セールス・エージェントの役割

 映画は企画に始まり、脚本、キャスティング、撮影、編集、ポストプロと多くの過程を経て、完成されていく。完成した映画は配給されて初めて収益を生む。だから配給権を売らなければならない。売り手と買い手を引き合わせて売買をまとめてくれるのが“セールス・エージェント”の役割だ。エージェントは、カンヌやミラノ、サンダンスやアメリカン・フィルム・マーケットといった著名な映画祭に出品して、買い手を探して交渉する。
 買い手は世界各国の配給会社だ。エージェントの見つけてきた買い手との間で配給権の売買が成立すると、売り手と買い手が配給契約を結ぶ。だからエージェントが買い手との間で配給契約を結ぶことはない。商談がまとまり、買い手が保証金を支払うと、エージェントは、その中からパーセンテージで手数料を受け取るという課金システムをとる。手数料は、配給権の値段の5%から50%までケース・バイ・ケースだ。映画の配給権はジャンルや主演スター、地域ごとに値段が異なる。この手数料以外に、映画祭出品、宣伝活動などにかかった経費をエージェントに支払う。映画祭によって経費は異なる。参加者数、宿泊日数、パーティやレセプションの規模、スターのギャラなどでも予算は大きく変わる。


映画祭出品のための諸経費見積もり

映画の種類 諸経費見積もり
低予算映画(1,000万ドル前後) 1万ドル~3万ドル
低予算映画と大作の中間の映画 12万5,000ドル~20万ドル
大作級映画 2万5,000ドル~5万ドル
映画祭公式選定映画(独立系) 5万ドル~20万ドル
映画祭公式選定映画(スタジオ映画) 25万ドル以上
※宣伝広告費、試写経費、レセプション、宿泊費、俳優送迎などの経費を含む/ハリウッド・レポーター誌より

テッド・ローゼンブラットさんは、独立系制作会社が作る映画を海外に売るセールス・エージェントだ。エージェント歴15年。年間4~5本の映画の販売を担当する。「エージェントの仕事は幅広い。完成した映画を海外の配給会社に売る場合もあれば、未完成の映画を前売りする場合もある」と言う。
 配給権の売買を仲介する他、独立系制作会社に制作資金を融資する銀行から、「配給権の決まっていない地域“ギャップ”の値段の見積もりを依頼されることが多い。銀行が融資額を決める際の判断材料になるので、常に国際市場の動きに敏感でなければならない」と、制作段階でのエージェントの役割を指摘する。映画の資金調達に参与する場合には、プロデューサーとしての報酬とクレジットをもらう。どういった職務を果たすかによって料金体系は異なる。
テッド・ローゼンブラットさん
映画を売るエージェントは、ハリウッドに100社以上いるといわれる。良いエージェントとは、「映画に資金を融資する銀行や業界での評判が良いことが重要」という。銀行、制作会社、完成保証ボンド会社そして配給会社とのコネがものをいうビジネスだから。
 映画は出来上がったけど、どうやったらアメリカやヨーロッパに配給権を売ることができるのか、といった質問は多い。だれがどんな映画を探しているのか、だれがどんな映画を作っているのか、的確な情報とネットワークをもつエージェント探しが配給権販売の第一歩ということのようだ。

 配給権を買う側は、完成した映画であれば、試写して決める。完成していない場合には、脚本や俳優、監督らのネームバリューそして北米での配給が決まっているかどうかが買い付けの判断材料になる。

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