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2006年06月30日
超私的! fromハリウッド連載感謝記念「MYベスト&ワースト」
突然ですが、私尾崎佳加は、今号をもちましてfromハリウッドのコラムを引退することになりました。長いようで短かった二年半。総集編を兼ねまして、こんな私のあんな発言やそんな暴言に私的に思いをはせてみました。まずはこれまでの暴言暴走の反省も込めつつ、でもちょっと自賛しながら毒舌ぶりを回想。いっぱしに宗教風刺をやってみたり、ネタ切れに喘ぐハリウッドを斬ったり、聞いていてこっ恥ずかしくなるような「クサイ」セリフを我流にもっと恥ずかしく翻訳してみたり…。昨年は新年早々、アメリカの人気辛口番組に便乗し、さらに過激な脚色で暴走いたしました。これらの失言は密かに心の師と仰いでいたMr.ブラックウェルの影響だと思われます。一つ言い訳させていただけるなら、風刺は愛情があるからこそできるのであって…。ともあれ、編集のみなさまには度々ご迷惑をおかけしました…。
振り返れば、fromハリウッドの現地取材では、実に色んなことに挑戦させていただきました。セレブに人気のスポットや、映画ロケ地巡りはもちろんのこと、いきあたりばったりで無謀な企画も多々ありました。ガチで偶然スターに出会いに行った時など、本当に大物スターが現れてくれたから成り立ったようなもので、今思ってもヒヤヒヤです。スターの名前がつけられた土地を発見すれば、数十マイル飛ばして激写しにも行きました。ハリウッド大通りで映画にゆかりのあるスポットを探し出す企画では、誰に頼まれたわけでもないのに、7マイル(約10キロ)にわたって端から端まで、文字通りしらみつぶしの取材に挑んだり…。ばかばかしい企画ほど、やり終えたときは妙に達成感がありました。
めずらしく教育的な内容では、ハリウッド以前の映画の歩みに触れてみたり、白熱する米大統領選に言及したり、津波災害、アフリカの貧困救済活動に精を出すセレブリティーのチャリティー活動に焦点を当てました。これらは時にはお堅い話で読みづらい節もありましたが、映画ライターのはしくれとして、伝えるべきと判断してのことです。
映画は単なる芸術ではなく、時代が抱える社会を浮き彫りにする教科書でもあります。それが、私が映画に惹かれる第一の理由でした。ハリウッドで映画を追えば、必然的に、人種問題、同性愛問題など、アメリカが抱える様々な歴史の副産物に触れます。真っ向から向き合うと痛みを伴う問題を、面白ろおかしくパロディーにして再考を訴える映画は、時に直接的なメッセージよりも人々の心に染み渡りやすいものです。
最後になりましたが、長期にわたり、応援くださった皆様に心から感謝いたします。来週からは新しいコラムニストが私とは一味も二味も違う弁舌を奮ってくれる予定ですので、引き続きご愛読をお願いいたします。
それでは皆さま、果てしなくお元気で…。
TEXT BY 尾崎佳加
2006年06月22日
ただのロマンスじゃもの足りない 萌えーるような#$%が欲しい!
