫電話を受け取った彼は、深く考えずにその言葉を使用。が、それに符合するような死亡事故が起きてしまう。ふさぎこむ彼を、同居人の通称カエル(モリャ)は偶然だと慰め忘れるように言うが、シモンは奇妙な符号の謎を探すため、新聞記者マリア(ベルベケ)に接近。しかし脅迫電話の主が次々と残すメッセージに沿うように、第二の事件が勃発してしまう。そしてついに、魔の手は彼自身に降りかかった…!

STAFF&CAST 監督:マテオ・ヒル 原作:ファン・ボリニャ 製作:エンリケ・ロペス・ラピーニュ 脚本:マテオ・ヒル 撮影:ハビエル・サルモネス 音楽:アレハンドロ・アメナーバル 美術:トニ・ガリンド 出演:エドゥアルド・ノリエガ,ジョルディ・モリャ,ナタリア・ベルベケ,パス・ベガ

DATA 1999年/スペイン映画/カラー/35mm/スコープサイズ/ドルビーデジタル/108分
配給:ポニーキャニオン/配給協力:シネカノン/宣伝協力:トライエム・ピクチャーズ

★公式サイト:http://www.puzzle-movie.com

★スペイン版予告編が送れるアニメーションeカード:
http://www.tsutaeru.net/puzzle-movie

 女性の母性本能をくすぐると本国では大スターのノリエガ。日本ではまだ知名度が高くないだけに、今なら青田買いのチャンスなのです。ルックスだけでなく、猟奇趣味のあるオタク役や、自分の美貌に執着する男、どもりのある屈折した青年、さらにはコメディへとその幅広い演技力も人気のヒケツ。しかも奢ることなく、あくまで映画チームの一員として挑んでいるようです。本作では、苦悩の表情に色気さえ漂わせる迫真の演技を見せてくれます。

PROFILE:1973年スペイン生まれ。1994年に『Historias del Kronen』(日本未公開)で映画デビュー。ヒル監督らとは映画のオーディションで出会い、意気投合。現在までに短編2作、長編3作を一緒に製作している。アメナーバル監督の『Luna』('94)では、AICA最優秀主演男優賞とアルカラ・デ・エナーレス映画祭最優秀主演男優賞を受賞。最新作はギジェルモ・デル・トーロ監督作『DEVIL'S BACKBONE』(02年日本公開予定)。
 スペイン最大の祭り聖週間の様子を絶妙に切り取っているのは先に挙げましたが、本作における背景の魅力はそれだけに留まりません。セビリアのランドマークである“ヒラルダの塔”、市内で最も高い建造物である“アラミリョ橋”、ドン・ファンのモデルになった貴族が、貧しい人々のために建立した“神の救済教会”、その教会の隣に位置する“マエストランサ闘牛場”などを次々と活写。しかも見事なカメラワークで、スペインの神秘性を味わせてくれます。そして劇中では、物語の重要道具として街のミニチュアも登場。スペインに興味がある方も必見です。


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