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2006年04月27日
リアリティー・ショウもといリアリティー・CMで、ハリウッド・ドリームを掴め!
先日、 スティーヴン・スピルバーグが、明日の映画監督を育てるリアリティー・ショウへの出演を発表した。視聴者ドリーマーの支援に立ち上がった巨匠のニュースは、映画業界を志す者たちを大いに喜ばせた。そして今、コマーシャル業界にも視聴者発掘ブームの波が押し寄せている。カード会社アメリカン・エキスプレスが、TVなどで放送予定のコマーシャル原稿を、一般から公募している。先月25日から開催中のトライベッカ映画祭とタイアップして行われているこのコンペでは、『マイライフ マイカード』というキャッチフレーズを用いた15秒のCM用クリップを募集。日本でも、渡辺謙の出演でおなじみのあのシリーズに、あなたのアイディアが採用されるのだ。
応募者は、『私の人生』をテーマに映像化したクリップをインターネット経由で投稿する。これまでに送られてきた作品の一部は、同社ウェブサイトで公開されているのだが、これらのレベルの高いこと。かなりのカットで編集された力作や、複数のロケ地で撮影されたもの、衣装や音楽にこだわりのあるものや、手の込んだCG、アニメーション作品まで。ホームビデオ風のほがらかクリップを想像していたら大間違い、度肝を抜かれるようなクオリティーが揃っているのだ。それもそのはず、審査に当たるのは、マーティン・スコセッシ(「アビエイター(04)」)、M・ナイト・シャマラン(「シックス・センス(99)」)というメジャー級の監督たち。最優秀作品の製作者は、映画祭にVIPとして招待され、作品は最終日のとりを飾るイベントでスクリーニングされる。加えて、賞金は1万5000ドル(約180万円)。その他、トップ100に入選した作品にもトライベッカから認定証が与えられ、映画界志望者にはまたとないチャンス。気合いが入るのは当然だ。
時を同じくして、アメックスの競合MasterCardも、コマーシャル用のコンペを開催している。こちらは映像ではなく、シナリオを重視した内容。もちろん、テーマは『プライスレス』だ。
今や世界で最も有名なコマーシャルとなったこのシリーズ、自由な課題を与えているアメックスと比べ、すでに出来上がっている映像クリップのオチを考えるというもので、かなりの難易度。応募者は、同社のサイトで公開されている2つの映像クリップから1つを選び、4段オチに挑戦する。1つは、広大な大地の真ん中で一人タイプライターを叩く男性。一つ、また一つ叩く度に表情を変える男性にどんどん値段がつけられていく。最後に、オートバイでさっそうと現れた美女に拾われ、風を切ってクルージングを楽しむ2人のカットで、おなじみ「プライスレス」のキャプションが出る。もう1つは、夕暮れの湖でボートを漕ぐ初老の男性が、クルーザーに乗った青年男性に手紙を差し出す。それを読んだ青年男性は思わず笑顔になり、湖へ勢いよく飛び込む。そして最後に「プライスレス」。2つの課題とも、応募者が「プライスレス」のストーリーを考える訳だが、これはなかなか難しい。
両社のCMキャンペーンは、視聴者参加型とはいえど、決してハードルは低くない。プロとして通用する才能を求めたレベルの高いコンペティションだ。腕試しをしたい方、本気を出して挑戦してみてはいかがだろうか。
アメリカン・エキスプレス『マイライフ マイカード』 締め切り:2006年4月27日(米時間)
http://clips.mylifemycard.com/index.html?src=preroll
マスター・カード『プライスレス アド』 締め切り:2006年5月28日(米時間)
http://www.priceless.com/promo/exclusives.html
TEXT BY 尾崎佳加
2006年04月20日
全部観るまで死ねない! 映画史上最も優れた「ホン」101選
帝国ハリウッドを支える脚本家によって成る、全米脚本家協会(WGA)が、最も優れた脚本を101本発表した。これまでの映画史上の並みいる名作の中から、堂々の1位に輝いたのはバーグマン&ボギーの元祖メロドラマ「カサブランカ(1942)」。その他、トップ10にランクインした「市民ケーン(1941)」(4位)、「イヴの総て(1950)」(5位)、「サンセット大通り(1950)」(7位)、「お熱いのがお好き(1959)」(9位)を見ても、往年の秀作が未だ強固な支持を得ていることがわかる。最も古い入選作は銀幕時代のヒットコメディー、「或る夜の出来事(1934)」(59位)だ。CGはおろか、表現の規制も厳しかった当時、いかに作品に深みを持たせるかは脚本家の力量にかかっていた。そんな時代の苦肉のたまものだから、今もなお評価が高いのは当然のことかもしれない。