ここ数年、ハリウッドでロマンス作品の打率が伸び悩んでいるらしい。映画の興行成績ランキングを発表するMOJOのデータによると、過去最高のヒットを放ったラブ・ストーリーは97年の「タイタニック」。米国内の観客動員数は600,788,188ドルで、全世界でも未だ映画史上最高の興行成績(1,845,034,188ドル)を保持し続けている。だが、映画界全ジャンルのトップに君臨するジャンルは、その後は全くといって良いほどヒットに恵まれていない。
MOJOの米国内の観客動員数トップリストをみると、2006年は「Xメン」(217,963,855ドル)、「ダ・ヴィンチ・コード」(200,127,912ドル)、「アイス・エイジ」(192,934,814ドル)の3作品が健闘。その中でロマンス作品は、「レイク・ハウス(原題)」がわずか17,321,697ドルの売り上げで、文字通り、ケタが違う。2005年は「スター・ウォーズ エピソード3」が380,270,577ドル、「ナルニア国物語」が291,710,957ドル、「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」が290,013,036ドルを売り上げ、ファンタジーやSF大作がヒットを放つも、これらと比較できる成績を記録する純愛映画はなかった。「タイタニック」以前にヒットしたロマンス映画では、90年の「ゴースト」(217,631,306ドル)までさかのぼる。この間、膨大な数の恋愛ものが世に放たれていたにもかかわらず、だ。
考えてみれば、他のジャンルと比べ、ラブ・ストーリーほどあらすじにインパクトのないものはない。身分違いの恋をした男女が駆け落ちする物語も、突然の事故で離れ離れになってもなお思い続ける恋人たちの物語も、その過程がどれほど素晴らしく、他に類をみない展開であっても、あらすじを読む限りはその他大勢の純愛ものとさほど変わりがない。
だが、アクションはたとえ内容がおざなりでも、映像やスペクタクルを楽しめれば良いという観客はいる。ホラー作品も然りで、たとえラストが「おい!」とつっこみたくなるようなお粗末なものでも、一瞬一瞬をドキドキハラハラさせてくれれば良しと、比較的寛容な心で鑑賞できるものである。その点、ラブ・ストーリーはプロットが全てである。毎度毎度、同じような展開では飽きてしまうのだ。
だが、恋愛というジャンルがまるでダメというわけでは決してない。ロマンティック・コメディー(ラブコメ)は依然好調な成績だ。ジェニファー・アニストン&ヴィンス・ボーンが共演する「ザ・ブレイク・アップ」はゴシップ効果も手伝い、公開して間もないながら94,935,385ドルと快調な数字を打ち出し、早くも今年の売り上げ第7位に躍り出た。2005年は「最後の恋のはじめ方」が179,495,555ドルで11位にランク入りし、ラブコメとしては異例の数字をはじき出している。「Mr.& Mrs.スミス」や「ウェディング・クラッシャー(原題)」のヒットを見ても、ロマンス+α作品は根強い人気があるのは確かである。
では、純粋なラブ・ストーリーは、なぜ話題を呼ばないのかというと、日本が純愛ブームに沸く中、アメリカではより娯楽性の高い作品が求められるからだろう。思えば「タイタニック」のヒットも、豪華客船の沈没というスペクタクルがあったからこそ成り立った。昨年のオスカー最多受賞作品「ブロークバック・マウンテン」は、田舎ものの純愛映画という、聞いただけではたいくつ極まりないプロットにも関わらず83,043,761ドルの興行成績を収めている。これも、同性愛というスパイスがあったから話題になったことは否めない。アメリカのカウボーイとカントリーガールの純愛では、この半数も集客できなかっただろう。
結局、ロマンス映画のヒットは結果論なのかもしれない。ロマンスだけではもの足りない。愛する人を殺めなければならない心の葛藤でも良い。恋人が暗黒組織のドンでも良いじゃないか。現代人は、純愛に、萌えーるような+αを求めている。
TEXT BY 尾崎佳加
2006年06月16日
MTV ムービー・アワード 日本未公開の爆笑2作品が接戦
先週8日、音楽チャンネルMTVが「MTV ムービー・アワード」を発表した。MTVは今や、音楽よりも、カートゥーンやコメディー番組などが若者に絶大な人気を得ている、実質エンタメ総合チャンネルである。今年MTVが注目したのは日本未公開の作品、「ウェディング・クラッシャー(原題)」、「40イヤー・オールド・バージン(原題)」。どちらも、ひたむきにオバカ一直線の爆笑コメディーだ。アメリカでは男子からの支持が圧倒的といえば、内容に察しがつくだろうか。
