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2006年11月30日

ハリウッドから全米へ… “N-word”事件

現在、アメリカでは、ある事件の話題で持ちきりです。2週間ほど前にウエスト・ハリウッドのスタンダップ・コメディ劇場で起こった、あるコメディアンの人種差別的発言。以来、様々な人々を巻き込み、大きく膨らむ一方のこの事件ですが、日本では殆ど報道されていません。そこで今回は、この事件の全容と現在までの経緯をレポートしてみたいと思います。

事の始まりは去る11月17日、サンセット大通りにある老舗スタンダップ・コメディ劇場”The Laugh Factory”で勃発。当日舞台に立っていた、人気TVシリーズ、”Seinfeld”のクレイマー役でお馴染みのコメディアン、マイケル・リチャード氏が、彼の公演中に”N-word”、いわゆる「ニガー」という言葉を何度も発言。それに腹を立てて文句を言った黒人の観客2人組に対してマイケルは更に、黒人に対するリンチをほのめかすような発言を、あまりに低俗な言葉とともに浴びせかけました。マイケルと客2人、三者の罵り合いは、マイケルが舞台を去るまで続けられ、多くの観客達は席を立ってしまったとのこと。そして、そこに居合わせた観客が携帯電話のビデオで撮影した模様が、TMZ.comというインターネットサイトに掲載され、この事件が明るみに出ることになりました。

この騒ぎを受けて”The Laugh Factory”は翌日、今後はマイケルを舞台に迎えないと発表。11月20日には、人気トーク番組”Late Show with David Letterman”にマイケル本人が出演し、カメラの前で深く謝罪しました。「私は人種差別主義者ではなく、ただ純粋な怒りにまかせた愚かな発言だった」との弁でしたが、当の二人はこの謝罪を一切受け入れず、現在では法的措置に踏み切る構えだそうです。その後、マイケルは今年4月にも、舞台上でのユダヤ人に対する人種差別的発言をしていたことも暴露されました。氏の代理人は「彼にはとても重要なユダヤ人の恩師が数人おり、彼はユダヤ哲学を崇拝している」と弁護に必死ですが、事態は色々なところに飛び火して、当分収拾がつきそうにありません。

この事件に対して公民権活動家や各黒人団体もすぐさま猛反発し、相次いで遺憾・憤慨のコメントを発表。多方面からマイケルに対する非難の声が上がっています。元来、この”N-word”は黒人英語としては今日でも多く使われ、ラッパー達によるHip-Hop音楽やポップミュージックにも多数登場します。ただ、あくまで黒人同士というのが前提であって、他の人種が使う言葉としてはみなされていないのです。

このところ、ラジオやテレビ番組ではとにかくこの話題で持ちきり。言語学者やアフリカン・アメリカン学研究家に”N-word”の詳しい由来を聞きに行ったり、アメリカで最も古く、そして影響力があるとされる公民権運動組織NAACP(National Association for the Advancement of Colored People: 全国有色人種地位向上委員会)による”N-word”撲滅運動・”Just Say ‘No’ to the N-word”キャンペーンに署名が集められるなど、日に日にその報道には拍車がかかっています。これに対して、公民権活動組織Community Advocates Inc. の副社長であり、当人も黒人であるジョー・ヒックス氏は「連日の加熱し過ぎた報道はあまりに馬鹿げている」とコメント。「”N-word”はあくまでブラック・コミュニティーで使われている言葉であり、確かに公の場で使われるべきものではない。しかし、黒人団体も無理やり現代の都市文化を変えようとするべきではない」と、行き過ぎとも取れる活動に対し、強く非難しています。

日本でも、外国人移住者や国際結婚が増えていますが、肌の色の違いがほとんど無い単一民族国家では、なかなか実感できない出来事が今回の”N-word”事件だと思います。今後は、この事件がどのような方向に向かうのか、本当に”N-word”を口にする人々がいなくなるのか、そして我々も含めた他人種が、この事件から何を学ぶのか。今後も目が離せない事件です。