どんな名作でも、最初はタダのセリフの羅列。
これが名作に化けるのがハリウッドマジックだ。
考えてみれば、脚本家は業界で最もアナログな職種だ。映画創世記から現在まで、大きな技術的変化は筆がパソコンに変わったくらい。つまりは、どんなテクノロジーをもってもごまかしがきかない仕事なのである。それが、黒沢明監督をはじめ、多くの巨匠をして「映画は脚本で決まる」と言わしめたゆえんだろう。
WGAのリストに挙げられた作品には、撮影技術に頼らずとも人を感動させる力がある。大型娯楽作も良いが、たまには純度の高い物語で心の洗濯をしたいものだ。
★最も優れた脚本101選 トップ10★
1位 「カサブランカ」(1942)
2位 「ゴッドファーザー」(1972)
3位 「チャイナタウン」(1974)
4位 「市民ケーン」(1941)
5位 「イヴの総て」(1950)
6位 「アニー・ホール」(1977)
7位 「サンセット大通り」(1950)
8位 「ネットワーク」(1976)
9位 「お熱いのがお好き」(1959)
10位 「ゴッドファーザー Part II」(1974)
全部観るまで死ねない!という方は、コチラで全作品をチェックしてみては?
http://www.wga.org/subpage_newsevents.aspx?id=1807
2006年04月14日
映画の予告編が劇場から消える? 「表現する」権利と「見ない」権利
映画の内容が過激なために、本編が上映中止になることは珍しくない。最近ではキリストの生涯を描いた「パッション」が、幾つかの劇場で観客のブーイングにより上映を取りやめている。しかし、予告編が上映中止になるというのははじめてのケースかもしれない。在りし日のワールドトレードセンター
この悲しくも雄雄しいドラマを再現した同作品の予告編を非難する観客は、被害者の遺族や関係者なのだろうか。作品の配給元ユニバーサル・ピクチャーズは、遺族から事実に基づく誠実な描写に感謝を示す手紙がいくつも寄せられたと語る。予告編を見せられて不快な思いをしているのは、どうやら一般の観客のようだ。
予告編が映画館によって上映中止されるケースは過去にもあり、観客の苦情で劇場にディスプレイされているポスターを撤去されたこともあるという。映画に限らず、テレビでもVチップの導入により、番組製作側がレイティングした番組を視聴者の意思で視聴する・しないを選ぶことができる。インターネットのサイトにもペアレント・コントロールを採用し、親が子どもに見て欲しくないコンテンツを表示しないよう設定できる時代だ。これらの精度が表現の自由を侵害しているという意見は少なくないが、視聴する側にも見たくないものを避ける権利は当然にある。
映画館の予告編の場合、観客はすでにスクリーンの前に座っているのだから、好ましくない映像を見せられても拒否することはできない。だからといって予告編の上映を中止するなら、予告編もレイティングで格付けし、制限の厳しい内容の作品は早めの時間に公開し、その後全ての観客用に向けた作品を上映するのはどうか。そうすれば、過激な表現の予告編は劇場から姿を消し、一方で、視聴に選択の自由がゆだねられているインターネット上では、自分の意思で選んだ人だけ見ることができる過激なバイラルCMがより盛んになるだろう。
2005年の「ミュンヘン」、「シリアナ」など、これまでの史実に基づいた惨事を描いた映画は他に多数ある。「ユナイテッド 93」が予告編の時点でこれほど非難を受けるのは、まださほどの時間が経っておらず、事件によってショックを受けた人々のトラウマが癒えていないことが一つの理由だろう。読者のみなさんの中にも、事件当日、米在住の知人の安否を気遣い国際電話をかけた方もいるかもしれない。
見ない自由は守られるべきだが、作品の品質を無視して劇場から予告編を葬ることはあまりにも悲しい。関係者には、映画が表現の自由を約束されている芸術作品であることを改めて確認し、表現者と観客双方の権利が守られるような良案を求めたい。
2006年04月07日
RENTからOWNへ メジャー作品のオンライン販売、VODの救世主なるか?