「ウェディング~」はオーエン・ウィルソン&ヴィンス・ボーン演じる悪友コンビが、見知らぬ富豪の結婚式に紛れ込み(大人数だからバレない)、堂々と談笑、飲み食いしたあげく好みの女性をナンパしまくる「結婚式荒らし」のお話。
また、「40イヤー~」はタイトルどおり、40歳にして童貞ということが発覚したまじめ男(スティーヴ・カレル)にバージンを捨てさせるため、同僚が冷やかし混じりにロストバージンの手ほどきをする遅咲き青春コメディーだ。両作品とも「アメリカン・パイ」を思わせる下ネタがモリモリ盛り込まれており、失笑から爆笑まで笑いの連続である。日本公開未定なのが実に惜しい作品だ。
(※「40イヤー・オールド・バージン(原題)」の邦題は「40歳の童貞男」に決定。9月ロードショー予定。)
そして2006年のMTVベストムービー賞は、「ウェディング・クラッシャー(原題)」に輝いた。「バットマン・ビギンズ」、「シン・シティ」、「キングコング」ら大作を押しのけて堂々の受賞である(もちろん「40イヤー~」もノミネート入り)。「ウェディング~」は他にもチーム演技賞(ウィルソン&ボーン)とぶっとび演技賞(アイラ・フィッシャー)を受賞している。また、多くの部門にノミネート入りしていた「40イヤー~」は、ベスト・パフォーマンス賞がバージン男(本人がではない、たぶん)のスティーヴ・カレルに送られた。
MTVならではのユニークな賞では、昨年劇場、ゴシップ紙ともに賑わせた「Mr.& Mrs.スミス」のアンジェリーナ・ジョリー&ブラッド・ピットがベスト・ファイト賞を獲得。ベスト・キス賞は、流行語まで生まれた問題作「ブロークバック・マウンテン」のジェイク・ギレンホール&ヒース・レジャーが持ち帰った。
MTVムービー・アワードはまた、授賞式の派手なパフォーマンスでも人気。今年は同セクシー・パフォーマンス賞に輝いたジェシカ・アルバ(「シン・シティ」)司会のもと、錚々たるセレブが出席。MTV世代の観客が見守る中、受賞者たちのスピーチもくだけたもので、アカデミー賞の比にならない拍手や声援が鳴り響いた。
★MTVムービー・アワード 2006 受賞リスト
ベスト・ムービー:「ウェディング・クラッシャー(原題)」
ベスト・パフォーマンス:ジェイク・ギレンホール(「ブロークバック・マウンテン」)
ベスト・パフォーマンス(コメディー部門):スティーヴ・カレル(「40イヤー・オールド・バージン(原題)」)
ベスト・オンスクリーン・チーム:ヴィンス・ボーン&オーウェン・ウィルソン
(「ウェディング・クラッシャー(原題)」)
ベスト・ヒーロー:クリスチャン・ベイル(「バットマン・ビギンズ」)
ベスト悪役:ヘイデン・クリステンセン(「スター・ウォーズ エピソードIII」)
ブレイクスルー・パフォーマンス:アイラ・フィッシャー(「ウェディング・クラッシャー(原題)」)
セクシー・パフォーマンス:ジェシカ・アルバ(「シン・シティ」)
ベスト・ファイト:アンジェリーナ・ジョリー&ブラッド・ピット(「Mr.& Mrs.スミス」)
ベスト・キス:ジェイク・ギレンホール&ヒース・レジャー(「ブロークバック・マウンテン」)
ベスト・ホラー・パフォーマンス:ジェニファー・カーペンター(「エミリー・ローズ」)
TEXT BY 尾崎佳加
2006年06月09日
シアターだけが映画館じゃない! 夏休み ―どこでも映画鑑賞ガイド―
梅雨入り前の日本に悪い気がしつつ、夏まで秒読みのロサンゼルス。乾いた空気に潤いを求め、ビーチ人口は増える一方だが、海へのお出かけだけがカリフォルニアの夏ではない。映画の都、エンタメ天国のハリウッドが、この祭りの季節に大人しくしているはずがない。今年は何をやらかすかと楽しみにしていたところ、やはりいくつかのお騒がせ団体が出動しはじめた模様である。
怪奇!? 週末ごとに人が押し寄せる墓地
まず、ここ最近、夜な夜な人が集まってくるようになったハリウッド・フォーエバー・セメタリー(連載223)。映画界に貢献した人々が眠るこの墓地で、いったい何の儀式があるのかと調べたところ、なんと人々がブランケット持参で楽しくピクニックをしているではないか!(叫ぶところ)
この墓地は、日本のようにおどろおどろしい雰囲気はなく、どちらかというと楽園をイメージした緑あふれる公園といった感じ。普段から、散歩がてらに往年のスターのお参りに来る人が絶えないのだが、夏になると、土曜日限定の野外映画鑑賞会を開催しているというのが怪奇現象(?)のからくりだった。作品は週代わりにスケジュールが組まれ、今週末はなつかしの名作「フィラデルフィア物語(40)」を上映する予定だ。
いつ見てもド迫力の巨大移動シアター
