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2007年01月25日

80年前のハリウッドスター「早川雪舟」<2>

ゴールデングローブ賞も終わり、後はアカデミー賞の発表を待つばかりのハリウッド。「硫黄島」や「バベル」のヒットで日本勢の活躍が期待される今年だが、今回は先々週に引き続き、今から90年前のハリウッドにタイムスリップしてみよう。日本人としてハリウッドの頂点を極めたスター、早川雪舟の物語、後編である。

さて、ひょんな事からハリウッドで映画スターとしてデビューすることになった雪舟。最初の映画「タイフーン」が大ヒットし、ハリウッドで順調なスタートを切った彼は、すかさず次の大波に乗る。映画の父としてハリウッド史上に燦然と輝く大監督、セシル・B・デミルから声がかかったのだ。そして出演したのが「チート」。無声映画時代の傑作として今も語り継がれているこの作品は、雪舟の代表作として、彼の人気を決定的なものにした。

この「チート」、雪舟が演じているのは意外なことに悪役だ。借金を抱えた上流階級の貴婦人にお金を貸した日本人大富豪、トリイ(雪舟)は、彼女に自分の愛人になる事を強要する。さらに、自分の女であることを示すために、彼女の肌に焼印を押してしまうという衝撃的な内容で、当時のアメリカに大きな波紋を投げかけた。何しろ時は20世紀初頭、今とは比べ物にならないほど人々がナイーブだった時代である。女性に焼印を押すなんて、これ以上ショッキングなシーンはありえなかった。

こんなオソロシイ映画の敵役なのだから、人々に嫌われても良さそうなものだが、あにはからんや、雪舟は全米女性の人気の的になってしまう。その東洋的なルックスのよさと、ちょっと悪のニオイのする雰囲気を持った彼は、冗談抜きに全米女性のアイドルになっていくのだった。主演する映画は次々大当たり、1920年代には、当時のトップスターだったチャップリンと人気を二分するところまで上り詰める。今のトム・クルーズやブラピも目じゃないほどのモテ方だったのだ。

当時のエピソードを一つ紹介しよう。プレミアのため、ハリウッドに今も残るエル・キャピタン劇場にやってきた雪舟。リムジンのドアを開けると歩道と車の間に水溜りが。すると、雪舟を目当てに集まっていたうら若きアメリカ人女性たちは、自分の着ていた毛皮を脱いで、水溜りの上に被せたという。優雅な微笑みを振りまきながら、戸惑いもせず毛皮の上を歩む雪舟。いまもハリウッドに伝えられる逸話である。そんな彼につけられたあだ名は聖林王。Holly=聖なるWood=森の王、つまりハリウッドの王様と言うわけだ。白黒映画時代の大スター、ハンフリー・ボガードは、まだ無名の頃にそんな雪舟を見て、いつかは俺もああなってやる、と心に誓ったと言う。

当時の雪舟がいかに凄かったかを物語る一枚の写真がある。1917年、ハリウッドに城が誕生し、ロサンゼルス住人の度肝を抜いた。雪舟が自分の住まいとしてハリウッドに建築した、ハヤカワキャッスルである(写真)。写真を見ても分かるとおり、まるで中世ヨーロッパのお城。今のセレブの豪邸なんて目じゃないのだ。雪舟はこの城で当時のハリウッド関係者を集め、パーティー三昧に耽っていたという。

この手の逸話はキリがない。ある日、撮影の息抜きにラスベガスでギャンブルに嵩じた彼は、総額100万ドル負けてしまった。100万ドルといったら今のお金でも一億円以上だが、何しろ今から80年くらい前の話。楽勝で30億円くらいにはなるだろう。しかし、この話のハイライトは金額の大きさではない。これだけのお金を一気に失ってしまったにも関わらず、ダンディーな雪舟は、ちょっと肩を竦めただけで、葉巻を咥えて悠然とカジノを去ったと言う。こういう話は全米に伝えられ、雪舟伝説はますます膨れ上がっていった。