TEXT BY アベマリコ

投稿者 eigafan : 21:12 | トラックバック

2006年11月24日

Happy Thanksgiving! 映画で見る感謝祭

アメリカの11月・第4木曜日は”Thanksgiving Day”=「感謝祭」。今年は11月23日がその日となっています。ハロウィンとクリスマスに挟まれたこの祝日、アメリカの各家庭ではかなり盛大にお祝いします。お父さんや男の子達はテレビの前でNFLの試合に夢中になり、女性陣は朝からまるごと一匹の七面鳥に詰め物をして丸焼きにし、それにグレービー・ソースとクランベリー・ソースを添えて家族全員でいただく特別な休日。他にも、マッシュドポテトや温野菜、パンプキンパイやアップルパイなどで食卓が彩られる、日本で言うお盆やお正月のような、家族で過ごす一日となっています。


サンクスギビングを前にした花屋さん
日本ではあまり馴染みのないThanksgiving Dayですが、実は様々な映画の中に登場します。家族・親戚が一挙に集まる一日だけあって、家族愛がテーマになっている作品が多いようです。異文化を学ぶには、映画は最高の教科書のひとつ。今回は、そんな感謝祭の様子が出てくる映画をご紹介します。

まずは、ウディ・アレン監督の”Hannah and Her Sisters (1986)” (邦題:ハンナとその姉妹)。感謝祭に3姉妹が自分の彼氏や旦那様を連れて集まり、楽しいひとときを過ごすはずが、突然そこに「おかしな関係」が生まれることに。ハイピッチでシニカルな会話と心地よい音楽で、各々の問題を抱えたキャラクター達と彼らの人生が綴られた作品。

次は、ホーム・アローンシリーズでお馴染みのジョン・ヒューズ監督による”Planes, Trains & Automobiles (1987)” (邦題:大災難 P.T.A)。スティーブ・マーティン扮するニールは、感謝祭に実家に帰るはずが、悪天候の為にフライトがキャンセル。おまけに、居合わせたお喋りな乗客に悩まされることに。ニールは無事に家に辿り着けるのか?コメディの傑作とも言えるこの作品の邦題にはちょっとビックリしましたが、P.T.A.とは原題の頭文字のよう。

“Home for the Holiday (1995)” (邦題:ホーム・フォー・ザ・ホリディ / 家に帰ろう)は、ジョディー・フォスターの「リトル・マン・テイト(1991)」に続く映画監督第2作。ワガママ邦題の娘や家族に振り回されつつ、自分の人生を見つめる女性を描いた、ホリー・ハンターとロバート・ダウニー・Jrが主演するラブコメディ。

そして、昨年「ブロークバック・マウンテン」でアカデミー最優秀監督賞に輝いたアン・リー監督の”The Ice Storm (1997)” (邦題:アイス・ストーム)は、1973年のアメリカの片田舎を舞台にした、感謝祭後に起こる家族崩壊を描いた物語。シガニー・ウィーバーなどのベテラン俳優や、現在大活躍のイライジャ・ウッド、クリスティーナ・リッチ、トビー・マグワイアなどの若手陣、先日イタリアでトム・クルーズと挙式を行ったニュースで持ちきりの、ケイティ・ホームズが出演。


どこもかしこもターキーの広告ばかり
最後に、「ギルバート・グレイプ(1993)」の原作・脚本家としても知られるピーター・ヘッジ監督初作品の”Pieces of April (2003)” (邦題:エイプリルの七面鳥)。またもやこちらでも、花嫁になりたてホヤホヤのケイティ・ホームズが主演。生まれてこのかた料理をしたことが無いエイプリルが、オーブンの故障にもめげず家族に感謝祭のディナーを作ろうと奮闘する、心温まるコメディドラマ。ケイティ・ホームズのパンク姿も見もの。

このシーズンになると、周りの人々に帰省の話題がチラホラと出始め、「外国人」である筆者などはちょっぴりホームシックになってしまいがち。ですが、そんな家族から離れている人々が集まってのホームパーティーや、木曜から週末にかけての「秋休み」とでも呼びたくなるような大型連休、感謝祭の翌日にある大バーゲンなど、アメリカ人だけでなく、我々にとってもちょっとウキウキしてしまう時期でもあるのです。日本には無いThanksgiving Day、これらの映画に登場する美味しそうなご馳走とともに、映画を通して雰囲気だけでも味わってみてはいかがでしょうか。