昨年、やはり夏休みに紹介した巨大移動シアターのアラモ(連載272)だが、今年もテキサスを中心にツアーで大忙しである。こちらの参加者は、野外鑑賞の楽しみ方を極めたつわものぞろい。食事や飲み物の持ち込みはもちろんのこと、約2時間のひと時のためにくつろぎのスペースをこしらえるその姿はさながらペンギンの縄張り争いである。過去にはソファーを持ち込んで鑑賞したグループもいたそうで、面倒くさそうだが、ちょっと真似してみたいおバカである。
週末の夜は、映画+ディナー
アラモが場所やスタイルにこだわらない自由な映画鑑賞の場である一方で、「映画はこう観ろ!」といわんばかりにトータルプロデュースをするレストランがある。ハリウッドにあるシネスペースは、週末(木金土)の夜限定でレストランがセレクトする映画を上映し、ディナーのフルコースを楽しんでもらおうというイベントを通年で開催している。上映スケジュールはほぼ週代わりだが、だいたいがインディーズ映画や、他では観られないレアな作品。映画ディナーのない日も、積極的に新人作品を上映し、多くの自主制作映画をバックアップする登竜門的な存在である。
映画館で観る阿呆に外で観る阿呆。どちらがソンソンかは別として、カウチポテトを自負する人は、たまには外で鑑賞して気分を変えてみるのも良いだろう。
シネスピア cinespia (夏季限定)
開催場所: ハリウッド・フォーエバー・セメタリー
問い合わせ: info@cinespia.org
URL: http://www.cinespia.org/
アラモ Alamo (テキサス内は通年)
問合せ: (512) 407-9531
URL: http://www.originalalamo.com/rrs/frames.asp
シネスペース CineSpace (通年)
住所: 6356 Hollywood Blvd. Hollywood, CA 90028
問い合わせ: (323) 817-3456
URL: http://www.cinespace.info/
TEXT BY 尾崎佳加
2006年06月02日
「アメリカン・アイドル」シーズン5 番組史上最年長のアイドルが誕生
先週、全米で驚異的な人気のスター発掘番組「アメリカン・アイドル」の最終選考が行われた。アメリカが沸きに沸く中、第5シーズン目のアイドルに選ばれたのはテイラー・ヒックス。オフィシャルサイトをご覧になれば分かる通り、一瞬「あいどる?」と首をかしげる風貌である。番組を見ていない人は、なんでこんなおじさんがアイドルなんだと思うだろう。意外にも彼は、老け顔の若白毛らしく、年齢は応募資格年齢ギリギリの29歳だ。番組史上最年長のアイドルの誕生を困惑気味に報じるメディアも少なくない。だがテイラーは全米が選び出した正真正銘のアイドルなのだ。
2002年にスタートした「アメリカン・アイドル」は、シーズンを改めるごとに人気を高めている。地区予選までは審査員による選考も、最終ステージでは視聴者の人気投票に切り替わる。日本のアイドルと違い、ルックスは二の次で歌唱力のみを評価された選りすぐりのファイナリストたちは、全米が見守る多大なプレッシャーの中で最高のパフォーマンスを要求される。緊張で普段の実力が発揮できなければ、辛口審査員から容赦ない酷評を浴びせられる。ルックスを重視しないのは公平を期すためではなく、並々ならぬ精神力が試されるステージでは、見た目の「かわいさ」や「かっこよさ」はどうでも良くなってくるのだ。どちらかというと深夜のトークショーの司会者向きであるテイラーが勝者となったのは、圧倒的な歌唱力と度胸が評価された結果である。
しかし、番組の頂点を極めたからと言って、必ずしも彼らの成功が約束されたわけではない。歴代のアイドルを振り返ると、現在も売れているのはケリー・クラークソン(第1回目のアイドル)か、ルーベン・スタッダード(第2回)くらいではないだろうか。キャリー・アンダーウッド(第4回)の人気は、まだデビュー間もないこともあり何とも言えない。ファンタジア・バリノ(第3回)に関しては殆ど目立った活動がなく、「あの人は、今」的な番組で特集しても良いくらいだ。
逆に、アイドルに選ばれなかったパフォーマーが売れるケースもある。第2シーズン目の最終選考に残ったクレイ・エイケンはヒット曲を引っさげて全米ツアーも行うほどの活躍ぶりだ。違う意味でアイドルなウィリアム・ハン君のようなお宝を発掘することもまた、番組の魅力の一つである。
最新シーズンの王者となったテイラーは、今後しばらく各番組に出演した後、正式なデビューとなる予定。また、最終戦で惜しくもテイラーに敗れたキャサリン・マクフィーも、ルックスの良さからして歌手デビューは間違いなし。番組を巣立ったアイドルたちが、今後も人気を落とさず活動を続けることを祈りたい。
TEXT BY 尾崎佳加