やがて、絶頂を極めた彼の人生に翳が見え始める。時は第二次世界大戦前、日米関係は悪化の一途を辿り、カリフォルニアでは日本人排斥運動が起こる。それでも雪舟の世界への思いが衰える事はなかった。ハリウッドが駄目ならヨーロッパと、フランスに渡って舞台「バタイユ」をぶち上げ、パリっ子を熱狂の渦に巻き込んだかと思うと、今度はロンドンで「サムライ」というショーを行い、これまた大成功。世界を舞台に八面六臂の活躍を続ける。しかし、ヨーロッパもやがて戦場になっていき、雪舟は帰国を余儀なくされる。

そして日本の敗戦。すでに過去の人になったかに見えた雪舟は、焦土となった日本で静かに余生を送ろうとしていた。そんな彼の元に、一つのメッセージが届く。送り主は、当時のトップスター、ハンフリー・ボガード。無名時代に雪舟に憧れ、共演することを夢見ていたボガードは、押しも押されぬ大スターになった今、夢を叶えるべく雪舟に出演を依頼したのだ。かつての“ファン”ボガードの後押しにより「トーキョージョー」に出演、ハリウッドに返り咲く事になった雪舟。流れは再び彼に傾き、1957年、晩年の代表作となる「戦場に架ける橋」でイギリスの名優デヴィッド・ニブンと共演を果たし、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされる。68歳にして、再び銀幕の頂点に達したのだ。

三船敏郎、松田雄作、渡辺謙。戦後、多くの日本人俳優がハリウッドに挑戦し、そのうち何人かは大きな足跡を残している。しかし、かつてセッシュウ・ハヤカワが達した栄光の極みに達した人はいまだかつてひとりもいない。そして、そんな凄い日本人俳優がいたことを知る人も、もはや殆ど居なくなってしまった。

生前、成功の秘訣を聞かれた彼は、こんな言葉を残している。「人生で大事なのは、倒れない事ではない。何度倒れてもその度に立ち上がる事なんだ」


TEXT BY 岩下慶一

投稿者 eigafan : 16:44 | トラックバック

2007年01月18日

速報!第64回ゴールデン・グローブ賞 結果発表

去る1月15日、ビバリーヒルズに位置するビバリー・ヒルトンホテルで、第64回ゴールデン・グローブ賞(以下GG賞)の授賞式が行なわれました。アメリカの映画・TVの一大祭典であるこのセレモニーは、本コラムでも数回に渡ってお伝えして参りました。よく「アカデミー賞前哨戦」と銘打たれることが多いこの式典、昨年は4名のGG賞受賞俳優達がオスカーも合わせて獲得しています。けれども、アカデミー賞で最優秀作品賞に輝いた「クラッシュ」(邦題)は、GG賞において助演男優賞と最優秀脚本賞にノミネートされるも敗退…と、最終的には何が起こるか分からないのが実情なのですが。それでは、ドキドキワクワクの連続だった今年のGG賞の模様と、気になるその結果をいち早く、そしてどこよりも詳しくお伝えしたいと思います。

  ウィル・スミス 写真提供HFPA

まず、今年の最優秀映画賞・ドラマ部門は「バベル」(邦題)に栄冠。授賞式の一番最後まで引っ張られたこの賞は、カリフォルニア州知事のシュワちゃんことアーノルド・シュワルツェネッガーから発表されました。最多7部門にノミネートされていた本作品も、最終的に獲ったのはこの部門のみ。ですが、日本を含めた世界の3箇所・計5ヶ国語で繰り広げられる本作品の内容にちなんだアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の「映画のパワーはユニークで、結局は感情というものに翻訳なんていらない。それが映画の美しさなんだ」という名コメントは、今年のセレモニーを締めくくるにふさわしいものでした。

また、「ドリームガールズ」(邦題)も3部門において大健闘しました。まずは今年の授賞式で一番最初に発表された最優秀助演女優賞・コメディ/ミュージカル部門に、ジェニファー・ハドソン。期待されていた日本人女優・菊池凛子さんは惜しくも受賞を逃しました。3年前に人気番組”American Idol (Fox)”(スター発掘番組) で惜しくも敗退したハドソンですが、そのパワフルな歌唱力と、新人とは思えない落ち着いた佇まいは確かに圧巻。昨年の最優秀助演男優賞獲得のジョージ・クルーニーからトロフィーを手渡されたハドソンは「今までずっと夢見て来たけど、こんなに大きな夢はかつて見たことない。私が想像してきたことの何もかもを超えてる」と号泣のスピーチ。黒人女優として史上2人目のゴールデン・グローブ受賞(ウーピー・ゴールドバーグが過去2度受賞)となりました。また、「ドリームガールズ」は最優秀映画賞・コメディ/ミュージカル部門と、最優秀助演男優賞・コメディ/ミュージカル部門も獲得。栄えある受賞者となったエディ・マーフィーは、GG賞において過去4回のノミネートを経て、今回めでたくも初受賞。ハマり役のシンガーを見事に演じました。今までのようなコミカルな一面も見せつつ、シリアスタッチな部分でも魅せる俳優として認められたようです。