海賊版などの著作権問題に対応するために開始され、飛躍的に普及した映画のオンライン配信サービスがさらに一歩前進する。配信サービス大手Movielinkは、今週から「ブロークバック・マウンテン」、「キング・コング」など、2005年の話題をさらったメジャー作品のオンライン販売を開始した。最新のヒット作品がDVDと同時期にオンラインに出回ることは、従来の配信サービスではありえなかった試みである。この新サービスに乗り出したMovielinkは、ワーナー・ブラザーズ、ユニバーサル・ピクチャーズ、ソニー・ピクチャーズ、パラマウント・ピクチャーズ、21世紀フォックス、MGMら大手スタジオらが共同で運営するVOD(ビデオ・オン・デマンド)サイト。デジタル・ハリウッド業界をリードする同社に続き、競合会社Cinemanowもライオンズゲートや独立系映画スタジオとタッグを組み、同内容のサービスを検討している。これでウォルト・ディズニー以外、全ての大手スタジオのオンライン参戦が明らかになった。
これまでの配信サービスは、いわゆるペイ・パー・ビュー方式で、PCに作品をダウンロードしてから24時間以内と鑑賞期間が制限されていた。一方、販売サービスでは文字通り、視聴者は購入した作品を保存し、無期限で何度でも鑑賞することができるようになる。しかし、配信サービスが新作1本4~5ドルだったのに対し、販売サービスでは20~30ドルとDVDよりも高めの価格が設定されている。自宅PCで購入した場合の手軽さとスピードに対する付加価値なのかもしれないが、ダウンロードに要する時間はブロードバンド接続でも1~2時間。DVD版にあるようなスペシャル・フィーチャーも含まず、作品のみの単価にしては高すぎるという声が早くも囁かれている。
販売サービスは、どうせ違法でダウンロードされるんだし~という開き直った価格帯以外にも、まだ多くの難を残している。購入した作品はPC以外のAV機器で鑑賞することができないのだ。バックアップ用にDVDへ書き込むことは可能だが、特殊なコピー防止信号が刻まれるため他のDVDプレイヤーでの再生は不可になる。マイクロソフト社のメディアセンターPC利用者ならTVと接続してストリームすることが可能だが、一般のユーザーはPCで我慢ね、というのが当サービスの現状だ。
違法コピー問題に対処した新サービスをうたっているにしては、ユーザーのメリットが少なすぎるのではないか。違法コピー作品は、画質が低クオリティーの場合が多く当たり外れもあるが、ほとんどのメジャー作品はDVD販売と同時にファイル交換ソフト上に出回っている。もちろん、コピーもできるしDVDプレイヤーでの再生も可能だ。違法ダウンロードユーザーには最高15万ドルの罰金が課せられるが、宝くじに当たるほどの確率では、違法コピー歯止めにならない。まじめに合法購入を考えるユーザーが損をするような内容に残された課題は多い。