TEXT BY アベマリコ

投稿者 eigafan : 16:56 | トラックバック

2006年11月09日

オスカー前哨戦?AFI FEST 2006が開催中

11月1日より、このコラムでもすっかりお馴染みとなったハリウッドにある総合映画館「ArcLight」において、本年度で20回目を迎える”AFI Los Angeles International Film Festival” が開催中です。この映画祭は毎年、年末のオスカーシーズン到来と時期を同じくして行われる、ロサンゼルスの一大イベントとなっています。アメリカ作品のプレミアにとどまらず、海外からの上質な作品を数多く上映することでも有名。過去にさかのぼると、昨年のアカデミー賞で最優秀外国作品賞に選ばれた、イギリス・南アフリカ合作の”Tsotsi (2005)” (日本未公開)、ブラジルからのパワフルな衝撃作”City of God (2002)” (邦題:シティ・オブ・ゴッド)、スペインを舞台に綴られた感動作”The Sea Inside (2004)” (邦題:海を飛ぶ夢)、すでにイタリアの代表作のひとつとも言える”Life is Beautiful (1997)” (邦題:ライフ・イズ・ビューティフル)などが上映されています。数々の名作を上映し続けているこの映画祭、11月12日までの開催となっています。

AFIとは、American Film Instituteの略。米国でも有名なフィルムスクールです。監督・撮影監督・プロデューサー・脚本などの各学科は、映画学科で有名な他の大学にも引けをとらない程のクオリティで知られています。一番有名な卒業生は、日本でも大ヒットしたTVシリーズ「ツイン・ピークス」の奇才デビット・リンチ監督。また、若き映画制作者達の育成のみならず、古い映画の劣化してしまったフィルム・ストックの保存や、本イベントを含めた各映画祭の開催など、幅広い意味でアメリカの映像文化を保存・向上させていくことを目的としています。

本年度は、3500本以上ものエントリーから選び抜かれた147作品の上映を予定。オープニング・ナイトには、俳優・監督・脚本家・プロデューサーと多岐に渡って活躍するエミリオ・エステベス監督の最新作”Bobby”がプレミア上映されました。JFKの実弟、ロバート・F・ケネディの暗殺事件を描いたこの作品、驚かされるのがその豪華キャスト。監督ご本人はもちろん、大ベテランのアンソニー・ホプキンスやヘレン・ハント、ウィリアム・H・メイシーに始まり、ローレンス・フィッシュバーン、ヘザー・グラハム、アシュトン・クッチャー&デミ・ムーア夫妻、イライジャ・ウッド、そして日本の女性にも人気のあるリンジー・ローハンまで。こんな豪華競演だけでも、映画館に足を運ぶ価値がありそうです。

また、例年通り海外からの作品も目白押し。アメリカ国外の人々がどのように生活し、愛し合い、生き抜くのかをフィクション・ノンフィクションの両方で見られる絶好の機会となっています。また、アフリカ・南米・アジア・中東・ヨーロッパ。まさに世界中から集められた、選りすぐりの作品達も一挙に上映されます。気になる日本からの出品は、ご存知堤幸彦監督・渡辺謙主演の「明日の記憶」(洋題:”Memories of Tomorrow”)。若年性アルツハイマーを題材とした、日本の家族の物語がエントリーしました。アメリカでも知名度の高い渡辺謙の熱演と、樋口可南子演じる芯の強い日本の女性像、そして堤監督の独特な映像美に注目が集まりそうです。

普段はなかなかお目にかかれない、チュニジア・エジプト・デンマーク・ハンガリーからの出品も予定されているこの映画祭。12日間の間に、どれだけの観客が映画と世界中の文化に触れることになるのでしょうか。また、この中から本年度のアカデミー賞優秀外国作品賞にノミネートされる作品もあるはず。去年のように、最優秀外国作品賞をさらう1本もあるかもしれません。詳しい作品リストとラインナップは、本映画祭のホームページにてじっくりとご覧下さい。

