【FILE47】アルゼンチン発『ブエノスアイレスの夜』
 12月11日よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー

『アモーレス・ペロス』('99)の鮮烈なデビューから、はや5年。『天国の口、終わりの楽園。』(01)『モーターサイクル・ダイアリーズ』(03)と様々な若者の葛藤と愛…そして生き様を演じ続け、ラテン映画界で、もっとも期待される俳優ガエル・ガルシア・ベルナルが新たに贈る愛の形。

■STORY

 美しく有能なカルメン(セシリア・ロス)は42歳。しか彼女は冷たく心を閉ざしたまま、故郷から遠く離れた、マドリードにたったひとりで住んでいた。1976年にアルゼンチンで起きた軍事クーデター。それがカルメンを変えてしまっていた。1年間にも及ぶ暗い独房での過酷な拷問…。軍に開放されたカルメンは国を捨て、人を愛することを忘れ、肉体的にも人と触れ合うことが出来ない体となっていた。
 父の財産分与のため、20年ぶりに故郷ブエノスアイレスに帰ってきたカルメンは、2週間の滞在にも関らず、家族が暮らす家に留まらず、アパートを借り過ごしていた。そして雇った男女の愛の営みを、壁越しに隣室で聞く…。それはカルメンが唯一、得ることのでき性的な悦びだった。やがて、その隣室から聞こえる若い男の声は、カルメンの閉ざされていた情熱をかきたて、心を揺さぶりはじめる…。それがグスタポ(ガエル・ガルシア・ベルナル)との壁を隔てた出逢いだった。
■公式サイト> http://buenos-yoru.com


■パエス監督が描く“悲劇に見舞われた人間のもろさ”
 アルゼンチン中東部の都市ロサリオで産まれたフィト・パエス監督。妻はカルメンを演じるセシリア・ロス。現在はブエノスアイレスに住み作曲家・歌手として活躍中。アルゼンチン国内の音楽業界はもちろんのこと、ラテン・アメリカ全域、アメリカ、ヨーロッパでも著名な音楽家である。1994年アメリカで行なわれたサッカー・ワールドカップでは、ルイス・プエンソと共にコカ・コーラ社のCM音楽を担当し、歌手としての代表作“愛のあとの愛”はアルゼンチンで最も高い売り上げを記録した。2000年の第一回ラテン・グラミー賞では、アルバム『ひらけ』で優秀ロック部門と優秀男性ソリスト部門で、賞を獲得している。
 パエス本人も『Do eso no se habia』('93)や『オール・アバウト・マイ・マザー』('99)など、アルゼンチンとスペインの映画に数多く出演し、監督としては、中篇『ドンナ・エレンナのバラード』('94)を製作。この作品はキューバのハバナ国際映画祭を初め、数多くの映画祭に招かれ賞賛を浴び、そして初の長編監督作となる『ブエノスアイレスの夜』を製作するにあたり、1994年から構想を抱き続け、2001年2月より音楽活動を一切、休止。7年の歳月をかけて完成させた。みずからのレコード会社を抵当に入れ、実現したこのプロジェクトに関して「語りたい物語があって、それを実現するのに映画が一番適していると思ったから、情熱を持って取り組んだだけだ。この作品で伝えたかったのは、悲劇に見舞われた人間のもろさ。これは私自身の問題でもあったし、アルゼンチンの歴史にも通じるものだ」と監督は語る。音楽活動を休止してまで描きたかった本作。環境の違う我々ながら、作品の中からアルゼンチンの人々の歴史と背景、心の闇と再生を少しでも感じ、そして共に考えていければと思う。


■映画から観るアルゼンチン
■20世紀初頭、都市民衆層を基盤とする、ペロン政権のもとアルゼンチンは急速な成長を遂げたが、保守派を敵に回したために次第に経済悪化が深刻化。そんな中、独裁色を強めていったペロン政権は1955年に軍事クーデターで倒れた。(当時、ペロンの最初の妻は“エビータ”の愛称で民衆の絶大な人気を集めていた)その後の軍制の弾圧は、国内のペロン派と反ペロン派による二極化を深め、ペロン派は左傾化していく。1973年にペロン政権は復活。しかし、直後のペロンの死による混乱で1976年に再び軍のクーデターで倒れた。
■軍事政権はアルゼンチン全土で反政府活動家たちの拉致、監禁、虐殺を公然と開始。劇中でカルメンが投獄・拷問された日々が続いたのも、夫がジャーナリストだからという背景から…。連行され行方不明になった人の子供や、獄中で出産された赤ん坊は親から引き離され、他人の子供として育てられた。この映画にはセシリア・ロスとガエル・ガルシア・ベルナルが演じる年齢差のある性愛の他に、父親の殺害、自殺といった複雑なテーマが盛り込まれている。監督は「私が試みたのは、軍事政権下で起こった大虐殺の恐怖が、どんな出逢いを生み出すか、アルゼンチンの歴史的事実の中に、どうやって運命や宿命といった必然性を持つオイディプスを的愛を挿入するかということだった」と語る。一方、弾圧を逃れて数多くの知識人たちが国外に流出した。本作でカルメンの母親役を演じたチェンチューナ・ヴィラファーネも国を離れたひとりである。その後、1983年に新生民主政権が誕生し、続くメネム政権でアルゼンチンは国際的信用も回復した。


■DATA

サン・セバスチャン国際映画祭出品作品
ハバナ国際映画祭2001正式出品作品
リオ・デ・ジャネイロ国際映画祭2002正式出品作品
ベローナ・ラブ・スクリーンズ・フィルム・フェスティバル2002最優秀作品賞ノミネートアルゼンチン映画批評家協会賞2003/助演女優賞ノミネート


原題:vidas privadas
2001年/アルゼンチン+スペイン/105分
配給:アット エンタテインメント
後援:アルゼンチン大使館、スペイン大使館

監督・製作総指揮・音楽・脚本:フィト・パエス
出演:セシリア・ロス/ガエル・ガルシア・ベルナル/ルイス・シエンブロウスキー


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