最優秀主演男優賞・ドラマ部門は”The Last King of Scotland”(原題)のフォレスト・ウィテカーの頭上に。「レオ(ディカプリオ)、ウィル(スミス)、ピーター・オトュール、そして再度レオ(ダブルノミネートだったディカプリオを受けて)といった面々に混ざることが出来て、とてもハッピーだよ」と、ちょっと控えめにコメント。そんな彼が、ウガンダの独裁者であったイディ・アミン元大統領を力強く演じた本作品は「スモーク」(1995)や「ゴースト・ドッグ」(1999)に並ぶ、ウィテカーの代表作となりそうです。

最優秀主演男優賞・コメディ/ミュージカル部門は”Borat: Cultural Learnings of America for Make Benefit Glorious Nation of Kazakhstan”(原題)のサシャ・バロン・コーエンに。昨年度、良い意味でも悪い意味(度重なる訴訟を含め)でも「ボラット旋風」を巻き起こしたコーエンは「僕はアメリカの暗黒面、醜い部分を見たね」とスピーチ。コメディアンらしく共演者とのからみを示唆したシニカルなコメントで、会場を笑いで包みました。

ドラマ映画部門とTVミニシリーズ部門で最優秀主演女優賞をダブル受賞したのは「クイーン」(邦題)と”Elizabeth I (HBO)”(原題)に出演したヘレン・ミレン。「観客が彼女に恋したんだから、この賞はエリザベス女王にふさわしいわ」と謙虚なコメントでしたが、今後エリザベス女王と言えばミレン!とでも言えそうなハマリ役での2冠。女王として、そして母親としての葛藤を見せたヘレンのエリザベス女王。コケティッシュかつチャーミングな表情も見どころです。

メリル・ストリープ 写真提供HFPA

最優秀主演女優賞・コメディ/ミュージカル部門は、これで6度目のGG賞獲得となる「プラダを着た悪魔」(邦題)のメリル・ストリープ。名女優としてまさに貫禄の受賞となりましたが、コメディ部門においては、実は今回が初。「みんなに知っておいて欲しいの。昨年は映画を観るのが楽しい1年だった…あなた達、ギャルのおかげでね」と、共演者・ノミネートした女優達に送った余裕のコメント。彼女がいたからこそ面白いと言っても過言ではない程の出来だった「悪魔」なる演技に、誰もが納得の受賞となりました。

最優秀監督賞は「ディパーテッド」(邦題)のマーティン・スコセッシが受賞。いつも早口な監督が更に「今日はいつもよりも早く喋るよ!」と、長々としたセレモニーにチクリとやりつつ、「(ジャック・ニコルソン含む名優達との撮影について)本当に素晴らしい時間だった!レオとは3回目だったけど、もっと一緒に出来るといいな」とコメント。スピーチにまで引き合いに出すとは、すでにディカプリオのお父さんみたいなスコセッシ監督なのでした。

最優秀外国語映画賞には「硫黄島からの手紙」(邦題)が、これまた納得の受賞。俳優・監督としても超ベテランであるクリント・イーストウッド監督は、最優秀助演女優賞を獲ったジェニファー・ハドソンのスピーチの一部を茶目っ気たっぷりにパクり、「君達にはこれが僕の自信にどうつながるか分からないだろうな」と始めました。「良い気分だ。この作品が紙上のものだった時、みんながみんなモノになるなんて思っていなかった」と、本作品が公開までこぎつけるのを支援して来た仲間達と、受賞の喜びを分かち合いました。

