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2009年04月 アーカイブ

2009年04月02日

『フロスト×ニクソン』~2人の栄光と凋落の歴史を築いたテレビの力~

プロダクションノートをご紹介するこのコーナー、
今回も現在大ヒット上映中の『フロスト×ニクソン』から。
 
2人の栄光と凋落の歴史を築いたテレビの力

 劇作の過程で、脚本のピーター・モーガンは、テレビがフロストとニクソンの公的な性格をどのように作り上げたかについて徹底的な調査を行った。そこで彼が発見したのは、いかにテレビが決定的な影響力を持ち、それを2人の男がいかにうまく利用したかという点だった。

 権力の座をめざすニクソンにとって、当初、テレビはかけがえのない同盟者だった。1952年9月、ニクソンはテレビ・カメラの前で感情的な自己弁護(チェッカーズ・スピーチ)を行い、共和党副大統領候補の立場を脅かす倫理スキャンダルを見事に乗り切った。さらに1954年3月、副大統領だったニクソンは、テレビ中継された陸軍対マッカーシーの公聴会で名演説を行い、名を馳せた。

だがテレビは、永遠にニクソンの友ではなかった。1960年の大統領選でジョン・F・ケネディを相手にテレビ討論を行ったとき、カメラの前でダラダラと汗をかいたニクソンは、冷静で颯爽としたケネディのテレビ映りの良さの前に、完膚無きまでに敗れたのだ。このときの苦い教訓は、その後の大統領時代に生かされることになった。1968年の大統領選に勝利して第37代合衆国大統領に就任したニクソンは、苦心してテレビ映りをよくし、つとめて近づきやすい印象を与えようとした。その試みは成功し、ニクソンは二期にわたって盤石の政権を築き上げたかに思えたが、1972年6月に発覚したウォーターゲート事件によって、ニクソンは2年後の辞任に追い込まれていく。

 盗聴器設置の失敗に端を発するウォーターゲート事件の詳細を報じる過程で、テレビは、同事件の捜査に絡んでニクソンが犯した司法妨害と権力の乱用の罪業を、国民の頭にしっかりたたき込む役目を果たした。そのせいで、ニクソンの二期にわたる在任中の成果は影が薄くならざるを得なかった。しかし、1974年8月9日の大統領辞任から月日が流れ、次第に人々の記憶から罪の詳細が薄らいでいくにつれて、この元大統領は、自分の業績をアピールするための方策を探し始めた。時には友となり、時には敵となったテレビのインタビューに、もう一度だけ自分の運を賭けてみることにしたのだ。とはいえ、抜け目のない彼は、自分で戦いの基本ルールを決め、できるだけ弱小な人物を対戦相手として選ぶことに決めた。そして選ばれたのが、デビッド・フロストだった。

 イギリス人のデビッド・フロストは、1960年代に若きコメディアンとしてテレビの仕事を始め、BBCの風刺的な疑似ニュース番組「That Was the Week That Was」の司会者として一躍人気者になった。その後、攻撃的なインタビュー番組「The Frost Programme」を成功させた彼は、イギリスでヴァラエティ番組の司会を続けながら、アメリカでもセレブをゲストに招いたトークショー「The David Frost Show」のホストをつとめることになる。リチャード・バートンからローリング・ストーンズまでの多彩なゲストを招いたそのショーは、1969年から1972年まで地方局のシンジケートで放映されるが、打ち切りを宣告されたとき、フロストは自分を雇ってくれるアメリカの他の放送局を見つけることができなかった。

 結局、ネットワーク進出の夢が叶わないままアメリカから退場することになったフロストは、オーストラリアでセレブのトークショーを続けながら、アメリカの放送界に再チャレンジするチャンスを狙っていた。彼がリチャード・ニクソンのインタビューの企画を思いついたのは、そんなときのことだ。企画を実現するにあたり、フロストは、自分がこの仕事に適任であることをたくさんの人々にアピールしなければならなかったが、皮肉なことに、彼の「軽量級」というの評判のおかげで、ニクソンはインタビューを承諾する気になったのだった。
 
 1977年5月、フロスト×ニクソンのインタビュー特別番組が4夜にわたって放映されたとき、ニクソンのカリスマ性が顔のクローズアップによって減少し、彼がプレッシャーのせいで告白へと導かれたことを、誰よりも先に理解したのは政治家たち自身だった。その瞬間から、テレビは被写体のメッセージを伝えるばかりでなく、それにも増して人格を伝えるために使われるようになる。このようなメディアの成熟と、テレビの政治への影響は、脚本家のモーガンが作品の基本線に取り入れたものでもあった。モーガンは、このストーリーを紡ぐに当たって、すべてのものを等価にしてしまうテレビの力を鋭く意識した。

彼のストーリーの中で、2人の男たちは、破滅あるいは復活という命運を賭けてサイコロを振り、持てる力すべてをそこに費やす。ニクソンは、弁護士あるいは政治家としての豊富な技能を。フロストは、他人に心を開かせ、告白を引き出す能力を。そして、こんな対決がテレビにぴったりと似合ったのだ。

それぞれの思惑を胸に、テレビカメラの前に立ったフロストとニクソン。
表と裏で繰り広げられる息詰まる駆け引きを、ぜひスクリーンでお楽しみください!