AFI Fest 2006 作品・ラインナップ


TEXT BY アベマリコ

投稿者 eigafan : 21:59 | トラックバック

2006年11月02日

“Trick or Treat!!” ハロウィンとハリウッドの美味しい関係

10月31日はハロウィン。アメリカでは、毎年このお祭りが盛大に行われます。街中がオレンジと黒で飾られるこのシーズン、各家庭の庭先には死神やガイコツ・クモの巣・死体(!)の原寸大フィギュアがデコレーションされ、店頭には大小様々のカボチャやお菓子の詰まったバッグが並び、スーパーマーケットでは小さな子供が母親にキャンディをねだる微笑ましい姿が見られます。昔は子供達の為のお祭りとして賑わっていたこのイベント、近年ではティーンや大人までもが楽しむようになってきている模様。そんな風潮のもと、このお祭りによってニンマリしている企業のひとつが、どうやらハリウッドのスタジオのようなのです。
ハロウィンは今後$5billion(1billion=10億)産業になると言われていています。数十年前と比べると、300%以上のアップ。国内の統計によると$4.96billionもの売り上げが見込まれており、平均してひとり$59.06(日本円で¥7000余り)消費する計算になるといいます。これはちょっと尋常ではない金額。かつてはキッズのお祭りだったのが、最近ではどんどん参加者の年齢層があがっており、ハロウィンを何らかの形で祝うと答えた18-24歳は85.3%、25-34歳は76.5%、35-44歳では71.3%にも上っています。

さて、一体どうしてハリウッドが「美味しい」思いをしているのかと言うと…。この大ブームに乗って、コスチューム会社とハリウッドの各スタジオがコラボレーションを開始したのです。ライセンス契約をもとに、映画やテレビのキャラクター・コスチュームを大々的に製作。少し前まではオバケが中心だったハロウィンも、スパイダーマンからカリブの海賊まで色んなキャラクターが闊歩するようになりました。それまでキャラクターグッズといえば、おもちゃやTシャツ程度しか作っていなかったスタジオにとっては、思わぬ収入源になっています。こうしたハロウィンコスチュームの総売上の12%がライセンス費として入ってくるとあって、各スタジオの商品化競争は年々加熱しています。今日では家族揃って映画のキャラクターになりきるファミリーや、はたまたペットをキャラクター化していく消費者により、こんな物も!と驚くような、細部にまでこだわったグッズの商品化が続々と進められています。

パーティー・グッズのお店を覗くと、その豊富なデザインと種類にただただ圧倒されてしまいます。今年一番の人気コスチュームは、年齢を問わず海賊ものだそう。これはもちろん映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の影響。昨年は$13billionがスタジオ・コラボのコスチュームに費やされたそうで、その年の人気映画による影響がどれだけ強いかが良く分かります。もちろん、昔からあるプリンセスやマーメイド、ガイコツなどのデザインが根強い人気。ティーンには、黒ずくめのゴシック調コスチュームが好評となっているようです。$30程度のものから始まり、上は$80もする精巧な作りのコスチュームの売れ行きも好調で、人々の熱の入れようがうかがえます。

今年は平日の火曜日がハロウィンでしたが、それでもイベントは大盛況。様々なキャラクターに扮した子供達が母親の手を握って歩いていたり、キャンパスでは奇抜な衣装に身を包んだ学生達が闊歩していたり。教授陣までもが、授業の最後にキャンディを配ったりするのも毎年見られる光景となっています。また、毎年50万人以上が集うウェスト・ハリウッドのカーニバルには、相変わらず多くのクレイジーな?人々が押し寄せ、大渋滞を巻き起こしていました。

日本でもコスプレ・ブームがありましたが、こちらのハロウィンはとにかく目立つことが大好きなアメリカ人にとっては一大イベント。様々なグッズの商品化によって消費者のチョイスも増え、今後もますます大きく派手なイベントになっていくでしょう。映画ファンとしては、スタジオの活性化につながるといいな…なんてひっそり思ってしまいますが、とにかく今後も年に一度のお祭りとして、「Halloween」がどんどん盛り上がっていくのが楽しみです。


TEXT BY アベマリコ

投稿者 eigafan : 22:41 | トラックバック