  会場の様子 写真提供HFPA

TV部門では、ABCの圧勝とも言える受賞が続きました。昨今の人気ドラマは、ほとんどがABCで放送中のもの。この勢い、どこまで加速するのでしょうか?結果は、最優秀TVシリーズ・ドラマ部門を人気ドラマ”Grey’s Anatomy (ABC)”が、ミュージカル/コメディ部門では新作”Ugly Betty (ABC)”が受賞。昨年スタートの新ドラマだった”Ugly Betty”の主演女優であるアメリカ・フェレラは、最優秀主演女優賞・TVミュージカル/コメディ部門も獲得。彼女のビッグスマイルが会場に咲き「美は目に映るもののもっと奥深くにある」というテーマを見せつけました。大好きなTVシリーズが連続受賞ということで、筆者的には感無量といったところ。”24 (Fox)”や”Lost (ABC)”, “Prison Break (Fox)”や “Desperate Housewives (ABC)”などを筆頭に、アメリカンドラマが日本でも大人気ということで、eigafan.com読者の皆様にはこれらのGG賞獲得作品を「先物買い」しておくことを、強くオススメします。

最後に、映画界に貢献した者に贈られる「セシル・B・デミル賞」に、本年度は俳優・脚本家・プロデューサー・監督として知られるウォーレン・ベイティが選ばれました。トム・ハンクスがプレゼンターとして登場し、69歳となるベイティは会場の観客からスタンディング・オベーションで迎え入れられました。大女優であるアネット・ベニングの旦那様としても知られる彼は「アネットの旦那として控えめにやっていくのは簡単じゃないよ…(今後も)やってみるけど」とジョーク。「俺たちに明日はない」(1967)や「バグジー」(1991)などで活躍してきた名優の素顔は、かなりの愛妻家のようでした。

今回のGG賞の結果、皆さんにはどう映ったでしょうか? 1月28日に開催される、俳優達が選ぶ俳優達のためのセレモニー、第13回SAG (Screen Actors Guild)アワードや、2月25日に開催が迫る第79回アカデミー賞に、今回の結果がどう作用するのか?かなり楽しみです。更に詳しいGG賞の結果は、HFPA (Hollywood Foreign Press Association)公認のホームページからどうぞ!受賞者の☆マークの横のビデオマークをクリックすると、式典終了後のインタビューも視聴可。興味のある方々は是非そちらもご覧下さい。長いセレモニーを終えた受賞者達のあまりにお疲れな表情に、何だかちょっと同情…そして、ちょっぴり笑えちゃいます。

ゴールデン・グローブ賞 全受賞者リスト


TEXT BY アベマリコ

投稿者 eigafan : 19:17 | トラックバック

2007年01月12日

80年前のハリウッドスター「早川雪舟」<1>

日本人俳優にとって、ハリウッドがはるか彼方の存在だったのは遠い昔の話。渡辺謙が胸を張ってオスカーのレッドカーペットをのし歩き、ブラピと共演した菊池凛子が助演女優賞にノミネートされる。以前はハリウッド俳優の引き立て役に過ぎなかった日本人俳優が、今では重要な役割を演じているのは、日本人としてはうれしい限りだ。

ところで、渡辺謙さん以前にも、ハリウッドで大活躍した日本人俳優がいたのをご存知だろうか?世界のミフネ?そう、三船敏郎さんももちろんハリウッドに大きな足跡を残した人だが、そのミフネさんが生まれて間もない頃、無声映画の時代にハリウッドの頂点に上り詰めた日本人俳優がいたのだ。
早川雪舟。当時のトップスターの1人としてハリウッドに君臨し、主演作品は数知れず、ハリウッドでもっとも稼ぐ俳優の1人だった。当時のお金で1ヵ月3万ドル、貨幣価値が20倍になっているとして月に6000万円、今日で言えばトム・クルーズやブラピなみのギャラをとっていた。実際、当時はトム・クルーズ級の大スターで、主演作品はすべて大当たり。白人女性に大モテでブロマイドが飛ぶように売れ、ハリウッド女優と浮名を流し、ロサンゼルスにハヤカワキャッスルと呼ばれる超豪邸を作って夜毎のパーティーを繰り広げ、当時の人々の度肝を抜いた。やがては自分の映画会社を設立し、全米でヒット作を連発する。
まるでおとぎ話の様だが、すべて本当の話。今回は、渡辺謙さんの大先輩、早川雪舟にスポットを当ててみよう。