【フロスト×ニクソン 公式サイト】

TOHOシネマズ シャンテほか全国大ヒット上映中!
(c)2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

2009年04月23日

『デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく~』~秘密と嘘~

プロダクションノートをご紹介するこのコーナー、
今回は5/1(金)公開の『デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく~』から。
 
秘密と嘘

 高い評価を受けた2007年の監督デビュー作『フィクサー』のあと、脚本家/監督のトニー・ギルロイは再び業界の裏社会を作品化しようと決めた…が、今度はロマンスも取り入れたかった。そして、ライバル企業同士が、最初に魔法の新製品を市場化しようと執念を燃やす容赦ない競争を背景に、紆余曲折に満ちたストーリーを作り上げた。

もともとギルロイが『デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく~』のアイデアを抱いたのは、微妙に入り組んだ産業スパイの内情に魅せられたからだ。大ヒット映画『ボーン・アイデンティティー』シリーズの3部作の脚本を書く際に取材の日々を過ごし、諜報活動の現場にいる多くの人達と出会った上、しかも彼らの多くが最近、民間に移ってきたことを知った。そこで、この業界を舞台に機知に富んだ脚本を練り上げ、逆転に次ぐ逆転という古典的犯罪物の筋立てに、ひねりの利いたコメディを組み合わせた。
このストーリーの設定に関する取材や発想について、彼によれば、「企業窃盗についての統計では、その被害額は毎年500億ドルから1000億ドルに上るそうだ。世界の大企業のうちで、何らかの防御的または攻撃的な情報収集を扱うため、他社と競い合う情報部門のない企業はひとつもないし、それは基本的にはスパイ組織だ」

 この映画作家は、二つの巨大企業間で勃発した冷戦を構想した。実は、その戦いの真っ最中に、スパイたちは、それぞれの雇い主たちをペテンに掛けようと画策している。彼はライバル企業の大立者同士のあいだに、錯綜した虚偽の網を作り上げ、その筋書きの中にスパイたち二人をはめ込んだ。しかも、二人の間の愛情はその策略そのものと同じぐらいの大きな価値が掛かっているのだ。
この星の巡り合わせの悪いカップルは、元CIA 諜報員クレア・ステンウィックと、元MI6 諜報員レイ・コヴァル。ギルロイが強調したのは、二人の恋愛関係のもつれでどちらも仕事がやりにくくなり、さらに互いに嘘に嘘を重ねることで、相手が敵なのか味方なのか判らなくなってしまうというところだ。「二人は絶対に本当のことを言わない。誰もが誰かの裏をかこうとしている。あらゆることが、見た通りのものでは決してない」

彼がこのカップルを思い描いたとき、この映画作家の頭につねに興味深い疑問が浮かんだ。
「もし二人が恋に落ちて、しかも両方ともプロの嘘つきだったなら、いったいどんな風になるだろうと思ったんだ。それは二人にとってとてもきついはずだ。でも、ほかに誰が代われるっていうんだ? 二人とも同じ種に属してるんだからね」

『フィクサー』で巨大法律事務所の裏側にスポットを当てた
トニー・ギルロイが次に目をつけたのは世界の大企業の裏側で暗躍するスパイ達。

ぜひ劇場で、トニー・ギルロイ流<スパイムービー>をお楽しみください!

【デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく~ 公式サイト】

5/1(金)、TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー
(C)2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

2009年04月28日

『デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく~』~俳優同士の格闘―リハーサル~

プロダクションノートをご紹介するこのコーナー、
今回は5/1(金)公開の『デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく~』から。
 
俳優同士の格闘―リハーサル

 まず、機関銃のような会話のやり取りにテンポを合わせられるように、ギルロイは撮影の前に数週間を費やしてジュリアとクライヴの出るシーンをリハーサルした。「いつも、だれもが何か予期せぬ素晴らしいことが起きるんじゃないかなと望んでるし、願っているものだけど、今回はそれが起こった。クライヴとジュリアのあいだには抜群の相性の良さがあったし、とても小粋なものだったよ」

ジュリアは映画の準備に用意された数週間を歓迎し、ギルロイの言葉によれば、「自分の役という衣装」に身を滑り込ませていった。さらに、彼女はすぐに役に飛び込むのではなく、リハーサルのために時間が使える贅沢にも喜んだ。すべてのリハーサルの時間は、役者たちがギルロイの速射砲のようなセリフを書かれたとおりに表現する準備にとられることになった。

 映画のオープニング場面で、われらが二人のCEOは互いに向かって突進する。ウィルキンソンは、ダンス・スタジオでジアマッティと一緒に意欲満々で格闘をリハーサルした。この場面では、ハワードとディックがそれぞれのプライベート・ジェットから降り立つや、まさに運動場の子供同士のような喧嘩に突進する。このシーンを準備するため―二人の大の男が、レスリングマットの上で、コミカルな取っ組み合いを練習した。

フォックスは思い出して、「全ての動きはスタントマンにつけてもらったし、地面には詰め物を置いたのよ。ある瞬間は、トムがポールを抱え上げて宙吊りにし、地面に叩きつける場面もあった。二人のげんこつもバンバン飛び交うし。まったく突拍子もなくって、最高だったわ」

映画をよりおもしろく、よりリアルに見せるために
俳優たちはリハーサルにも全力投球で取り込んでいます!


【デュプリシティ ~スパイは、スパイに嘘をつく~ 公式サイト】

5/1(金)、TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー
(C)2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

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