【FILE 43】アルゼンチン発 『ある日、突然。』
 7月下旬よりシネ・アミューズにて公開

アルゼンチン・タンゴやサッカーなどが有名な南米のアルゼンチン。今回は、そんなアルゼンチンから飛び出した、オフビートなユーモアに包まれた新鮮なのにどこか懐かしい、1本の青春映画をご紹介しよう。
■STORY
ランジェリーショップに勤めるマルシア(タチアナ・サフィル)は、ある日道端でパンクな2人組の女の子、マオ(カルラ・クレスポ)とレーニン(ベロニカ・ハサン)に声をかけられる。「一目惚れしたから、今すぐ寝よう」と持ちかけるマオに対し、マルシアは全く相手にしない。そこでマオとレーニンは、彼女を強引に旅へと連れ出すことに。そして、3人の奇妙な旅が始まった。
■公式サイト> http://www.zaziefilms.com/totsuzen/


■その先には何がある? 日常生活の裏側にある別の道
 毎日をどんなに計画的に過ごそうとしても、突発的な出来事は何かしら起こるものだ。“ある日、突然”雨に降られた。“ある日、突然”恋人にフラれた。“ある日、突然”一目惚れ……などなど。この映画の主人公であるマルシアの場合、“ある日、突然”誘拐されてしまう。
 太陽も燦燦と照りつける日中、マルシアはいきなり道端でマオという不良の雰囲気漂うショートカットの女の子から「あんたと寝たい」と声をかけられる。はじめは「興味ない」と突っぱねるが、「本気で恋をしたことがあるか? 毎日が楽しいか?」と詰め寄られると、仕事は退屈、恋人にフラレたショックから癒えず、毎日元彼にイタ電をかけているマルシアは反論できない。本当に、楽しいのだろうか…?
 こうして、マオの情熱とレーニンがちらつかせるナイフに引きずられるようにして、彼女は2人組とあてもない旅を始める。
 撮影当時26歳。新鋭監督ディエゴ・レルマンが、アルゼンチンの景気低迷の波を被りながら何とか創り上げた本作は、初期のジム・ジャームッシュや、ヴィム・ベンダースを彷彿とさせる粒子の粗いモノクロ映像で、少女たちの心の揺れや、アルゼンチンのリアルな空気感を映し出していく。
 マルシアたちの旅は、やがてレーニンの大叔母ブランカの家を訊ねるという目的地を得るのだが、人生の楽しさや哀しみを知るブランカの登場で、3人はそれぞれ新たな局面を迎えることになる。この旅ではじめて海を見たマルシアは本当の恋を知り、マオは自分の感情と向き合い、レーニンはブランカと過ごすことで忘れていた何かを思い出す。

 人生は予期せぬことの連続である。“ある日、突然”何が起きるかわからないが、ほんのちょっとの勇気があれば、それは案外楽しいものなのかもしれない。さて、“ある日、突然”の出来事を経て、何かを学んだ3人が、今後どうなるのか? 彼女たちの未来に思いを巡らせてみるのも、また楽しい。


■アルゼンチンの名物、マテ茶
 ブランカの家に着いた3人に早速ふるまわれたのが、アルゼンチンのお茶、マテ茶。
マテという灌木の葉から作ったこのお茶は、南米で日常的に飲まれているもので、コーヒー、紅茶に次ぐ3大飲料の一つといわれている。友情のしるしとして、1つのマテ壷と、ボンビージャと呼ばれる1本のストローで回し飲みするのが、伝統的なスタイルだ。味は、香り豊かで後味さっぱり。


■DATA
2002年ロカルノ国際映画祭準グランプリ受賞・特別賞受賞作

原題:Tan de Repente
2002年/アルゼンチン/93分
配給/ザジフィルムズ + ブルーバック・フィルムズ

スタッフ
監督:ディエゴ・レルマン
脚本:ディエゴ・レルマン、マリア・メイラ
撮影:ルシアノ・シト、ディエゴ・デル・ピアノ
音楽:フアン・イグナシオ・ブイスカイロル
キャスト
マルシア:タチアナ・サフィル
マオ:カルラ・クレスポ
レーニン:ベロニカ・ハサン
ブランカ:ベアトリス・ティボーディン


(C)Lita Stantic - Diego Lerman,Buenos Aires 2002


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