ちょっとコワイ顔だが当時のアメリカ人にはサムライを連想させた

生まれたのは1889年だというからずいぶん昔の人だ。千葉県の名門家庭の次男だった彼は、親の期待を一身に背負って海軍幼年学校に入学する。しかし、事故で片方の耳が聞こえなくなってしまい退学。将来に絶望した雪舟は、切腹を試みる。しかし、すんでのところで父親に発見されて一命をとりとめる。こうなったらアメリカにでも行ってみようと、米国に留学、名門シカゴ大学の学生となった雪舟。アメリカ生活にも慣れてきたある日、ロサンゼルスを訪れた彼は、そこの劇場で初めて舞台を見る。「これは面白そうだ」と思った雪舟は、早速頼み込んで舞台に立たせてもらう。ここから雪舟のシンデレラストーリーがはじまる。

やがて雪舟は「タイフーン」という舞台の役を射止め、本格的に演劇活動を始める。そうこうするうちに、たまたまタイフーンを見に来ていたハリウッドプロデューサーのトーマス・インスは、この劇および雪舟を一目で気に入り、同じキャストで映画化することを思いつく。しかし、彼はまだ学生の身。本格的な俳優になるなんて考えたこともなかった雪舟は、インスを諦めさせようと、「週500ドル(約6万円)くれるならやってもいいよ」と高飛車な返事をする。アメリカ人の平均年収が15万円そこそこだった頃の話である。ちなみに月収ではなく年収。今の平均年収が350万円としたら、500万円くらいか。それだけのギャラを毎週払えと言ったのだから、いかに非常識か想像がつこうというもの。しかもどこのウマの骨とも分からない日本人の新人俳優だ。ところがさすが腕利きプロデューサー、この途方もない申し出をOKしてしまう。こうして日本人ハリウッドスター、セッシュウ・ハヤカワの華々しいキャリアがスタートするのだ。(次回に続く)


TEXT BY 岩下慶一

投稿者 eigafan : 12:55 | トラックバック

2007年01月10日

続!ゴールデン・グローブ賞の見どころ マニアック版

あけましておめでとうございます。皆様にとって、昨年はどのような年でしたでしょうか?良い一年だったなあ、という方も、う~んイマイチ、という方も、2007年が素晴らしい年でありますようお祈りします。それでは前回に引き続き、目前に迫ったゴールデン・グローブ賞のお伝えし切れなかったノミネート者・作品達と見どころをレポートしていきます。

まず、映画部門の中でも最も気になるひとつ、最優秀監督賞には”Flags of Our Fathers”(邦題:父親達の星条旗)と”Letters from Iwo Jima”(邦題:硫黄島からの手紙)でダブルノミネートを果たしたクリント・イーストウッド、”The Queen”(邦題:クイーン)のステファン・フレアーズ、”Babel”(邦題:バベル)のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、”The Departed”(邦題:ディパーテッド)のマーティン・スコセッシがノミネート。どれも人気作品で、甲乙付け難い選出となっていますが、全米ではまだ限定公開中の「硫黄島からの手紙」が様々な賞にノミネート、あるいは獲得をしており、最も注目される作品と言えるでしょう。筆者も、スタジオで行われた上映会にお邪魔することが出来たのですが、映像・ストーリー・人間描写、そして低予算・全編日本語のハンディを乗り越えたクオリティは、どれを取っても候補作品としての資格十分です。
さて、TV部門のノミネートに目を転じてみましょう。最優秀TVシリーズ賞・ドラマ部門に”24” (Fox)、”Big Love”(HBO)、”Grey’s Anatomy” (ABC)、”Heroes” (NBC)、”Lost” (ABC)がノミネート。日本でも大人気の「24」と「Lost」ですが、ここでの注目作品は「Heroes」でしょう。本年度9月より始まったこの新ドラマは、ごく普通の人々がフツーじゃない能力を突然身に着けてしまう…といったかなりユニークなお話。今年スタートのドラマの中でも、かなり人気となっている作品。毎週見どころ満載のこのシリーズは、学校でも評判でした。本年度のエミー賞をさらった「24」が来るか、毎週木曜日はこれ!という程に人気の「Gray’s Anatomy」が来るか、それとも新参者の「Heroes」が来るか、注目のカテゴリーとなっています。

最優秀女優賞・ドラマ部門には”Medium” (NBC)のパトリシア・アークエット、”The Sopranos” (HBO)のエディー・ファルコ、”Lost” (ABC)のエヴァンジェリーネ・リリー、”Grey’s Anatomy” (ABC)のエレン・ポンペオ、”The Closer” (TNT)のキーラ・セドグウィックが選ばれています。映画「トュルー・ロマンス(1994)」でアラバマ役の好演が光ったアークェットが「死体と会話し、未来を予測できる女性」に扮したことも注目ですが、LA警察の女性刑事に扮したセドグウィックのスマートな演技、そして人気シリーズでの地位を確立しているポンペオにも期待が寄せられます。

最優秀男優賞・ドラマ部門に”Grey’s Anatomy” (ABC)のパトリック・デンプシー、”Dexter” (Showtime)のマイケル・C・ホール、”House” (Fox)のヒュー・ラウリー、”Big Love” (HBO)のビル・パクストン、そして”24”(Fox)のキファー・サザーランドがノミネートされています。今年最もセクシーな俳優に選ばれたデンプシー、伝説的な人気ドラマ「Six Feet Under」でゲイの葬儀屋の息子を演じて人気を博していたホール、更には日本でもお馴染みのサザーランドが競い合うこのカテゴリー、結果が気になります。

そして、最優秀TVシリーズ賞・コメディ/ミュージカル部門には”Desperate House Wives” (ABC)、”Entourage” (HBO)、”The Office” (NBC)、”Ugly Betty” (ABC)、”Weeds” (Showtime)がノミネート。中でも注目されているのは日本でも人気となっている「Desperate House Wives」や、性別・年齢問わずファンの多いのブラック・コメディ「The Office」ですが、筆者が最も気になっているのが「Ugly Betty」。以前にもご紹介した、NYのファッション雑誌界で「醜いアヒルの子」のように奮闘するベティーを描いたこの作品は、キャラクター設定や一話一話の展開がコミカル且つお見事。主演のアメリカ・フェレラは最優秀女優賞・コメディ/ミュージカル部門にもノミネートされる演技を見せており、本年度の新作ドラマのうち、最も視聴率を取ったドラマであるのも納得。プロフェッショナル達が活躍する撮影風景を見学に行けた!という筆者の個人的思い入れもある為、絶対に取って欲しい作品です。

そして、今回のゴールデン・グローブ賞に「バベル」の菊池凛子さんが最優秀助演女優賞・ドラマ映画部門にノミネートされていることは前回ご紹介しましたが、もうひとりノミネートされている日本人がいるのはご存知でしょうか?前述の人気SFドラマ”Heroes” (NBC)の登場人物のひとり、ヒロ・ナカムラことマーシー・オカさん。最優秀助演男優・TVシリーズに選ばれています。オカさんは、東京生まれのLA育ち。日本語・英語・スペイン語を操り、俳優業と合わせてCGアーティストとしても活躍するユニークな経歴の持ち主です。「Heroes」の中では、突然「時間を止められる能力」を身に付ける役柄ですが、そのコミカルなオタクキャラも見どころ。今後は更に重要なポジションへと進出していくようなので、彼の人気にもますます拍車がかかりそう。菊池さんと合わせて、オカさんも応援したいと思います。

今年のTV部門のノミネート作品を見ると、今のアメリカの流行が見えてきます。「Heroes」や「Medium」などの超能力もの、「24」や「Dexter」、「The Closer」などの警察ものが人気の様子。こういった中で、他を圧倒する個性を発揮し、ゴールデン・グローブ賞の栄冠が輝くのはどの番組・俳優陣になるのか?来たる1月15日が、かなり楽しみです。日本ではまだ放映されていないTVシリーズも、いくつかはホームページ上で視聴可能。この冬休みに、雰囲気だけでもご覧になってみてはいかがでしょうか?今後、日本のお茶の間にも登場しそうな、アメリカンドラマを先取り予想するのも、なかなか面白いかもしれません。

今回は、本年度最後のコラムでした。来年も、様々なカテゴリーの気になるニュースをお伝えしていきたと思いますので、よろしくお願いします。それでは皆様、ステキな年越しをお迎えください。Happy New Year!!!


TEXT BY アベマリコ

投稿者 eigafan : 12:10 | トラックバック